製造、物流、流通といったサプライチェーン・マネジメント(SCM)の「現場」の課題解決を掲げ、「現場プロセスイノベ―ション」事業を推進しているパナソニック コネクティッド ソリューションズ社。コンシューマ向けより、テクノロジーの社会実装が半歩先をいっているBtoBビジネスにおいて、どんなトピックが議論されているのか。同社 エバンジェリストでCTO室 室長の辻 敦宏さんにBtoBビジネスの全体像をうかがった。
辻 敦宏(つじ・あつひろ)
パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社 エバンジェリスト/CTO室 室長
1996年に松下電器産業株式会社(現・パナソニック)入社後、本社R&D部門にて、放送機器向け通信プロトコルの開発、家電等に搭載するIPv4/IPv6通信ソフトウェアの開発、デジタルテレビのネットワーク対応開発に従事。2007年からデジタルテレビのLSI開発(通信対応)、TVにおけるVoDサービスのミドルウェア開発(通信、著作権保護など)とアプリ開発、医学系画像提供サービスなどの新規事業開発に従事。2013年より3年間、本社にて経営企画を担当、現在はCNS社CTO室にてカンパニー技術戦略策定と技術開発企画 室長。
強みである「センシング」を入り口に現場の課題を解決する
――製造、物流、流通などサプライチェーン分野におけるパナソニックのビジネスについて教えてください。
辻:そのためにも、あらためてパナソニック コネクティッドソリューションズ社(以下、CNS社)がどういった会社なのか少しお話させてください。
CNS社はパナソニックが抱える7つのカンパニーのうちの1社で、その事業領域は「製造」「物流」「流通」「パブリック」「航空」「エンタメ」の6つに大きく分かれます。いわゆるBtoBの領域でビジネスを展開している会社です。
そして、これらの事業領域に単に製品やシステムを供給するのではなく、「それぞれの現場に寄り添って、テクノロジーの力で困りごとを解決していこう」という思いで、「現場プロセスイノベーション事業に取り組んでいます。
――「現場」の目線を大切にしているということでしょうか。
辻:その通りです。まず現場のお困りごとに着目し、次に会社全体としてどういう改善策を講じるのがよいか、経営陣の方々と一緒に考えていくというスタンスです。
そのために重要なのが、「現場の見える化」です。多くの製造・物流の現場は、まだまだアナログな点が多い。前回も話しましたが、「センシング技術」によって、人の動き、物の流れなど、現場のさまざまなものを「数値化(定量化)」することが業務改善の第一歩です。数値化できれば、さまざまな課題が浮き彫りになり、解決に向けて着手する際の優先順位もつけやすくなります。
「センシング」によって現場の課題を明らかにし、最適なソリューションをお客さまと一緒に考えていく。それが「現場プロセスイノベーション」の基本方針です。
日本のサプライチェーンに共通する課題は「人手不足」
――では、事業業界ごとの具体的なソリューションについても、教えていただけますか?
辻:それでは事業領域ごとの課題や業界のトレンドとともにご説明します。
ものづくり現場の課題は、いつの時代も「生産性の向上」と「不良品の削減」につきます。近年はそれに加え、「人手不足」が深刻な問題になってきました。そのため、組立用の自律制御ロボットや画像診断による不良品の検知システムなどによる、「自動化・省人化」の動きが加速しています。
CNS社でも「自動化・省人化」のための機器、設備、システムに注力していますが、最近は「より簡単に制御できる自動ロボット」の開発に力を入れています。たとえば製造ラインに設置するアームロボットには、これまでロボットに動作をプログラムする「ティーチング」という作業が必要でした。
このティーチングがなかなか骨の折れる作業なのですが、いまパナソニックは浜松発のスタートアップであるLINKWIZと協業しながらティーチングの自動化に挑戦しています。
辻:物流の現場においてフォーカスしている課題は、大きく「配送の効率化」と「倉庫内作業の省人化」の2つです。
配送の効率化では、GPSとAIを組み合わせることで「配送ルートの自動最適化」に取り組んでいます。ドライバー用の端末も提供しており、配送ルートのナビゲーションに活用されています。技術的にも進化を続けており、昨年から運用が開始された日本の衛星システム「みちびき」を利用することで、より精密に人と物の測位が可能になりました。
倉庫内作業については、パナソニックはこれまで堅牢性にすぐれた現場用PC「タフブック」や、検品作業用の端末「ハンディターミナル」を提供してきました。CNS社も搬送ロボットや荷仕分け支援システムなどの導入をお手伝いしています。最近では次世代通信方式の「5G」の「低遅延(リアルタイム)」「多接続性」を利用して、作業場内での業務管理に役立てる研究も進めています。
辻:「流通」でいま注力しているのは、「店舗運営の効率化」と「決済システム」です。 CNS社では、2019年4月からコンビニ大手のファミリーマートの協力を得て、多数のカメラやセンサーを取り付けた店舗を運営しながら実証実験を行っています。店舗では来店者の動きや商品の売れ行きなどの詳細なデータを収集し、店内レイアウトや品揃えなどに反映しています。
また、現金不要の「顔認証決済システム」や付け替え作業がいらない「店内POP・電子棚札」、従業員の業務をサポートする「小型ウェラブル端末」など、さまざまな最新テクノジーの試験運用を行っており、実証実験で得た知見をもとに流通業界の課題解決に取り組んでいます。
辻:「製造」「物流」「流通」など日本のサプライチェーンにおいて、共通して大きな問題になっているのは「人手不足」です。サプライチェーンの領域では、「自動化・省人化」が今後もソリューション開発の柱になると思います。
「人間工学」に基づいた使い心地のいい製品を現場に提供
――家電のイメージが強いパナソニックの製品や技術が、BtoBビジネスを推進しているのはなぜでしょうか?
辻:逆説的な言い方になりますが、BtoBの領域こそ、家電メーカーの強みが活きるからです。家電をつくるには、人の行動や思考を理解する「人間工学」が欠かせません。パナソニックには創業から100年近く、この「人間工学」を研究してきました。その思いは、パナソニックのブランドスローガンである「A Better Life, A Better World」にも込められています。全社の売上でいうと、すでにBtoBの比率が過半数を超えており、パナソニックはBtoBビジネスの会社と言っても過言ではありません。
もちろん、「製造」「物流」「流通」以外の「パブリック」「航空」「エンタメ」などのBtoB領域においても家電メーカーとしての知見が同じように活きています。
たとえば、羽田空港で使われている「顔認証ゲート」は、パナソニック製です。このゲートでは旅行者がディスプレイに表示されている文字を読んでいるうちに、顔認証が終わります。また、パスポートは上下逆さまでも読み込めるようになっています。
つまり、テクノロジーに人が合わせるのではなく、テクノロジーを人の行動に合わせるということを大事にしているのです。また、ゲートの筐体は白を基調とした温かみのあるデザインになっています。
利用者のことを第一に考え、使い心地を追求する。この点についてはBtoB専門のメーカーよりも、一日の長があると自負しています。
辻:「製造」「物流」「流通」の現場には、必ず「人」が存在します。性能や機能はもちろん大事ですが、パナソニックは「人」に寄り添った製品や技術を現場に提供しつづけることで、お客様のお困りごとの解決に貢献したいと考えています。
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