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製造を委託したい企業と加工技術を持つ工場とをインターネット経由でつなぐ製造受託サービスで、多様なものづくりを実現している企業がある。製造とITのエキスパート集団、カブクだ。誰でも、1個からものづくりのアイデアを形にできるサービスを提供することで「ものづくりの民主化」を推し進め、日本の製造業を活性化したい——足立昌彦代表取締役はそう語る。注目を集めている独自のサービスとは、具体的にどのようなものなのか。

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ネット経由で全国唯一の製造受託サービスを展開

——「ものづくりの民主化」をビジョンに掲げていますが、事業内容について教えて下さい。

足立:インターネット経由で注文を受け、生産から納品までを請け負う「オンデマンド製造サービス」を提供しています。お客さまのオーダーに応じて、世界30カ国300を超える工場のネットワークから最適な工場を選び、発注します。

要するに、弊社は工場を持たないファブレス企業です。ネット経由で、製造を委託したい企業と、加工技術を持つ工場とをつないでいます。いわゆる、シェアリングエコノミーですね。

製品のアイデアがあっても、どんな技術が必要で、その技術をどこが持っているのかわからない企業がほとんどです。そんな方たちに向けて、弊社はものを作りたい企業と技術を持った工場をマッチングさせるサービスを提供し、実際に製品ができあがるまで、一緒にものづくりを行います。

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株式会社カブク 足立昌彦 代表取締役
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株式会社カブク 足立昌彦 代表取締役
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さらに、アイデアはあるけれど、それを形にできずお困りの方には「開発支援サービス」を提供しています。このサービスでは、生産の受託に加え、企画や設計、デザインなどものづくりの全行程を一貫してサポートし、安く、高機能な製品を作るための工法や加工のご提案を行います。

——類似のサービスを提供する企業は他にはないそうですね。

足立:弊社と提携している工場は、3Dプリンターや切削、鋳造、板金、射出成型など、さまざまな工法に対応し、試作から数十個の少量生産、数万個規模の量産まで受け付けています。さらに、従業員40名のうちの約7割がエンジニアやプロダクトデザイナー、 技術購買など製造業のエキスパートなので、複雑な加工に対しても、生産だけでなく、企画やデザインなどのサポートを行えます。このように幅広い受託製造サービスを提供しているのは我々だけかもしれません。

国内だけでなく、世界中に工場のネットワークを持っているので、価格や品質のバリエーションも豊富です。例えば、納期を短くしたい場合には、輸送にかかる時間を省くために、納品先からできるだけ近い国内の工場を選びます。高精度なモノを3Dプリンターで作りたければドイツの工場が最適ですし、量産なら東南アジアの工場だと安く生産できます。そうして工場を使い分け、お客さまの細かなニーズにお応えしています。

ものづくりのハードルを下げ、「ものづくりの民主化」を推進

——広く工場のネットワークを築くことで、高品質や低価格、短納期を実現させているのですね。オンデマンド製造サービスと開発支援サービスは、どういった経緯で生み出されましたか。

足立:誰もがものづくりに挑戦できる環境を整えたい。「ものづくりの民主化」を目指したいと考え、両サービスを開発しました。

工場でモノを作るとなると生産コストが高く、一定以上の販売数が見込める製品、つまり工場が儲かるモノでないと生産に踏み出せないのが通常でした。そのため工場を使ったものづくりの担い手は、資金力がある企業が中心だったのです。

しかし、資金力のないベンチャー企業や個人などでも、もっと気軽にものづくりにチャレンジできるようにならなければ、なかなかイノベーションは起こりません。まずは、その状況を変えたいと思い、誰でも、1つから製品を作れる仕組みであるオンデマンド製造サービスを始めました。

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	株式会社カブク 足立昌彦 代表取締役
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もう1つ、工法が多様化、複雑化しているために、ものづくりのアイデアがあっても、形にするのが困難といった課題もありました。例えば、溶かした材料を型に注入して所定の形のモノを作る「鋳造」一つとっても、砂型での造形、金型での造形に加え、いくつかの特殊な鋳造法があります。その上、材料には金属だけでなく、プラスチック、ゴムやガラスなども使われます。

そのように多様で複雑な工法、材料の中から、適したものを選び出して製品を作るのは、かなり難しいものなのです。製品のアイデアは持っていても、ものづくりのノウハウがない。そこで、アイデアを形にするサポートを行うことで、ものづくりのハードルを下げられないかと考え、取り組むようになったのが開発支援サービスです。

多様なものづくりを実現によって製造業にイノベーションを

——それでは、サービスのユーザーとしては、大手よりもベンチャー企業や個人が上回るのでしょうか。

足立:今はまだお客さまは、個人ではなく企業がメインです。大手だと、トヨタ自動車やホンダ、オリンパス、マイクロソフト、スクウェア・エニックス、ロフト、フジテレビ、TBS、電通、博報堂、日本通運、ローランド・ベルガーなどとの協業実績があります。

最近ではベンチャー企業との協業も増えてきました。ベンチャー企業から工場に直接生産を頼んでも、試作として少量の発注になり、お金にならないと断られることが多いものなのです。また、ものづくりのノウハウを持たないままアイデアだけを工場に持ち込むため、形にしてもらえない場合が多い。弊社を頼ってもらえるのは、そうした理由からのようです。

ベンチャーの中でも割と多いのが、ソフトウェアを開発する企業にサービスをご利用いただく例です。具体的には、自動運転のソフトウェアを開発する「ティアフォー」との協業がそうです。ティアフォーはソフトウェアに加え、自動運転車の開発も行っていて、弊社は車両のデザインや製造などを包括的にサポートしました。

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Postee(ポスティー)
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カブクが製造をサポートした配送・配達サービス用AIモビリティ「Postee(ポスティー)」
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このケースでは、ティアフォーは弊社に車両の制作を依頼することで、ソフトウェアの開発にリソースを割くことができました。自社がもっとも強みを発揮できる分野に注力するために、ものづくりは弊社に依頼する。こうすることで、今までにはなかった製品が世の中に生まれやすくなります。

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同じような事例で、ロボットを活用して警備を行う機械警備のための警備ロボットを開発しているベンチャーにも、開発支援サービスを提供中です。彼らは、自動でロボットを動かすためのソフトウェアの開発技術は持っていたのですが、ハードウェア、ロボットそのものを作るノウハウがありませんでした。そこで、弊社と組んで警備ロボットを完成させました。

そのほかベンチャー企業だと、ロケットのパーツや、障害のある方の身体機能をサポートするための器具など、作ったモノは多種多様です。

——サービスを通じて多種多様なものづくりが実現しているのですね。そもそも、なぜこうしたサービスを提供しようと思われたのでしょうか。

足立:起業のきっかけは、私自身が、大量に作られたモノに対してワクワクを感じられなくなったことでした。我々と同じように、量産品にワクワクしない人はきっと他にもいるだろうと思い、より個人のニーズを捉えたマイナーな製品を、必要な少量だけ生産し、消費者に届けられる仕組みを作ろうと考えたのです。

そこから、ものづくりのアイデアを持っている人たちのサポートをすることで、多品種少量生産が増え、多様なモノがあふれる世界を実現できるのではないかと考え、それが「ものづくりの民主化」というコンセプトになりました。

デジタルとものづくりを掛け合わせたカブクのサービスを具体的に思い付いたのは、大学院で機械工学を専攻していた影響が大きいです。工場実習などを行い、ものづくりに対する基礎知識を得て、ソフトウェアの研究にも携わり、卒業後は企業でアプリケーションやクラウドサービスの開発を行ってきました。その経験から、デジタルの活用により「ものづくりの民主化」を発想しました。

ワクワクするものづくりを支え、日本の製造業を盛り上げる

——「ものづくりの民主化」はどの程度達成されましたか。

足立:まだまだです。もっと多くの工法や材料での製造を受託できるようにして、製造できる場所、地域も増やしたい。国内に工場が3、4万件あるのに対し、現在の我々の委託先は100カ所ぐらいです。工場のネットワークが広がり、お客さまの選択肢が増えれば、ものづくりの敷居はもっと下がるはずなので、どんどんネットワークを広げていきたいと思います。

一方で、ワクワクする品を少量生産し、消費者に届けたいという我々の思いとは別に、世の中の流れとして、小ロット化が進んでいるのも肌で感じています。

これまでは、生産コストの安い発展途上国の工場で製造すると、日本で求められるクオリティを満たさないモノも出ていたのですが、最近では加工技術などノウハウが蓄積され、品質が一定水準を超えるようになりました。

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株式会社カブク 足立昌彦 代表取締役
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企業と工場とをインターネット経由でつなぐ製造受託サービスを提供しているカブク。それにより、ものづくりのノウハウがない企業でも、アイデアを形にできる「ものづくりの民主化」を推し進めている。同社の足立昌彦代表取締役に独自のサービスとその想いを語ってもらった。
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世界300の工場ネットワークで製造のハードルを下げる「カブク」ーー「ものづくりの民主化」でワクワクする製品を世の中に
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世界300の工場ネットワークで製造のハードルを下げる「カブク」ーー「ものづくりの民主化」でワクワクする製品を世の中に
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取材・文:杉原由花(POWER NEWS)、写真:藤牧徹也