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宅配便最大手「ヤマト運輸」と、モビリティサービスプロバイダーとして躍進する「ディー・エヌ・エー」(DeNA)がタッグを組み、オンデマンドの配送サービス「ロボネコデリバリー」と、買い物代行サービス「ロボネコストア」を兼ね備えた「ロボネコヤマト」を開発。ラストワンマイルサービスの革新に挑んでいる。

ロボネコヤマトの実用実験は、2017年4月から2018年6月15日まで神奈川県藤沢市の限定エリア内で行われ、次世代型物流サービスとして注目を集めた。新サービスはいかにして生み出されたのか。プロジェクト開発の経緯や実験結果、将来の可能性などについて、担当責任者のヤマト運輸 設備管理部長 畠山和生氏と、ディー・エヌ・エー ロボットロジスティクスグループマネジャー 田中慎也氏に話を聞いた。

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【サービス概要】
ロボネコデリバリー

オンデマンドの宅急便サービス。スマートフォンで指定した好きな場所で、荷物を受け取れる。時間指定も10分刻みで可能。荷物の受け渡しは非対面方式で行われる。受付完了時に送られてくる二次元バーコードを、配送車内に設置された保管ボックスの読み取り機にかざして開錠し、荷物を取り出す。
ロボネコストア
買い物代行サービス。インタ―ネットの専用サイトで購入した商品が指定場所まで届けられる。配送の仕組みや受け取り方法はロボネコデリバリーと同じで、地域のスーパーや飲食店などが出店しており、複数の店の商品をまとめて購入できる。
ロボネコヤマト
「ロボネコデリバリー」と「ロボネコストア」を兼ね備えたプロジェクトの総称。宅急便と買い物代行の配送を効率よく行なうためのルートをAIが計算。ドライバーは提案されたルートにしたがって配送する。

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新たなニーズに応えるために開発を始めたロボネコヤマト

——ロボネコヤマトは、どのような経緯で開発されましたか。

畠山 近年のEC(電子商取引)の伸びとともに宅急便の利用が拡大し、ECを頻繁に利用する若年層の方々が宅急便の利用者に加わりました。そこで顕在化してきたのが「再配達問題」です。

若い世代の方たちは総じて在宅時間が短く、従来の朝8時から夜21時までの配達時間内に、自宅で荷物を受け取る仕組みでは、荷物の受け渡しが思うようにいきません。それが原因で、再配達の個数は増え続けていました。2017年10月期の宅配便の再配達割合は16%に上っていることも、国土交通省の調査で明らかになりました。

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	畠山和生氏
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ヤマト運輸株式会社 設備管理部長 畠山和生氏
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畠山 これまで弊社では新たなニーズに対して、コンビニでの受け取りや宅配ロッカー設置など、受け取り方法の多様化に取り組んできました。そしてさらなる改善のため、ロボネコヤマトのプロジェクトを立ち上げたのです。自動運転技術やAIを上手く活用すれば、将来的に再配達を大きく削減できるのではないかと期待してのことでした。

——トラックドライバー不足も問題視されているようですが、その点もプロジェクト立ち上げの後押しとなりましたか。

田中 自動運転で人手不足を解消するために始めたプロジェクトではありません。最新のICTを駆使し、お客さまの満足度を維持しつつ、いかに効率よく荷物をお届けするかというのが議論の中心でした。ドライバー不足と世間で騒がれるようになったのは、話し合いを始めて以降のことです。

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田中慎也氏
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株式会社ディー・エヌ・エー ロボットロジスティクスグループマネジャー 田中慎也氏
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畠山 そのとおりです。当社のドライバー数に近年大きな変動はないですが、再配達が増加し、配送現場の負担が大きくなっていることは確かです。また、受け手のニーズの変化により、夜遅い時間帯や土日に配達の依頼が集中しているのも課題で、その解消もロボネコヤマトの1つのねらいです。

築き上げてきた配送オペレーションとICTを融合

——開発はどのように進められてきましたか。

田中 私たちが開発でもっとも力を注いだのが、配送ルートを最適化するためのスケジューリングシステムです。単位時間あたりの配送数を増やすことに最大の関心がありました。

ヤマト運輸さんの配送オペレーションには、例えば信号がある地点以外では、右折をできるだけ避けて左折を多く使うなど、安全や効率化のために考え抜かれた独自のルールがあります。そのすべてのルールをシステムに組み込み、ヤマト運輸方式の配送管理システムを作りました。ルート計算はAIが行います。実証データをAIに随時フィードバックすることで、システムが高精度化されていく仕組みです。

またロボネコヤマトでは、宅急便に加え、買い物代行サービスも行います。そのため、宅急便の荷物を配送中に買い物代行の商品注文が入るので、どの配送車で対応すれば最も効率的か、リアルタイムで計算しながらルートを組んでいくシステムであることも特徴です。

畠山 システムの開発では、ディー・エヌ・エーさんは大変ご苦労されたのではないかと思います。日ごろヤマト運輸がドライバーに行っている安全運転の全要素を、ルート計算のシステムに組み込んでいただいたので。

田中 これまで作り込まれた既存の配送オペレーションと連携させ、新しいシステムを構築するのは簡単ではありませんでした。ただ、ヤマト運輸さんならではのしっかりした配送オペレーションがあったからこそ、素晴らしいシステムになったのだとも思っています。

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対談する畠山氏と田中氏
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——なぜロボネコストアのサービスを宅急便にプラスして行うことを考えたのですか。

田中 検証結果にも出ているとおり、オンデマンドの宅急便の場合、早い時間帯と遅い時間帯に注文が集中します。そこで、閑散時間帯に空いている車を使って何かできることはないかと考え、思いついたのがロボネコストアでした。

畠山 ロボネコヤマトでは、車内に設置された保管ボックスに荷物を入れて配送します。これは、非対面受取のために考えた仕組みでしたが、この保管ボックスこそが、宅急便の荷物と出前商品の混載を可能にしました。

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社内の保管ボックスの様子
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ロボネコヤマトの車内には保管ボックスが並んでいる
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畠山 しかし、いろいろ試行錯誤もあり、例えばスーパーだと商品はレジ袋に入れられます。そういった不安定な荷物をどう運ぶかについても、協議を重ねました。あと、通常荷物を受け取る際にはサインや押印をいただきますが、受領印なしというのも新しい試みでした。

田中 はい。防犯カメラと本人認証用カメラの2台を用意して、サインレスで宅配を完了できるようにしました。

畠山 また、二次元バーコードで個人認証して、荷物の入ったロッカーの鍵を解除する仕組みにしたので、なりすましはそうそう発生しません。

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指でタッチパネルを操作する様子
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利用者はタッチパネルの指示に従い荷物を受け取ることができる
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企業文化に違いこそあれ、チャレンジする姿勢は同じ

——複数ある宅配事業者、およびモビリティサービスプロバイダーのなかから、両社が双方を選んだ決め手について教えてください。

田中 私たちディー・エヌ・エーでは2016年2月、藤沢市でタクシーの自動運転の実証実験を行いました。旅客運送事業だけでなく物流事業においても、自動運転技術を活用した新しい取り組みを行っていきたいと考えていたところ、ヤマト運輸さんからお声がけいただいたのです。

畠山 物流に自動車は欠かせません。自動車に技術革新があれば、それを物流のために利活用できないかと、まず考えます。ですから、ディー・エヌ・エーさんが行っていたタクシーの実証実験のことを知り、何かプロジェクトをご一緒できないかと考えたのはごく自然な流れでした。

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対談する田中氏と畠山氏
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——ヤマト運輸は創業98年と歴史が深く、一方ディー・エヌ・エーは1999年設立の比較的新しい企業ですが、プロジェクトを進める上で、企業文化の違いなど困難はありませんでしたか。

田中 当然、両社に違いはあるだろうと思います。ですが、ヤマト運輸さんは個宅配送を日本で最初に始めた企業です。今回のロボネコヤマトのプロジェクトも良い例で、新しいことに前向きにチャレンジする企業文化をお持ちなのだと思います。その点において、両社の親和性が高いこともあって、プロジェクトの進行は大変スムーズでした。

畠山 ただ、弊社としては万が一、このプロジェクトで何か問題が起きて、お客さまの信頼を失うようなことがあっては、年間18億個ほどある既存の宅急便事業に支障をきたしかねません。そのことは常にプレッシャーに感じていたので、チャレンジしつつも、慎重にすべきところは慎重に進めました。

不在率0.53%、リピート率47.3%の実用実績

——そうして共同で立ち上げたプロジェクトですが、実験結果はいかがでしたか。

畠山 1日当たり20件~30件程度、最高で約50件の利用がありました。冒頭で述べたように再配達割合は16%という調査結果もありましたが、この実験での不在率は0.53%と極めて低く、当初の我々の目的は達成されたといえます。サービス利用者は30代~40代が中心。お客さまからもご好評をいただき、リピート率は47.3%でした。加えて、今年4月には公道を走る高いレベルの自動運転での実証実験にも成功しました。

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実験のタイムスケジュール
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2018年4月に行なわれた自動運転の実証実験の概要
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田中 荷物の受け取り方法がわからないなど、サービス内容についての誤解が原因で生じたものが数件あった程度で、大きなトラブルは1つも発生しませんでした。サービス設計を綿密に行ったのが功を奏したのだろうと安堵しています。

また、藤沢市は「さがみロボット産業特区」に参画していることもあり、協力態勢が整っています。以前、タクシーの自動運転の実験を藤沢市で行ったのもそのためです。

今回も藤沢市にご支援いただき、まちづくりについて市民が協議する「郷土づくり推進会議」に参加し、地域へのプロジェクト浸透のための説明の場を設けてもらったり、ロボネコストアの参加商店を募るための交渉では店側との間に入ったりしていただきました。藤沢市の協力もプロジェクト成功の要因だったと感謝しています。

自動運転を想定したことで見えてきた多くの副産物

畠山 ロボネコヤマトの配送では、通常の配送業務で使っている2トントラックではなく、ミニバンを使いました。今の段階では運転はドライバーが行うため、安全に走行するための技術は必要ですが、配送ルートはAIが計算するので、配送未経験のドライバーでも難なく業務を行えました。

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ロボネコヤマトのロゴがペイントされたミニバン
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ミニバンは車体が小さいため、荷物の受け渡しの際に停車しやすいという利点もある
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畠山 また、この配送サービスでは自動運転を想定しているので、ドライバーは荷物の受け渡しに関与しません。お客さまに車まで荷物を引き取りに来ていただくため、重たい荷物を運ぶことがなく、力の弱い女性ドライバーでも対応できます。事実、実証実験のドライバーは、8~9割が未経験者、男女比はおよそ1対1でしたが、何の問題もありませんでした。

ロボネコストアについては、出前サービスを始めたくても、人件費不足で着手できずにいたというような商店から、興味を持ってもらいました。ロボネコへの参加で、新規のお客さまを開拓できたという感想も多かったです。

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	黄色の扉の保管ボックス
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ロボネコストアでは地元商店街の商品なども購入できる
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田中 ロボネコストアには、若い世代のオーナーばかりでなく、年配の世代の方々にも出店いただきました。インターネット画面上の商品の見せ方の工夫についてなど、出店者が積極的に意見してくださったおかげで、サービスを熟成できた面もありました。

ラストワンマイル問題の解決に向け、できるところからサービスを実用化

——大変良好な結果だったようですね。ロボネコヤマトのサービス実用化の日も近そうですか。

田中 ニーズや安全面の検証が十分にでき、お客さまから一定の需要があることを確認出来ました。また、ドライバー未経験者でも配送ができる配送管理システムを構築できたのは収穫だったと思っています。

畠山 実用実験で提供したサービスをそのまま実用化できるかは分かりませんが、このシステムにさらに磨きをかけ完成させれば、雇用の裾野を広げられるでしょう。今後、就労人口が減っていくと予想されますが、そうなった場合にも、しっかり人材を確保できそうです。

ラストワンマイルの人手不足をよく耳にするようになりましたが、これは宅急便だけでなく、人・物の移動すべてに関する課題だと捉えています。法律の規制もありなかなか困難でしょうが、1台の車であらゆる物を運ぶなど、車をプラットフォームとした総合的な配送サービスの展開も摸索してみたいです

とはいえ、今回の実用実験の中で特に喜んでいただいたのが、受け取り時間を10分刻みで指定できるサービスでした。ロボネコ自体は一旦検証期間に入りましたが、これについては、自動運転の実用化を待つ必要がないので、既存のサービスにどのように活かすことができるか検討を続けていきます。

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「ロボネコデリバリーを今後も使いたいと思う理由」のアンケート結果。「10分単位のピンポイントで、好きな時間に受け取れる」が98.4%
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ロボネコデリバリー利用者に向けたアンケートの集計結果
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田中 ドライバーが運ぶのでも自動運転車が運ぶのでも、利用者にとって大事なのは荷物を確実に受け取れるかどうかです。自動運転にこだわることはない。それが、実験での新しい発見でした。配送効率の問題や駐車スペースの問題などの課題を踏まえ、今後の可能性をいろいろ検討していきたいと考えております。

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宅配便最大手「ヤマト運輸」と、モビリティサービスプロバイダー「ディー・エヌ・エー」(DeNA)がタッグを組み「ロボネコヤマト」を開発。ラストワンマイルサービスの革新に挑んでいる。その開発経緯や実験結果、将来の可能性などについて、両社の担当責任者に話を聞いた。
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取材・文:大西由花(POWER NEWS)、写真:井上秀兵