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「スマート農業」とは、先端技術を駆使した新しい農業のスタイル。企業や研究者たちの間で生まれた技術革新は、実際にどのように現場で活用されていくのだろうか。日本政府が提唱する超スマート社会「Society 5.0」の実現に向けて、農業界が起こす変革とはどんなものなのか。農林水産省の角張徹・大臣官房政策課技術政策室 課長補佐、豊井一徳・農林水産技術会議事務局研究推進課 課長補佐、稲垣晴香・同課 課長補佐の3人に話を聞いた。

インタビュー第1弾はこちらを参照

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スマート農業の実践で生産性を飛躍的に上げる

――「スマート農業」のコンセプトについて教えてください。

稲垣:農業の分野では、高齢化が進んで労働力が減っており、依然として人の手に頼る作業や熟練者にしかできない作業が多いという状況です。そのため省力化や人手の確保、作業負担の軽減が喫緊の課題となっています。これを解決するための方針として、産学官連携を進めながらAIやIoT、センシング技術、ロボット、ドローンなどの先端技術を積極的に取り入れて、仮説と実証を農業の現場で行っていこうとするのがスマート農業推進の取り組みです。

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稲垣晴香・農林水産技術会議事務局研究推進課 課長補佐
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稲垣晴香・農林水産技術会議事務局研究推進課 課長補佐
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――具体的な事例としては、どういった技術革新があるのでしょうか。

角張:さまざまな方向性からのアプローチがあります。そのうちの1つが「無人化」のアイデアです。「自動走行トラクター」は、同一の農場内を走る2台のトラクターのうち1台には人が乗る必要がありません。いわゆる有人と無人の協調作業です。無人トラクターが耕うんを、有人トラクターが種まきを行い、一人で同時に複数工程をこなすことができます。

GPSの受信機を搭載した専用のトラクターが自動的に走行ルートを設定し、無人の方はリモコンのスタートボタンを押すだけで耕うん作業が始まります。GPSの誤差補正を行う信号を利用することで、プラスマイナス3センチメートルの誤差で走行することができます。2017年6月に農機メーカーのクボタが試験販売を開始し、続いて2018年10月には同じく農機メーカーのヤンマーが一般販売を始めました。

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ヤンマーのロボットトラクタ
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ヤンマーのロボットトラクタ
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角張:こういった農機の無人化の技術は、特に北海道のような広大な面積の土地を持つ農家から注目されています。限られた人数と機械で短期間に農作業を行わないといけないので、無人化へのニーズは非常に高いです。

トマト収穫機、無人草刈りロボット……さまざまな技術開発が進む

――他にスマート農業の研究としてどのようなものがありますか。

角張:AIの活用も先進的な取り組みです。画像認識はAIの最も得意とするところであり、これを利用した収穫ロボットの開発が進んでいます。パナソニックが研究開発を行う「トマト収穫機」は、果実の色から収穫に適切な時期をAIが判断するシステムを備えています。搭載したカメラがトマトの画像を撮影して、果実のほか、茎や葉などの障害物を認識して、収穫アームを使って熟した赤いトマトのみを自動でもぎとるという仕組みです。トマトが葉や茎に隠れて一部しか見えない場合でも画像診断と収穫が可能で、非常に応用力が高い。人の手作業と違ってロボットは夜間にも働けるので、収穫時の大幅な生産性アップが実現できます。

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トマト収穫機、無人草刈りロボット……さまざまな技術開発が進む
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角張:他にも、水田の水管理を遠隔・自動制御化する「ほ場水管理システム」、上空から作物の生育状況をセンシングする「ドローン」、収穫物などの重いものを持ち上げる動作を支援する「農業用アシストスーツ」など、さまざまな角度からスマート農業の技術開発が進んでいます。

――導入すれば作業効率が大幅にアップしそうですが、課題はありますか。

角張:2つのポイントがあると考えています。1つは価格面です。無人化や自動化などが可能になっても、高価な機械ばかり作っては農業者の手に届かないものになってしまいます。導入しやすい価格のロボットなど、農業者のニーズを研究段階から目標に据えて研究を進めています。また、新しい技術を導入すればどのようなメリットがあるかということを、農業者の皆様にきちんと理解していただけるための努力も必要です。

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角張徹・大臣官房政策課技術政策室 課長補佐
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角張: もう1つは、我が国の多様な農業に合わせて技術の導入を図る必要があることです。一言で農業といっても、稲、麦、大豆などの穀物から野菜、果樹など品目は多様です。また、北海道の畑作地帯のような広大な農業もあれば、棚田のような中山間地域の農業もあります。地域や品目など、それぞれ抱える課題に沿って先端技術を導入することが重要です。

研究から実証へ。「スマート農業加速化実証プロジェクト」の取り組み

――開発分野は多岐にわたりますが、そういった先進的な技術開発はここ数年で急速に進んだように見受けられます。

角張:農林水産省がスマート農業の実現を提唱したのは今から約5年前です。自動化や無人化、精密農業といった将来像やロードマップを定め、それに合わせて研究開発を進めて、今ようやくその一部が目に見える成果として、農業の現場で活用され始めているというところです。

――研究の成果を農業の現場に落とし込むという意味において、農林水産省では「スマート農業加速化実証プロジェクト」を進められています。これはどのようなものですか。

豊井:先端技術の実装は、データ駆動型社会を実現するために2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」の中の具体的な施策の1つであり、来年度から本格的に事業をスタートさせます。AIやIoT、センシング技術などを使った研究開発から、モデル農場における体系的な一気通貫の技術実証、それを速やかに現場への普及につなげるという取り組みです。先ほどご紹介した自動走行トラクターなどの技術はもともと、府省の枠を超えた科学技術イノベーションを推進するための内閣府の取り組み「戦略的イノベーション創造プログラム」(以下、SIP)において開発されたもの。2019年の3月でSIPの1期目が終了となりますので、今度はこの成果を現場に取り入れていく段階に入ります。

――具体的にはどのような取り組みをされるのでしょうか。

豊井:スマート農業加速化実証プロジェクト」の事業は、大きく2つに分かれます。1つは「スマート実証農場」の設置です。これは実際に現場レベルで実証の場を作っていこうという動きです。農家の方を中心として、技術を提供するメーカーの方や、システムを提供するベンダーの方、状況によっては大学の研究者や行政の研究者、普及に関わる方などが寄り集まって、事業共同体となる「コンソーシアム」を作ります。これまで研究は、研究者たちがその技術に最適な条件のもとで生み出した成果に過ぎません。これを現場に持ち込んでみたときの効果は、やってみないとわからない。農家の方には通常通りの作業と販売を行っていただき、さまざまな条件を入れ込んだ上での全体最適化を図っていきます。

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豊井一徳・農林水産技術会議事務局研究推進課 課長補佐
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豊井一徳・農林水産技術会議事務局研究推進課 課長補佐
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豊井:もう1つは、データ分析・解析を通じた技術の最適化です。国立研究開発法人の農研機構が実証計画やデータ収集への助言・指導を行うほか、収集したデータをもとに技術面・経営面からの分析と解析を行います。その結果を踏まえて、さらに高度な技術を現場にフィードバックしていきます。2019年度から2年間の事業として開始します。

課題解決の手段としてのスマート農業

――研究がいよいよ実証段階に進みました。政府が提唱する「Society 5.0」ではどのような位置づけになりますか。

豊井:Society 5.0とは、産業界全体の将来像を示すコンセプトです。先端技術をさまざまな産業に導入することで、社会的課題の解決や経済的発展をめざしていくという、社会全体としての大きなストリームです。スマート農業はそのうちの一分野であり、例えば高齢化社会への対応があったり、自動走行への取り組みがあったりします。SIPの研究開発によって、個別の技術が出来上がってきました。あとはこれをどう実践の場に落とし込むか。GPSやAI、センシング技術などを活用するために最適な環境を整えていき、実証と普及に努めていくことが必要です。

――農林水産業における先端技術の活用に関して、今後の展望をお聞かせください。

角張:スマート農業は目的ではなく、あくまでも手段です。新しい技術を導入することで農業が抱える高齢化などの課題を解決し、競争力を高めていかなければいけません。人手不足を解消し、生産コストを下げつつ収穫量を増やし、かつ高品質を実現すること。技術革新によってそれが可能になることを期待しています。 デジタル化が進む社会において、農業もデジタル化を有効に進めていかなければいけません。集まったデータを効果的に活用するための環境整備を行うことでさらに新たなサービスが生まれ、先端技術が現場レベルで浸透し、それが農業者の一助になっていくというのが私たちの理想とするところです。

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「スマート農業」とは、先端技術を駆使した新しい農業のスタイル。日本政府が提唱する超スマート社会「Society 5.0」の実現に向けて、農業界が起こす変革とはどんなものなのか。農林水産省の角張徹、豊井一徳、稲垣晴香の3人に話を聞いた。
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先端技術を駆使した「スマート農業」で、 農林水産省が描く農業の未来
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先端技術を駆使した「スマート農業」で、 農林水産省が描く農業の未来