ID情報を埋め込んだRFタグから無線通信によって情報をやりとりするRFID(Radio Frequency IDentification)に関する特許技術で注目を集めているスタートアップがある。2015年創業の技術者集団「RFルーカス」だ。サプライチェーンの現場において、“探し物”という非生産的な時間を削減するソリューションを開発。人手不足の解消につながるとして、大手アパレル企業などで相次いで導入されている。RFIDや同社が開発したソリューションは今後いかにして普及し、現場を変えていくのか。浅野友行・取締役COOに答えてもらった。
RFIDをさらに便利にする特許技術を開発
——御社の概要について教えてください。
浅野:RFルーカスは、RFIDに特化したスタートアップ企業です。2015年に、RFIDのエンジニアである上谷 一(かみや はじめ)が会社を立ち上げました。以来、少人数で研究開発を進めてきた「RFIDによる位置特定」の特許技術が弊社の強みです。
——まずはRFIDがどのような技術なのか、簡単に説明していただけますか。また、位置特定の特許技術とはどのようなものですか。
浅野:RFIDとは、RFタグに記憶されたデータを無線通信により非接触で読み書きするシステムのことです。身近なものだと、アパレルのユニクロやGUの無人レジなどに使われています。情報の読み書きには、小型チップのRFタグと、通信端末のリーダライタがセットで使われます。RFタグのアンテナがリーダライタからの電波を受信し、RFタグ内に書き込まれたデータをアンテナから返信。リーダがそのデータを受信し、情報を取り出すというのが動作の原理です。
そのように情報端末によりデータを取得し、データの内容を認識する自動認識技術には、ほかにもバーコードや2次元コードがあります。店舗での在庫管理や倉庫での入出庫管理など、バーコードとRFIDとは活用領域が似ていますが、違いは大きいです。
例えば、バーコードだと商品1点ずつしかタグの情報を読み取れないところ、RFIDは100点でも200点でも一括して読み取れます。また、RFIDはバーコードとは異なり、離れた場所からでも、閉じた箱の中にタグが入った状態でも読み取りが可能です。そうした特徴から、RFIDを使えば、店舗での棚卸や物流倉庫での入出庫などの作業が各段に効率化されます。これにより、従来のバーコードと比較すると、作業時間は10分の1に短縮されるとも言われています。
浅野:さらに、個品管理できるのも大きな特徴です。RFIDはバーコードよりも多くのデータを書き込めるので、RFタグにシリアルナンバーを振っておけば、同じデザインの同じサイズのセーターでも、1品ずつを別のモノとして管理できるようになります。
RFIDは便利なシステムなのですが、従来、RFタグの位置情報までは取得できませんでした。そこで、弊社が開発したのが「電波位相情報解析」の技術です。これは、RFタグが貼付された物品の位置の情報を高精度で取得できる技術で、弊社が提供しているソリューション「P3 Finder SDK」や「Locus Gate」に応用されています。
“探し物”という非生産的な時間を減らす
——「P3 Finder SDK」「Locus Gate」は、それぞれどのようなソリューションですか。
浅野:「P3 Finder SDK」はRFタグが貼付された物品の位置を探索するためのソリューションです。一般に流通しているRFIDハンディリーダに搭載でき、箱単位で位置特定できる高い精度で、なおかつ瞬時の判定が可能です。
浅野:具体的な活用法としては、例えば、あるシリアルナンバーが振られた特定のセーター1点を倉庫から探し出す場合、倉庫内でP3 Finder SDKが搭載されたリーダをかざすだけで、どこにその商品があるのか、方向と高さが明確に示されるといった具合です。
そうしたアパレルの商品探索をはじめ、P3 Finder SDKは製造工場での部品や工具の資材探索、オフィスでの資材探索などに活用されています。いわば製造、物流、店舗などさまざまな現場において、“探し物”という非効率な時間を削減するためのアプリケーションなのです。
P3 Finder SDKの提供を本格的に始めたのは2019年の初めごろで、既にアパレル、物流、航空など幅広い業界の大手10社程にご利用いただいています。問い合わせは100件を超えていて、商談中の企業もいくつかあります。
浅野:もう1つの「Locus Gate」は、自動で入出庫管理を行うためのソリューションです。倉庫の出入口などに専用のマットを敷くだけで、そこを通過したRFタグ付きの物品の移動を検知。入庫あるいは出庫した物品の品番や数量に間違いがないか情報を取得して、入出庫作業を自動で行います。
同じ役割を果たすシステムに、トンネル式のRFIDゲートがあります。これは遮断板をトンネル型に組むことで、トンネル内を通過したRFタグの情報だけを読み取る仕組みで、よく物流センターなどで使われています。ただし、トンネル式のRFIDゲートは大型で、工事が必要なうえ場所を取るのが難点でした。
そこで、同じような機能を持つコンパクトなシステムとして開発されたのがLocus Gateです。1平方メートルと台車1台分のスペースがあれば設置可能なので、店舗のバックヤードなど狭いスペースでも利用できます。2018年の秋から提供を開始しました。
浅野:Locus Gateにも電波位相情報解析技術が使われています。簡単に説明すると、RFタグ付きの物品の移動を位置特定技術で把握し、AIによる解析と組み合わせて判定の精度を高めています。
RFIDを普及させ、人手不足解消に貢献
——どちらのソリューションも省人化、効率化に大きく貢献しそうですね。
浅野:店舗や倉庫、工場など、物品を探索することが多い現場にP3 Finder SDKを導入すれば、探索に費やされていた時間と人手が不要になります。物を探している1人あたりの時間は、年間約145時間に及ぶとの調査結果もあり、労働力不足が課題となっているいま、探し物の時間を削減できるP3 Finder SDKは、社会にとって有用だと考えられます。
Locus Gateも入出庫管理にかかる作業時間を大幅に短縮するので、P3 Finder SDK同様、足りない人手を補い、課題解決に役立つでしょう。
——社会課題の解決にも寄与する「P3 Finder SDK」、「Locus Gate」ですが、より広く活用されるようになるためには、RFIDの普及が前提となりそうです。一方で、産業界でのRFIDの導入はなかなか進んでいないとも言われていますが、RFIDや御社のソリューションを普及させていくために必要なことは何だと思われますか。
浅野:いくつか課題はあり、その1つがRFタグにかかるコストの問題です。以前まで、バーコードに比べるとRFタグは高価なものでした。しかし、最近ではRFタグの価格は1枚5~10円程度まで下がり、その結果徐々に浸透し始めていると感じます。もう少し価格が下がれば、もっと広まるのではないでしょうか。
あとは、RFタグを「誰がどう商品に付けるか」という問題もあります。コンビニへのRFIDの導入を例として考えてみるとわかりやすいと思います。さまざまなメーカーの商品が扱われるコンビニで、取扱商品すべてにタグを付けるためには、各メーカーに協力して貼ってもらうのか、コンビニ側で貼るかのどちらかでしょう。しかし、コンビニで扱う数多くの商品にタグを付けるとなると、かなり労力やコストがかかるので、いずれの方法でもなかなか実現しません。
そう考えると、導入しやすい現場から順に入れていくのが良いのではないでしょうか。仮に製造工場における機器や金型などの資産管理なら、物品の量がコンビニほど多くなく、タグを貼る労力も小さくすみます。また、大手アパレル企業ではRFIDの活用が広まっていますが、それはSPA(Specialty store retailer of Private label Apparel)、つまり製造から小売りまでを一社で手掛けている製造小売の企業が中心です。SPAなら物品が多くても、製造段階に自社で貼り付けることができるので、コストをどう負担するかといった争いが起こらず、導入がスムーズなようです。
浅野:これからRFIDの活用事例が増えていくうちに、ノウハウが蓄積され、タグの価格もさらに低下して、RFIDをより導入しやすい環境が整っていくと思います。いまは商品にタグを貼り付けるしか方法がありませんが、プリントできるタグの研究なども進んでいるようです。
また、これは弊社の今後の課題でもあるのですが、RFID自体の認知度を上げていくことも重要です。RFIDに関する情報発信は少なく、最新動向が世間に伝わっていないと感じています。価格が下がってきていることすら知らない人が多いのではないでしょうか。
こうした状況を打開すべく、RFIDの導入を検討している方々に向けた情報発信の場として、オウンドメディアを立ち上げることとしました。現在、準備を進めており、2020年上旬にローンチする予定です。
RFIDは足りない人手を補う、大変優れたデジタル技術です。弊社はRFIDソリューションの提供を通じてRFIDを世に広め、豊かな社会の実現に貢献したいと考えています。そのためにも、より利便性の高いソリューションの開発や、それに加えて、情報発信など技術の認知度を高めるための活動にも一層力を入れてまいります。