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いま脚光を浴びている「ゼンリン」という老舗企業をご存知だろうか。地図を専門に制作する日本最大手の民間会社であり、自動運転やドローンの自律飛行になくてはならない地図情報を開発する担い手だ。自動運転やドローンは物流分野での活用が期待されており、地図が完成すれば、次世代物流は実現に一歩近づくことになる。物流と地図との深い関係性、そして、社会の変化に応じてたゆまず続けられてきた地図の開発について、ゼンリンの竹川道郎・執行役員 IoT事業本部長と、連結子会社「ゼンリンデータコム」の田代勝治・ネットサービス本部ビジネスパートナー事業部部長に語ってもらった。

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自動運転の実現には“車が読む”地図が不可欠

――物流業界ではトラックドライバー不足が深刻化しつつあり、それを解決する1つの手段として、自動運転技術の活用に期待が寄せられています。そうした中で、自動運転の実現には地図情報が欠かせないとも言われていますが、御社が開発する自動運転用の地図とはどういったものですか。

竹川:自動運転に使われる地図は、道路上を走る車両の位置を高精度で特定できる地図情報に加え、走行制限や工事情報、事故情報、気象情報、信号の表示の情報などを統合したデータベースです。「ダイナミックマップ」と呼ばれ、自動運転の実現に欠かせないことから、内閣府が主導して、官民連携で構築に取り組んでいます。

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竹川道郎氏
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株式会社ゼンリン 執行役員 IoT事業本部長 竹川道郎氏
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竹川:ダイナミックマップの構築には、弊社を含め、トヨタ自動車や三菱電機など合計17社が加わっていて、私たちは自動運転向けの地図データを研究開発し、提供しています。自動運転に必要な地図情報は、従来の地図に比べて、車線やガードレール、道路標識などの情報がより正確に3次元で表され、かつ、機械(システム)が読み込めるよう整備されているのが特徴です。

自動運転では、人に代わってシステムが自動車を走行させます。要するに、地図を見るのは人ではなく自動運転システムなので、システムが読み込むための高精度なデータが必要とされるわけです。

自動運転用の地図の研究開発は2008年度にスタートさせました。停止線の位置、信号、規制看板など、道路上のあらゆる物体や建物のデータを収集し、それを地図データとして編集していきます。制作には、360度撮影・計測が可能な「全方位カメラ」や「高精度レーザー計測機器」を搭載した専用車両が用いられます。

そうして作られた地図が、自動運転で実際にどう活用されるかというと、1つは、自車位置の特定です。車両に搭載されたセンサーが捉えた信号機や停止線などの構造物の位置と、地図データとを照合することで、車両位置をより正確に特定できるようになります。

ほかには、地図データから道路の環境を先読みして、どのレーンを走行するのが最適ルートかを判断するのに使われたり、信号機などセンサーで認識すべき情報を地図データから提供することで、センサーの環境認識の精度を高めたりするのにも役立てられます。

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ADASに貢献する「高精度地図データ」のサンプルイメージ(提供:株式会社ゼンリン)
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創業から71年、生活を便利にする地図を一貫して制作

――紙の地図づくりからスタートされた御社が、自動運転用の地図を開発するに至るまでには、どのような経緯がありましたか。

竹川:弊社が地図づくりを専門とするようになったのは、創業の翌年、1949年に出版した大分県別府市の観光案内冊子がきっかけでした。付録として添えた温泉街地図が、本誌を上回るほどに好評だったのです。地図へのニーズを実感した創業者・大迫正富は、「人々の生活を便利にするために、日本全国の詳細な地図を作ろう」と決意し、1951年、全市区町村の建物の名前や居住者の名前を表示した「住宅地図」の制作に着手。徐々にエリアを拡大し、2017年には日本全国1,741市区町村(2017年6月16日リリース時)の住宅地図データを全て整備しました。なお、全国を網羅するこうした詳細な地図を作っている民間企業は、弊社が唯一です。

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『年刊別府』
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創業の翌年に発行された観光小冊子『年刊別府』
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高度経済成長期に入り、次第に地図の発行点数が増えてくると、地図を手書きする技術者が不足するようになり、1984年に地図の電子化に踏み切りました。デジタル社会の到来を先取りした国内初の試みで、それが後に、カーナビ用の「ナビ地図」としてアウトプットされ、現在では「Yahoo!地図」やナビタイムジャパンの「NAVITIME」、 Microsoftの「Bing Maps」をはじめとするWEBの地図サービスにもデータを提供しています。

そしていま、さらに多様なニーズに対応できるように、新たに「時空間情報システム」の構築を進めています。これは、建物の情報を主とした住宅地図のデータと、道路情報を主としたカーナビ地図のデータを統合したシステムで、自動運転やドローンの自律飛行を支える地図情報の元にもなっているものです。

宅配の効率化やドローン物流で活用が進む地図情報

――ドローンのお話が出ましたが、御社の地図情報は、自動運転以外にも物流分野で活用されていますか。

竹川:物流分野での活用はいくつか事例があり、ドローン物流もそのうちの1つです。人口減少や少子高齢化が進み、過疎地域では物流機能が脆弱化し、日常の買い物に困難をきたす人が増えてきています。そこで期待されているのが、新たな輸送手段としてのドローンの活用です。

ドローンの自律飛行には、建物など障害物との衝突を防ぐためにドローン用の「空の道」が必要で、弊社はその開発を行っています。実際に、埼玉県秩父市の山間部や長野県伊那市の河川上空で、空の3次元地図を使った実証実験を行いました。ドローンに荷物を積んで配送させる長距離自律飛行の実験で、どちらも成功しました。

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ドローン実証実験の概要
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長野県伊那市で行われているドローン物流実証実験の概要(提供:株式会社ゼンリンの資料を元にGEMBA編集部にて作成)
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田代:地図情報は宅配業務の効率化にも役立てられています。一般的なカーナビでは、目的地の周辺まで行くとルート案内が終わりますが、目指す家まで数軒離れていたりするために、宅配ドライバーが道に迷い、時間が無駄になるという問題がありました。

ゼンリンの地図情報はその問題を解消します。ゼンリンは家や建物の入口の位置のデータや、その周囲のすべての道のデータを持っており、そのデータをカーナビで利用してもらえば、入口まで「ドアtoドア」のルート案内が可能になります。すると、ドライバーは迷わず目的地に到着できるようになるので、結果、配達業務の効率が大幅に向上します。

さらに、膨大な地図データを活用して、物流を効率化するためのソリューションも提供しています。具体的には、運行管理システムや、安全運転を管理するサービスなどで、主に大手運送事業者様にご利用いただいています。運行管理にも安全運転管理にも、まずは車の状態の把握が肝心なのですが、ゼンリンの地図データを使えば、車両位置の特定を正確にできます。これを動態管理と言いますが、その方法は、自動運転での自車位置の特定にもよく似ています。

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田代勝治氏
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株式会社ゼンリンデータコム ネットサービス本部ビジネスパートナー事業部部長 田代勝治氏
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人海戦術による緻密なデータ収集で社会を支える

――御社は住宅地図、カーナビ向け地図、インターネット向けの配信地図などで国内トップシェアを誇ります。それだけのシェアを獲得できている理由は何ですか。

竹川:弊社の最大の強みは、メンテナンス力にあると考えています。実は、地図は一度作ったらおしまいではありません。引越しで住む人が変わったり、ビルの名前が変わったり、街のそうした変化を地図に正しく反映させるために、定期的なメンテナンスが必要なのです。

そのため、都市部では毎年、他の地区では2年から5年に1度、地図を更新しています。1日に投入される調査員は約1000人に上り、現地に調査員が行って目視による調査を実施することで地図の制作にあたっている状況です。そうした地道な作業の繰り返しによって地図の精度は維持されていて、それが利用者からの信頼につながっているのだと思います。

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『地的』書影
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PR誌『地的』を発行し、地図にまつわる情報を発信している
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――今後の目標を教えてください。地図を通じてどのような社会を実現していきたいとお考えですか。

竹川:地図は、郵便や宅配など物流をはじめ、救急、警察などの行政サービスにも利用される、一種の社会インフラです。人を目的地まで案内する紙の地図に始まり、車をナビゲートするナビ地図、スマホやPCに表示させるインターネットの地図サービスなど、地図は時代とともに変化してきましたが、暮らしを便利にするという観点においては変わりません。

少子高齢化や資源・エネルギーをめぐる問題、それを解決するための人工知能やロボティクス、自動運転の技術革新など、社会はいま大きく揺れ動いています。次の社会に、社会インフラである地図はどう貢献できるか。

そのことをいつも念頭に置きつつ、創立から71年間ずっとそうしてきたように、時代の変化とともに、さまざまな用途に応じた地図を提供し、社会の発展に寄与していきたいと考えています。

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いま脚光を浴びている「ゼンリン」という老舗企業をご存知だろうか。地図を専門に制作する日本最大手の民間会社であり、自動運転やドローンの自律飛行になくてはならない地図情報を開発する担い手だ。物流と地図との深い関係性、そして、社会の変化に応じてたゆまず続けられてきた地図の開発について語ってもらった。
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地図情報の「ゼンリン」が語るーー次世代物流実現のカギはAIが読む高精度な地図データ
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地図情報の「ゼンリン」が語るーー次世代物流実現のカギはAIが読む高精度な地図データ
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取材・文:杉原由花(POWER NEWS)、写真:藤牧徹也