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いま物流業界では、人手不足解消や環境負荷削減のため、トラック主体の長距離輸送を鉄道や海運に置き換える「モーダルシフト」の取り組みに注目が集まっている。その中でも2017年1月、競合するアサヒビールとキリンビールというビールメーカー同士が北陸向けの商品を「モーダルシフト」で「共同輸送」する「共同モーダルシフト」を実現し、話題になった。その取り組みを支えた物流企業、日本通運営業開発部(食品・飲料)の髙市将部長、今田満則次長と、JR貨物鉄道ロジスティクス本部営業部の佐々木康真担当部長、吉田剛実係長に、共同モーダルシフト実現の舞台裏と物流業界が抱える課題について語ってもらった。

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競合するビール2社での共同輸送はどのように始まったのか

――現在、ビール類の輸送は、どのように行われているのでしょうか。

髙市: ビール工場から配送センターまでは、距離に応じてさまざまな物流モード(輸送手段)が利用されています。特に1000kmを超えるような長距離輸送ではトラックだけでなく、以前から鉄道や船舶なども利用されてきました。次第に500~600㎞、最近では200~300㎞といった中距離輸送に関しても、従来のトラックから鉄道への切り替えが進んでいます。これが「モーダルシフト」と呼ばれる取り組みで、近年活発になってきています。

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日本通運株式会社 営業開発部(食品・飲料)部長 髙市将氏
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日本通運株式会社 営業開発部(食品・飲料)部長 髙市将氏
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――2017年1月からアサヒビールとキリンビールは、北陸向け商品を共同で鉄道輸送する「共同モーダルシフト」を始めました。この取り組みが始まった経緯を教えてください。

髙市:背景には、CO₂排出量の削減に加えて、昨今取り沙汰されているトラックのドライバー不足による「安定供給」への懸念がありました。

もともと2社は北陸の得意先に対して、アサヒビールは名古屋工場から、キリンビールは名古屋工場や滋賀工場から、200~300㎞の距離を大型トラックで直送していました。ところがビール業界の情報交換の場で、両社とも北陸に配送拠点を持ちたいと考えていたことが、お互いに分かったそうです。

そこで、もともと物流を担当させていただいていた私ども日本通運に、アサヒビールとキリンビールの2社から、北陸に配送拠点を構えて名古屋工場から北陸まで共同で鉄道輸送ができないか、というご相談をいただきました。そして、2016年1月から、アサヒビール、キリンビール、JR貨物、日本通運の4社で協議を始めました。

当初は、名古屋貨物ターミナル駅と金沢貨物ターミナル駅の間に、専用列車を走らせようと考えていたのですが、コストや運行ダイヤなどの都合で実現せず、協議も頓挫しかけました。そんな中、JR貨物さんと継続して協議するなかで、名古屋ではなく関西の工場から発送することはできないか、という提案が出てきました。

佐々木:鉄道輸送については、JR貨物からお話しさせていただきます。実は、北陸から関西方面の鉄道輸送については、紙パルプやケミカルメーカーの工業製品など、ある程度の貨物量があります。しかし関西から北陸への打ち返し便は貨物が少なく、収益にならない「空コンテナ」を回送することが多かったのです。

吉田:列車は片道ではなく、往復で運行しなければいけません。列車を戻さないと、次の荷物が積めない。そこで生まれたのが、関西から送っている空コンテナを、ビール2社にご利用いただいてはどうか、という案でした。

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日本貨物鉄道株式会社 ロジスティクス本部営業部 担当部長 佐々木康真氏、係長 吉田剛実氏
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日本貨物鉄道株式会社 ロジスティクス本部営業部 担当部長 佐々木康真氏(写真右)、係長 吉田剛実氏(写真左)
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髙市:発送元の工場を変更するということは、生産拠点を変更するということで、とても難しいだろうと思いながらご相談しました。しかし、その後両社にご検討いただいた結果、キリンビールは神戸工場、アサヒビールは吹田工場(大阪府)で生産したものを北陸に送るということになり、そうしたら鉄道輸送で安定供給ができるだろうと、具体的な協議に進むことになりました。

物流の課題を生産部門も巻き込んで解決

――生産拠点を変えるというのは、メーカーにとっては大きな決断ではないでしょうか。

吉田:はい。安定供給のために北陸に拠点を持つことへのニーズが、それだけ強かったということですね。

髙市:従来は荷主の物流部門だけで解決していた物流の課題について、生産部門を巻き込んで解決を図った。アサヒビール、キリンビールともに、サプライチェーンマネジメントを経営課題として認識されているということだと思います。

工場はそれぞれ、生産数量の上限が決まっています。その中で、北陸向け商品の生産拠点を名古屋から関西へ変更するということは、名古屋工場は生産数量が少なくなり、生産効率が悪くなる一方、関西の工場は今までより多くの商品を作らないといけません。しかしそれだと、関西の工場は生産数量がオーバーしてしまう。

そこで例えばアサヒビールでは、吹田工場が担当していた広島向け商品の製造を、九州の博多工場の担当へ変更されたそうです。生産部門の方で、大変な調整をされた。それだけ大規模なことを決断されたんですよね。

こうして、協議開始から1年後の2017年1月に、石川県への鉄道網を利用した共同輸送がスタートし、さらに18年2月には富山県にも拡大しました。

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出典:日本貨物鉄道株式会社提供の資料を元にGEMBA編集部にて作図
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出典:日本貨物鉄道株式会社提供の資料を元にGEMBA編集部にて作図
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――競合メーカーが手を組んで共同輸送するというのは、画期的な出来事ですね。

髙市:確かに以前は、考えられないことでしたね。物流を共同で行うと、どんな商品がどのくらい売れているのか、ということが他社にわかってしまいます。今でもそれを嫌って、商品を競合と同じ倉庫に入れたくない、というお客様もいます。ただそういうお客様が、減りつつあることも確かです。

アサヒビールとキリンビール、それぞれの担当役員の方がおっしゃっていたのですが、「マーケティングや営業という分野はまさに競合していて譲れない。しかし物流に関しては、協力してやっていける部門なので、そこは分けて考えていきたい」と。この考え方は、他のメーカーにも広がってきています。

メーカー4社に広がりをみせる共同輸送

――2018年4月からは、サッポロビール、サントリーも加わって、ビールメーカー4社での大阪―福岡間の共同輸送がスタートしました。

髙市:そうですね。しかし、ドライバー不足に対応するために全国各地でモーダルシフトを進めたいと思っても、需要の高い路線ではそもそも配送に使える列車が空いていませんでした。

佐々木:この4社共同輸送のためにJR貨物から、大阪―福岡間で毎週月曜日に運休列車があるので、それを使ってはどうか、という話を提案しました。ただ、貸切専用列車として走らせるためには、少なくとも1運行あたりコンテナ80個分(10トントラック32台分)の貨物が必要です。ビールメーカー1社では貨物量が足りなかったため、ビール4社、さらにはグループ会社の飲料メーカーも含めて、コンテナ80個分の貨物をそろえていただくことになりました。

髙市:関西の各貨物ターミナル駅から、大阪貨物ターミナル駅に各社の貨物を集めました。それでも貨物量が足りなかったため、途中で岡山貨物ターミナル駅に寄ってアサヒ飲料岡山工場と、サッポロビール岡山ワイナリーの貨物を積み込み、積載率を上げました。

こうして、月曜大阪発・火曜福岡着の専用列車「ビール4社号」運行の目途が立ったのです。しかし、ふつうは貨物列車への集荷、貨物列車からの配荷は1日でするものですが、それでは日本通運が担当するトラックが回らない。というのも提供できるトラックの台数が限られている上に、通常業務にプラス、列車1本分の業務が増えるためです。そこがボトルネックでした。

そこでビール4社にご相談したのは、リードタイムを長く取っていただけないかということ。つまりは1週間かけて集荷し、月曜大阪発・火曜福岡着の後、また1週間かけて配荷する。リードタイムは長くかかるけれども、安定供給の数量は増えます。検討の結果、安定供給を優先することを、受け入れていただきました。

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出典:日本通運株式会社提供の資料を元にGEMBA編集部にて作図
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出典:日本通運株式会社提供の資料を元にGEMBA編集部にて作図
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佐々木:また、復路、福岡―大阪間の上り列車は、なかなか打ち返しの荷物がなく空コンテナが多いので、そちらのご利用もご相談させていただきました。

髙市:サッポロビールは関西に工場がなく、大分県の日田工場、静岡県焼津市の静岡工場から輸送しています。そこで日田工場の商品を一部モーダルシフトさせていただきました。他にもビール4社の空瓶や空樽の輸送を、鉄道に切り替えました。

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メーカー4社に広がりをみせる共同輸送
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広がりを見せる「モーダルシフト」

――ビール業界以外にも、モーダルシフトの事例はありますか。

佐々木:すでに様々な事例があります。食品大手のネスレ日本は、各エリアの出荷基地を廃止し、工場から量販店の配送センターまで鉄道で直送しています。CO₂排出量の削減や、より低コストで高鮮度な製品提供を実現するための取り組みです。

P&Gとパナソニック・アプライアンス社には、異業種間で大型コンテナを往復利用していただいています。P&Gの化粧品用ガラス瓶容器を東京から京都へ輸送し、パナソニック・アプライアンス社の給湯器を京都から東京へ輸送するという取り組みです。「共同モーダルシフト」の一例ですね。

貸切専用列車も続々と誕生しています。積み合わせ貨物では、佐川急便の「スーパーレールカーゴ」、福山通運の「福山レールエクスプレス号」などもあります。またトヨタ自動車の自動車部品専用列車「TOYOTA LONGPASS EXPRESS号」は日本通運との共同事業で、2006年からスタートし、現在は名古屋南貨物駅から盛岡貨物ターミナル駅間を1日2往復運行しています。

――このような取り組みは、今後も広がっていくのでしょうか。

佐々木:今後も広げていきたいですね。今回の事例では、共同モーダルシフトによってビール2社が北陸への安定供給を実現し、日本通運はビジネスに繋がり、私どもJR貨物は収益にならない空コンテナを活用できました。4社がウィン―ウィンの関係になれた、まさにモデル的な事業です。

髙市:複数の企業が協力し合って進める「共同モーダルシフト」は、これから更に広がっていくと思います。そのためには、私ども通運業者が、企業間のマッチングを積極的に推進していかねばならないと考えています。

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いま物流業界では、人手不足解消や環境負荷削減のため、トラック主体の長距離輸送を鉄道や海運に置き換える「モーダルシフト」の取り組みに注目が集まっている。その中でも2017年1月、競合するアサヒビールとキリンビールというビールメーカー同士が北陸向けの商品を「モーダルシフト」で「共同輸送」する「共同モーダルシフト」を実現し、話題になった。その取り組みを支えた物流企業、日本通運営業開発部(食品・飲料)の髙市将部長、今田満則次長と、JR貨物鉄道ロジスティクス本部営業部の佐々木康真担当部長、吉田剛実係長に、共同モーダルシフト実現の舞台裏と物流業界が抱える課題について語ってもらった。
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日本通運×JR貨物が推進する「モーダルシフト」の可能性ーービールメーカー4社が物流で協業を実現
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日本通運×JR貨物が推進する「モーダルシフト」の可能性ーービールメーカー4社が物流で協業を実現
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取材・文:小泉明奈(POWER NEWS)、写真:藤牧徹也