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3Dプリンタの活用が急速に広まっていた2014年、技術開発のための国家プロジェクトが動き始めた。プロジェクトを実施するのは、「技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構」(TRAFAM)だ。ドイツや中国、アメリカなど、技術力で先行する海外勢に追いつくことを目標に、38の企業や大学が一致団結して取り組んできたプロジェクトの成果はいかなるものか。TRAFAMの本田正寿・総務部長に3Dプリンティングの魅力や可能性についても語ってもらった。

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次世代技術で世界に遅れをとっていたものづくり大国日本

――「技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構」(TRAFAM)の概要について教えてください。

本田:次世代型の産業用3Dプリンタの技術を開発する国家プロジェクトが2014年度に立ち上がり、それを実施するために集められたのが我々TRAFAMです。 “ものづくり大国”と自負する日本なのに、新しい技術として注目されている3Dプリンティング技術(三次元積層造形技術)の活用や技術力の面では、世界の上を行けていない。そのことに政府が問題意識を持ち、経済産業省が旗振り役となって組合を発足させました。

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TRAFAM総務部長 本田正寿
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TRAFAM総務部長 本田正寿
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本田:38の企業や大学が集結し、装置の開発に加え、材料やシステムなど、次世代3Dプリンティングの実現に必要なあらゆる技術開発を行っています。開発と併せて実証実験を行い、評価を得て改善に活かすため、ユーザー企業もメンバーに加えている点が組合の特徴です。

どこでも、どんなものでも生み出せる3Dプリンタ

――3Dプリンティングとはどのような技術ですか。国は、約100億円の資金をこのプロジェクトに投入しています。このことも示すように、3Dプリンティングは新たな技術として非常に注目されていますが、どういった魅力を持つのでしょうか。

本田:最もメジャーな3Dプリンティング技術は、粉体材料を1層ずつ固めて積み上げ、造形する加工法です。金属や樹脂、石膏、食品、細胞などさまざまなものを素材にすることができます。

最大の長所は、どのような形状のものでも、思い描いたまま形にできるところです。硬くて従来工法では加工が難しい金属でも、複雑な形状に、容易に加工できます。さらに、同種の生産物をたくさん作る大量生産とは異なり、一種一様の製品を連続して生産できます。一つずつ作るので、在庫も出ません。

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本田:こうした特徴から、3Dプリンティング技術は、切削加工や鋳造など従来工法では不可能だったものづくりを実現させると期待されています。実際にそうした例も出てきていて、その1つが飛行機のエンジン部品の製造です。形状が複雑なため、従来の工法では、5つぐらいの部品をつなぎ合わせて作られていたのですが、金属3Dプリンタを使い、一塊の部品として製造されました。リードタイムが短縮され、接合しない分、強度も高まっています。

また、従来工法のようにいくつもの機械や工具が必要なく、3Dプリンタさえあれば、工場に限らずどんな場所でもものづくりができます。最近だと、2017年にF1のレーシングチーム「マクラーレン・ホンダ」が3Dプリンタをサーキットに持ち込み、話題になりました。マシンパーツの設計や製作、改善のサイクルを短縮、あるいは、不具合が見つかったパーツを即時に作り直すために活用されているようです。

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TRAFAM総務部長 本田正寿
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本田:3Dプリンティング技術での加工は、立体の情報を示すデジタルな「3Dデータ」を装置が出力し、全自動で行われます。紙のプリンタによく似ていて、加工中に人がやるべきことはありません。特別な加工技術を必要としない代わりに、設計図である3Dデータの作成に職人の知識や経験を入れ込んでおくことはできます。そうすれば匠の技はデータに変換され、データベースとして技術を伝承できます。

――製造業は後継者不足にともない、技術伝承に課題を抱えています。3Dプリンティングはそれを解決する手段にもなり得るのですね。一方で、従来工法の技術力を武器とする既存の製造企業、とりわけ中小企業にとって新たな技術は脅威とも捉えられますが、その点についてはどう考えていますか。

本田:脅威になるとは考えていません。むしろ、中小製造業の保護・育成も、組合が設立された目的の1つなのです。中小製造企業も3Dプリンタを導入し、従来工法に加え、新しいものづくりにどんどん挑戦してもらえるよう、環境を整えていきたいと思っています。

そのためにまず取り組んでいるのが、装置の低価格化です。3Dプリンタの価格を、従来装置の約半額である5000万円以下に抑えることを目標として、技術開発を進めています。

――どこでも作れて在庫を生まないということは、3Dプリンティングが普及すれば、物流にも大きな変化がありそうです。

本田:モノを消費するその場で生産できるので、3Dプリンティング技術のものづくりに関連する物流は、限りなく製造と一体化していくはずです。また、在庫がなくなれば、倉庫も必要ではなくなるでしょう。

産官学連携の急速な開発で、海外勢の技術力に迫る

――プロジェクトのこれまでの成果について教えてください。

本田:金属を加工する「金属3Dプリンタ」は、これまでに5タイプの装置を試作しました。多田電機、日本電子、東芝、東芝機械、松浦機械製作所、三菱重工業、三菱重工工作機械が中心となり、近畿大学や東北大学などが連携して装置は作られました。それを、宇宙航空研究開発機構(JAXA)やトヨタ自動車、小松製作所などのユーザー企業に使用してもらい、評価を参考に装置を改良していきました。

2014年度から18年度の5カ年計画で開発を行い、その目標は、製品の精度を従来の約5倍、速度を10倍、造形可能範囲を約3倍の大きさに、装置価格を約半額以下にすることでした。達成できているものとそうでないものがあり、詳細は9月に発表する予定です。試作した5タイプの装置は、販売に向けて各社が準備を進めています。

そのほか、鋳造に使用する砂型を作る「砂型3Dプリンタ」の開発や、システム、材料の開発も行いました。2018年度でプロジェクトは一旦終了しましたが、課題が残っているため、新たにプロジェクトを起こしつつあり、検討されています。

本田:プロジェクトが発足した当時、日本は3Dプリンティングの技術開発において、ドイツや中国、アメリカなどに後れを取っていました。目標を立てた際には、一部から、そんなに高い目標を達成できるわけがないと声が上がったそうです。しかし、プロジェクトが終了するころには海外勢と肩を並べたい、うまくすれば超えたいと組合員は意気込み、一致団結して開発に取り組んできました。その結果、一部の目標はまだ達成できていないものの、なんとかトップ集団の後方にはつけたと思います。

3Dプリンタ普及のカギは、新たなモノを生み出す創造性

――3Dプリンタを普及し、日本のものづくりを発展させていくためには、どういった課題がありますか。

本田: 既存のモノを生産する工法として、従来工法と3Dプリンティング技術を比較検討すると、特に大量生産品の場合、コストや納期など、従来工法を上回るメリットがありません。

ですから、普及のためには、3Dプリンティング技術を活かす新しい設計の思想、もっといえば新しいものを生み出すクリエイティブな力、創造性が必要なのだと思います。先ほどお話しした飛行機の部品が好例ですが、要するに、“3Dプリンタで何を作るのか”です。作りたいものがあれば、使われるはずだと思います。

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TRAFAM総務部長 本田正寿
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本田:ところが、3Dプリンタを販売しようとメーカーが取引先に紹介すると、手応えは悪くなくても、なかなか導入にまでは至らないと聞きます。まだ導入するには早い、という結論に達するそうなのです。

何かとっかかりがないと、新しい技術になかなか手を出さないのが日本人の国民性なのかもしれません。しかし、3Dプリンティング技術はデータとの親和性が高く、デジタル社会において、今後伸びていく分野だと推察されます。その流れに日本だけ取り残されないためにも、みなさんにいち早く新しいものづくりに踏み出してもらえるよう、我々も3Dプリンティング技術の魅力を伝えていかなければいけないと思っています。

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日本は「次世代のものづくり技術」と考えられている3Dプリンタの技術で諸外国から遅れをとっている。そんな現状を打開するために38の企業や大学が集い「TRAFAM」という団体が立ち上げた。同団体の本田正寿さんに3Dプリンティングの魅力や可能性についても語ってもらった。
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世界から後れる日本の3Dプリンティング技術を急伸させよ!国家プロジェクト「TRAFAM」の試み
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世界から後れる日本の3Dプリンティング技術を急伸させよ!国家プロジェクト「TRAFAM」の試み
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取材・文:杉原由花(POWER NEWS)、写真:渡邊大智