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モノとインターネットをつなぐ技術として知られる「IoT」だが、IoTのすごみはもっと別のところにあると「Connected Industries」エヴァンジェリストの大川真史氏は語る。これまでアナログ中心だった世界をデジタル中心に、価値の主体をモノからサービスに変えるというのだ。IoTが社会に与えるインパクトは、製造業にどのような影響をもたらすのか。デジタル化する社会で、製造企業が取るべき戦略について話を聞く。

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大川真史氏

ウイングアーク1st(株)Connected Industriesエヴァンジェリスト

1974年静岡県生まれ。大学卒業後、IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。明治大学サービス創新研究所客員研究員、東京商工会議所「スマートものづくり推進事業」専門家WG座長などを兼務。専門は製造業のサービス化、デジタル化による産業構造転換。官公庁・経済団体での講演、新聞・雑誌への寄稿多数。

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IoTは現実の世界にWebの世界を落とす技術

――製造業だけではなく、さまざまな場所でIoT化が進められています。改めて伺いますが、IoTとはどんなものなのでしょうか。

大川:多くの人は、IoT(Internet of Things)とは、さまざまなモノとインターネットとを接続し、情報交換により相互に制御し合う仕組みだとしています。「モノのインターネット」とも呼ばれ、法律(特定通信・放送開発事業実施円滑化法)では、IoTの実現を次のように定義しています。

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インターネットに多様かつ多数の物が接続され、及びそれらの物から送信され、又はそれらの物に送信される大量の情報の円滑な流通が国民生活及び経済活動の基盤となる社会の実現

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このように「モノがインターネットにつながる」などと表現されることが多いIoTですが、私は「ウェブの世界が現実の世界に落ちてきた」と捉えています。前者の表現は実物実体を主体とし、後者は仮想やネットなどを主体としていて、ものの見方が逆です。

つまりIoTとは、これまでリアルでアナログだったモノやコトがデジタルになり、誰もがその情報に気軽に触れられる、知ることができるようになり、ユーザーにとって新しい体験が起こる、ということです。

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インタビューに答える大川真史氏
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企業や団体にIoTをはじめとするデジタル化の必要性を説くエヴァンジェリストの大川真史氏
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大川:実はIoTという考え方自体は古くからあり、80年代にはすでに“デバイスが結ばれるネットワーク”というコンセプトに関しての議論が開始されていました。ただし、当時は例えば工作機械からのデータ取得は、何百万や何千万円と費用をかければ可能でしたが、いまはそれを1万円程度の安価なツールで実現できるようになった。コストが劇的に下がったのです。

またIoTの進化により、昔は専門家でないとできなかった複雑なシステム構築が、Webプログラミング言語に近いもので行えるようになるなど、どんどん簡単になりました。それによって、現場の人が自分でつくって自分で使って自分で改善することができるようになったのです。

――「ウェブの世界が現実の世界に落ちてくる」とおっしゃいました。これは具体的にどういうことでしょうか。

大川:新しい価値の創造が、現実世界ではなく主として仮想空間で行われるようになるという意味です。これこそがIoTが社会に与える最も大きなインパクトで、第四次産業革命の特徴でもあります。

現実世界でモノを使って何かをするより多くの時間をネットに費やす人もいると思います。これは、その人にとってモノを通じて得る満足以上に、ネット上のサービスを通じて得る満足が大きいからであり、仮想空間で高い価値が生み出されている証拠だといえます。

自動運転車を例に説明すると、将来、自動運転技術が実用化され、自動車のIoT化が進むと、車は自動走行し、さらに車がインターネットや交通網などのネットワークとつながる社会が実現します。すると自動運転タクシーや自動運転バスの利用が広まると考えられ、結果、必要なときに必要な場所で便利に公共交通を利用して、正確な時間で移動できるようになったとします。そうなると、自動車を所有する必要性は自ずと薄まるのではないでしょうか。

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IoTによってさまざまなものがつながるイメージ
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自動車の車種や走行性能といった現物の価値より、仮想空間で生み出されるサービスの価値が重視される。そうした価値観の転換が、IoTを中心とする第四次産業革命で今後、次々に起こってくると考えられます。

これからの時代の主役は「モノ」ではなく「体験」

――IoTのインパクトとは、非常に大きなものなのですね。

大川:そのため「製造業のサービス化」の動きが加速しています。製造物から対価を得るという従来の考え方から、これからの価値はユーザーが製品を使用して得た体験から生まれるため、サービス的要素も含めてモノを提供すべきとする考え方へのシフトが起こっているのです。

先述した自動運転と同様、デジタル化する社会では多くのモノはデバイスとなるため、製品そのものというよりも、その製品を通じてどのような体験が得られるかに価値の比重が置かれます。モノに代わり体験が主役になるというわけです。そうすると人は、製品を通じた“いい体験の提供”というプラットフォームをもつ企業によりロイヤリティーを感じ、製品のみを提供する企業にはロイヤリティーを感じなくなるでしょう。

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インタビューに答える大川真史氏
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大川:つまりこれからの時代は、ユーザー体験(UX = User Experience)を重視した価値提供が重要となり、それに成功した企業は勝っていくでしょうし、できない企業は衰退してくものと考えられます。そうして業界の覇権をも覆すのがIoT、第四次産業革命のインパクトなのです。

例えば、「Uber」は世界最大のタクシー会社ですが、車両を保有していません。「Alibaba」は世界最大の小売業ですが、在庫をもっていません。「Facebook」は世界で最も普及したメディアですが、コンテンツをもっていないし、「Airbnb」は世界最大の宿泊サービス会社でありながら、物件をもっていません。なぜなら例に挙げた企業が提供しているのは製品ではなく、体験だからです。製品は体験の一部でしかないのです。良質な体験を提供する企業が、現代では評価されています。

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【用語解説】
User Experience(ユーザーエクスペリエンス)
製品やサービスを利用して通じて得られる体験(experience)の総称。

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SCMの発展に必要なのはUXを設計するデザイナー

――ではデジタル化・サービス化する社会において、日本のSCM(サプライチェーンマネジメント)を発展さていくための要もUXということになりますか。

大川:そうですね。しかし何がいいUXなのかはとても定義がしづらく、そのことが、ユーザーが求める価値の提供を困難にします。ではどうすればいいのか。私はいいUXかどうかを判断するデザイナーが必要だと思います。

ここでいうデザイナーとは、ユーザーが製品を使う様子を観察して、製品をどう改善していくかを判断するプロフェッショナルです。外観の工夫について考える狭義のデザイナーではなく、UXの設計や製品、サービス全体の設計を行う人のことです。日本にはそうした人材があまりいないので、これから育てていけるといいと思います。デザイナーを育てて、最適なUXを提供できる環境を整える。それがSCM発展のため、いま日本の製造業全体で取り組むべき課題だと思います。

後編では、UXを重視したデジタル化をどのように社内で進めればよいか、事例をもとにお話ししたいと思います。

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モノとインターネットをつなぐ技術として知られる「IoT」だが、IoTのすごみはもっと別のところにあると「Connected Industries」エヴァンジェリストの大川真史氏は語る。これまでアナログ中心だった世界をデジタル中心に、価値の主体をモノからサービスに変えるというのだ。IoTが社会に与えるインパクトは、製造業にどのような影響をもたらすのか。デジタル化する社会で、製造企業が取るべき戦略について話を聞く。
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【大川真史氏インタビュー】製造業界の勢力図を塗り替えるIoTのインパクトーー製品価値よりサービス価値?
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取材・文:杉原由花(POWER NEWS)、写真:山崎美津留