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なかなか進まない日本のものづくりのデジタル化。このままではデジタル化の波に乗り遅れ、国際競争に取り残されてしまう――「Connected Industries」エヴァンジェリストの大川真史氏はそう警鐘を鳴らす。そんな中、いちはやくデジタル化をスタートさせた製造企業にはどんな変化が起きているのか。デジタル化成功の秘訣は“挑戦”にあるとする大川氏に話を聞いた。

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大川真史氏

ウイングアーク1st(株)Connected Industriesエヴァンジェリスト

1974年静岡県生まれ。大学卒業後、IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。明治大学サービス創新研究所客員研究員、東京商工会議所「スマートものづくり推進事業」専門家WG座長などを兼務。専門は製造業のサービス化、デジタル化による産業構造転換。官公庁・経済団体での講演、新聞・雑誌への寄稿多数。

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デジタルツールの活用でものづくりのコミュニケーションに変化

――いま製造の現場では、IoTをはじめとするデジタルツールの活用でどんな変化が起きていますか。

大川:2017年に東京商工会議所が、中小ものづくり企業1万社を対象に、IoTやクラウドなどデジタルツールの活用状況や課題に関する調査を実施しました。それによると、導入前は「QCD」(Quality=品質、Cost=費用、Delivery=引渡)改善への期待が高かったのに対し、実際は社内コミュニケーション活性化やトレーサビリティ向上、提案営業の実績などに関する効果が大きかったとする回答が多数を占めました。これは、デジタル化の真の力は、QCDの改善とは別のところで発揮されるということを如実に示す調査結果です。

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ウイングアーク1st株式会社 大川真史氏
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ウイングアーク1st株式会社 大川真史氏
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たとえば、北海道で板金の難加工を行う「ワールド山内」は、自社開発でスマートファクトリーをつくり上げました。具体的には、稼働状況や製造計画、実績比較、加工時間や段取り時間を可視化しました。そのために、作業手順や加工技術、ノウハウの標準化・文書化を進めて、その内容を社内業務マニュアルとして共有し、従業員のパフォーマンスを向上させました。

さらに、その業務マニュアルでまとめた加工技術やノウハウに基づきVA・VE提案を行うようになり、お客様とやりとりする情報の質が変わりました。

デジタルツールを導入してデータを取ると、製造状況が可視化され、その情報を共有しようとコミュニケーションが盛んになる。有効な情報が共有されることで従業員のパフォーマンスが向上し、取引先とのコミュニケーションが活性化し、生産性が向上したという流れです。

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【用語解説】
スマートファクトリー
センサーや設備を含めた工場内のあらゆる機器をインターネットに接続し、品質・状態などのさまざまな情報を「見える化」した先進的な工場を指す

トレーサビリティ
製品上に表示されている予め定義された識別性をもとに、その製品の生産場所、生産過程、利用法を追跡していくシステム

VA・VE 提案(Value Analysis、Value Engineering)
研究開発からアフターサービスに至るまでの事業活動について、競合と自社の強み/弱みを把握し、競争優位性を確立するためのヒト・モノ・カネの資源の配分を考える手法

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デジタルサービスは新たなサービス価値を生み出す

――デジタルツールは社内に加え、社外コミュニケーションも円滑にして、新たなサービスを生み出すのですね。

大川:岡山県にある「タイメック」はその好例です。試作部品のスピーディーな製造が評価されている同社は、ビジネスチャットの導入でリードタイムをさらに短縮させました。商談の際、ビジネスチャットを使って、その場でメモや写真などを設計・製造など社内と共有することで、リアルタイムで検討を進められ、担当営業の帰社を待たずに部品設計や加工プログラムを書き始められるようにしたのです。

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インタビューに答える大川真史氏
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コミュニケーションの取り方、その質や量が変わり、顧客との検討時のやり取りの質が高まります。その結果、試作完成までの時間が短縮され、認識のズレがなくなり試作品の質が向上する。これはデジタルツールによる新たなサービスの価値の創造だといえます。

このようにコミュニケーションが変わることで生まれる価値は、モノそのものの価値を向上させます。QCDを改善させたりするわけではありませんが、一度でもデジタルツールを使用し、体験すると、先ほど例に挙げた企業のようにQCD以外の部分で大きな価値が生まれるため、QCDの改善にのみこだわる必要はないと気づかされるはずです。これは理屈で考えるより、実際に体験するとよくわかると思うので、ぜひ多くの企業にトライしてもらいたいです。

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デジタルツールの活用を成功させるポイントは気軽なトライアル

――日本ではデジタル化に踏み切れない企業も多いです。どうすればものづくりのデジタル化はうまくいくでしょうか?

大川:特にデジタルネイティブ、学生時代からインターネットやパソコンがある生活環境の中で育ってきた世代でない方々は、デジタルに対する理解が足りていない場合が多い。デジタルが身近ではないため、感覚としてつかみにくいのでしょう。

そのような非デジタルネイティブ世代が、ものづくりのデジタル化に取り組む際にも有効なのが、体験してみるという方法です。デジタルツールでモノからデータを取るとどんな効果が得られるのかと頭で考えるより、データを取ってみてからその効果について考える方が圧倒的に早い。

データを取れば効果は実感できますし、どのみちデータを取ってみないと、どう管理し、活用すればいいのかさえ見えてきません。ですからまずはデータを取得しましょう。そして、どうすれば働く人にとって便利な現場になるかと考えながらデータを簡易分析すれば、心配しなくても効果は上がってきます。

また、デジタルツールはアジャイル(試行錯誤型)で開発するのがお勧めです。ツールを使ってみて、現場のユーザーによる検証に基づいて修正し、再度検証を繰り返すやり方です。

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アジャイルのイメージ
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「まず体験を」とお話したのと同じで、実際に使ってみていないユーザーに「どんなツールが必要か」と尋ねても、ユーザーは答えられません。ですからトライアルで体験いただき、ユーザーからの改善要望を反映するプロセスを繰り返すのです。失敗と修正が多いほど、その現場に最適なツールがつくられていきます。

私の話を聞いていただく時間があるなら、プロトタイプを一つつくってトライアルを始めるほうがいいぐらいです(笑)。1日でも早くつくって、1回でも多くユーザーにダメ出しされるべきだと思います。

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すぐにIoTに挑戦できる便利なツール

――では、低価格で導入しやすいIoT関連のデジタルツールがあれば教えてください。

大川:クラウド型マニュアル作成・共有ツールの「Teachme Biz」は、スマホなどのカメラで撮った写真や動画を基として、言語化しにくい職人の動作をマニュアル化してくれるソリューションです。ベテランの技術や知見の伝承、作業内容の明確化に役立ちます。

コミュニケーションツール「チャットワーク」は、インターネットへのアクセスで、グループチャットでやりとりできるSNSツールです。外出中の営業と製造者、設計者など複数の間で一気に情報伝達でき、またメールより簡単に過去の履歴を遡れます。このツールを使うと、主に社内コミュニケーションが強化され、プロジェクトの状況把握が容易になります。

IoTセンサー「Webiot」は、超音波距離センサーや人感センサー、温湿度センサー、照度センサーなどが搭載された小さいサイコロ型のツールです。工場内にただ設置するだけで、さまざまなデータを収集できます。1個あたり月額500円なので、デジタル体験の入り口としてもちょうどいいでしょう。

他にも、iPadをFA向けタッチパネルとして利用するためのiOSアプリ「irBoard」や、カメラの設置で古い機械をIoT化させる「SOFIXCAN Ω Eye」、手軽にIoTに挑戦できる小型キット「Nefry」などさまざまです。

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製造業の発展に必要なのはデジタルネイティブ世代の活躍

――デジタルツールの導入に壁を感じている企業も多いと思います。どのような対策があるでしょうか?

大川:経営層がデジタル化の取り組みに投資しようという判断をできないことが、障壁になっているように見受けられます。経営層が高齢で、非デジタルネイティブだからでしょうか。

5年程前に訪れた東南アジアの工場は、班長も含め20代や30代前半の若い人が現場の中心で、そこでは業務連絡でスマホアプリを使っていました。工場には活気があり、働く人は楽しそうで、日本の工場との違いを感じました。

また、今年5月に中国の深センに行きました。そこには夢や希望、挑戦する心を持った若者がさまざまなことに、楽しそうに取り組んでいました。街中の至る所で社会実証実験が行われて、みんな日々試行錯誤をしている様子でした。聞くところでは、定住人口1,000万人超で平均年齢32才、60歳以上がわずか2%とデジタルネイティブが多くを占め、新しいことを始めるために1日平均1,000社が起業しているそうです。

日本の多くの工場は、一昔前に最適とした方法でいまだにものづくりをしている状況で、スマートフォンでの業務連絡などまだ少数派です。それでは若い人たちの感覚に合わず、工場では働きたくないと避けられてしまいます。「若い人が入社してくれない」と悩む経営層が多いのですが、それは工場の仕事そのものが悪いのではなく、仕事の進め方や企業の風土にも問題があるのではないでしょうか。デジタルネイティブ世代が働きたいと思う職場や仕組みに変えれば、若い人も入社するようになると思います。

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インタビューに答える大川真史氏
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デジタル化の推進は、デジタルネイティブ世代抜きではどうしても厳しい。このまま若い力を借りられないようではデジタル化の波に乗り遅れ、日本の製造業は国際競争に負けてしまう。

もっとデジタルネイティブ世代が企業や産業で中心的役割を担えるよう、早急に巻き込み、デジタル化をどんどん進めていかなければと思います。もはや「若い人を応援しよう」なんて他人事のように言っている場合ではありません。

世界的に見ても、ものづくりのデジタル化は、ようやく画像やセンサーによるデジタル可視化が始まった段階で、本質的な変化はこれからだというのが私の認識です。若い世代に製造業を魅力的と感じてもらえるよう産業全体で努力して、人材を確保し、その力を借りながら一緒に盛り上げていけば活路は開かれると思います。

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なかなか進まない日本のものづくりのデジタル化。このままでは国際競争に取り残されてしまう――エヴァンジェリストの大川真史氏はそう警鐘を鳴らす。そんな中、いちはやくデジタル化をスタートさせた製造企業にはどんな変化が起きているのか。大川氏に話を聞いた。
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【大川真史氏インタビュー】ものづくりのデジタル化はアジャイルな開発や企業風土づくりが鍵に
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取材・文:杉原由花(POWER NEWS)、写真:山崎美津留