Content bands
Body

仮想通貨で脚光を浴びたブロックチェーン。その本質は、企業間の商取引や消費者の購買行動を大きく変える可能性を持つという。EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社は、ワインの生産や流通の情報管理にブロックチェーンソリューションを活用したコンサルティングサービスを提供している。ワインとブロックチェーンを結び付けたきっかけやそのメリットは何だったのか。サプライチェーンの専門家でもあるEYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社の梶浦英亮氏に、欧州のブロックチェーン事情に詳しい株式会社インフォバーンCVOの小林弘人が聞いた。

Style selector
grey_background
Body

梶浦 英亮

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング(EAYCC)パートナー テクノロジー担当。大阪大学・大学院卒。東京および上海に拠点を持つ複数のコンサルティングファームで業務とテクノロジーのコンサルティングを数多く経験する。現在はブロックチェーンをはじめとした先端テクノロジーを活用した、企業間連携についての様々なプロジェクトを手掛ける。

Style selector
border
Body

小林 弘人

インフォバーン株式会社 代表取締役CVO

『WIRED』日本語版、『GIZMODO JAPAN』など、紙とウェブの両分野で多くの媒体を創刊。1998年に株式会社インフォバーンを創立。企業メディアの立ち上げから運営とコンテンツ・マーケティング、オープン・イノベーションを支援。『BUSINESS INSIDER JAPAN』発行人、ビジネス・ブレークスルー大学・大学院教授、ベルリンのテクノロジーカンファレンスTOAの日本パートナーを務める。

Style selector
border
Body

非金融領域におけるブロックチェーンの可能性とは

小林 ワインとブロックチェーンというと意外な取り合わせです。ブロックチェーンというと仮想通貨のイメージが一般的ですね。

梶浦 はい。ブロックチェーンは仮想通貨の副産物とも言えます。仮想通貨はブロックチェーンの堅牢性や改ざん不能性の上に成立しています。

小林 現在は金融以外の分野でも活用され始めていますね。ベルリンではブロックチェーンに特化したコワーキングスペースが誕生しています。EYがワインとブロックチェーンを結び付けようとしたきっかけは何だったのですか。

梶浦 EYでは、継続的に最新のテクノロジーの評価をしています。ビジネスや社会へどのようなインパクトをもたらすのかを評価して顧客へのサービスに活かしているのです。

ブロックチェーンに関しては5年以上前から、仮想通貨だけではなくて非金融領域でも使えると考えていました。中央集権的なものから分散型という発想の転換は汎用性が高く、新しいものができるのではないかと。それが非金融領域でのブロックチェーン技術の応用が始まったきっかけです。

Style selector
no_background
Style selector
one_col
Media Item
Media
梶浦英亮氏
Caption
EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー 梶浦英亮氏
Body

小林 最初にブロックチェーンという技術に注目されていて、その応用分野として流通、ひいてはトレーサビリティが重視される高級嗜好品としてワインを選んだわけですね。

梶浦 その通りです。どういう応用が考えられるのかを大学などの研究機関と一緒になって検討していきました。

Style selector
no_background
Body

ブロックチェーンで実現される食の安心と安全

梶浦 ブロックチェーンはすでにダイヤモンドの取引で使われていたので、そこも参考にしています。ブロックチェーンのビジネスモデルとして考えられるソリューションの1つは偽装防止、不正防止です。分散管理でデータの偽造が起こしにくいという特徴を生かしています。その意味では、最初にダイヤモンドに着目したのは非常に合理的だったと思います。

食品のサプライチェーンにまつわるテーマには、安心安全の確保と偽装防止、そして日本では特に食品ロスの低減があります。食品の偽装は世界的な大きな問題で、世界のワインマーケットでは、流通するワインの5本に1本は産地を偽装していると言われています。

日本では想像できないかもしれませんが、海外でのワインの偽装は空き瓶に詰め替えるというような単純なものでありません。本物と見間違うようなワインを大量に流通経路に紛れ込ませる組織的なものです。それを解決する方策としてブロックチェーンが適しているのではないかと考えました。

小林 ワインが偽装されていないかどうか、消費者が実際に確認するときにはどのようにするのですか。

Style selector
no_background
Style selector
one_col
Media Item
Media
対談する梶浦英亮氏と小林弘人氏
Caption
株式会社インフォバーン 代表取締役CVO 小林弘人
Body

梶浦 レストランや家庭でワインを飲むときに、ワインのボトルについているQRコードを読んでもらいます。すると、生産者の情報、産地の情報が表示されます。

それだけでなく、何月何日にブドウが収穫されて、何月何日に圧搾されて、何月何日に樽に入れられたのかという情報もついています。生産の情報だけでなく、流通の情報、いつどこの港を出発して、どこを経由して日本に着いたかということまでわかるのです。

小林 生産地と流通経路に及ぶトレーサビリティが確保されているわけですね。

梶浦 はい。ワインは一定温度内で保管しないと品質が劣化します。物流の工程のなかで、一定温度域の中で管理できていたのか、という情報も見ることができます。安心安全の最低限の情報ですね。

偽装防止を主眼においたワインブロックチェーンソリューションを日本に展開するにあたり、訴求ポイントを変えています。日本では食品を食べるときに「これは偽物かな?」とは思いませんよね。最低限の食のクオリティは保たれています。ですから日本では、偽装よりも安心安全に対する関心が高い。ブロックチェーンを食品分野へ応用するときに、日本でポイントとなるのはそこだと気づきました。

Style selector
no_background
Body

IoTでミスを減らし“できるだけ”高い信頼性を

小林 消費者の手にわたるまでにはたくさんの工程を通ってくると思いますが、そのたびに情報をインプットする際の信頼性についてはいかがですか。入力するのはセンシングするデバイスですか、それとも人間が入力するのですか。

梶浦 ブロックチェーンはデジタルデータの器でしかありません。そこにデータを入れていくところは課題の1つです。人間の手で情報を入力することもできますが、手間がかかるし、ミスが起こる可能性があります。

ですから、できるだけIoTと連携する形で情報を入れていきます。EYが提供しているソリューションでは、入荷や出荷だけではなく、コンテナの輸送中の温度情報もすべてIoTで取得してブロックチェーンに入れていきます。ブロックチェーンに対してデータをミスなく入れられるような仕組みも提供しているのです。

Style selector
no_background
Style selector
one_col
Media Item
Media
ワインブロックチェーン概要
Caption
ブロックチェーンに各プロセスのデータを認証させることで改竄のない製造履歴を収集しワインのラベルからその情報の確認を可能とします(出典:EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社の資料を元にGEMBA編集部にて作成)
Body

小林 インプットからスループットまでをある程度オートマチックにして、信頼性を確保できるわけですね。

梶浦 リアルな物流の現場では、人間の手が介在する場面が必ず出てきますから、すべてをミスなくやることは難しい。それでも、人が介在する場面をできるだけ減らしていくことで、全体としての信頼性をできるだけ上げていこうとしています。あくまで“できるだけ”なんですが、安心安全を確保するために取り組んでいます。

Style selector
no_background
Body

信頼性が保たれるなら4割高くても買う?

小林 ワインのようにデジタルではないものにデジタルデータを結び付けるときの、信頼性の担保についてはいかがですか。詰め替えやQRコードの偽造などが考えられますが。

梶浦 そうですね。そもそも、ブロックチェーン技術の応用がダイヤモンドで始まったのには理由があります。ダイヤモンドは基本的に1つ1つ別の形状・特徴を持っていて、重さ、形状、光学的な特徴はほぼユニークです。それをブロックチェーンの最初に埋め込む。違うものと取り替えたときにはすぐにわかります。

一方で、我々が扱おうとしているのは大量生産品ですから、限界はあります。ワインに関していうと、出荷後に一度開栓したかどうかわかるという技術を日本とオランダの会社が開発していますし、QRコードの改ざん防止などの要素技術も出てきています。それらを組み合わせながら、できるだけ白に近づけていく。そういうアプローチです。

小林 わかりました。ブロックチェーン技術を使うと、そのコストが製品の価格にもある程度影響しそうですね。でも、生産から保存の状態までしっかり管理されていることがわかると、少しくらいは高くなってもいいかなと思う顧客もいるのではないですか。

梶浦 アンケートを取ってみると、認証された原産地でブドウが作られて、信頼できるワイナリーが生産したことがはっきりしているものは「4割高くてもいいですよ」という人が全体の70%以上でした。

私は海外駐在経験があるので、その感覚はよくわかります。信頼できる食品を買うには、まずお店を選びます。信頼できるお店なら少し高くても買います。偽装品を購入しないよう、買う人はお店で信頼性を確保しているのです。

Style selector
no_background
Style selector
one_col
Media Item
Media
対談する梶浦英亮氏と小林弘人氏
Body

小林 ブロックチェーン専門ワインショップがあったら4割高くても売れるわけですね(笑)。ワインの他にも製品にロジスティクスなどの情報を付けることで、まだまだ価値をあげていけるものがありそうです。

梶浦 これまでのコンサルティングの現場で一緒に仕事をしてきた生産や物流の現場の人たちは、品質に対して本当に手間暇をかけて仕事をしています。食品でいうと栽培履歴や貯蔵状況などについて細かな管理をして価値を保ち、高めている。しかし、その努力や価値が消費者に十分に伝わっていないと感じています。ブロックチェーンを使って、そういった価値をきちんと伝えていきたいですね。

関連記事

Style selector
no_background
Meta description
EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社は、ワインの生産や流通の情報管理にブロックチェーンを活用したサービスを提供している。それらを結び付けたきっかけやそのメリットとは? サプライチェーンの専門家でもあるEYの梶浦英亮氏に、株式会社インフォバーンの小林弘人が聞いた。
Header image
Display title
ワインとブロックチェーンのおいしい関係とは?――EY梶浦英亮×小林弘人
URL alias
/00170493
Header Type
standard_image
Metatag thumbnail image
ワインとブロックチェーンのおいしい関係とは?――EY梶浦英亮×小林弘人
Author Information
取材・文:井上俊彦、写真:井上秀兵