国内最大手の総合物流企業・日本通運と、国内で唯一、全国ネットワークを有する貨物鉄道輸送を手掛けているJR貨物。日本の物流の大動脈を担う2社が協働する背景には、CO₂排出量の削減、トラックドライバー不足、さらには2018年に頻発した自然災害への対応など、業界全体が抱える課題があった。日本通運営業開発部(食品・飲料)の髙市将部長、今田満則次長と、JR貨物鉄道ロジスティクス本部営業部の佐々木康真担当部長、吉田剛実係長に、その課題の克服と安定供給の追求について話を聞いた。物流業界が、今こそ取り組むべきこととは。
「モーダルシフト」で、CO₂排出量の削減とトラックドライバー不足に挑む
――トラックでの貨物輸送を鉄道や内航海運に転換するのが「モーダルシフト」ですが、それを推進している背景を教えてください。
佐々木:「モーダルシフト」という言葉は20~30年前からありました。はじめは環境意識の向上がきっかけで生まれた、輸送におけるCO₂排出量を減らすための考え方です。貨物輸送の輸送機関の中でCO₂排出量が最も少ないのは鉄道で、営業用トラックの約11分の1です。
佐々木:また、ここ10年で進行しているのが、恒常的なトラックドライバー不足です。新規の大型免許取得者は、2001年時点から3分の1に激減しています。ドライバーの高齢化も進行しており、40歳未満のドライバーは、2001年時点では全体の52%でしたが、2015年の段階では27%と3割を切っています。「CO₂排出量を減らす」「人手不足を解消する」という2つの背景から輸送手段としての鉄道に関心をいただいているのだと思います。
髙市:日本通運でも、10年以上前からドライバー不足を実感しています。今後もドライバー不足は続く見込みで、2027年には日本全体で24万人のドライバーが不足するという分析もあります(ボストンコンサルティンググループ調べ)。それに加えて、「働き方改革関連法」が2019年4月に施行されたこともあり、ドライバーの労働時間削減も進めていく必要があります。そこで注目されているのがモーダルシフトです。貨物列車なら1人の運転手で、最大10トントラック65台分の貨物が運べます。
佐々木:補足させていただくと、ドライバー不足についての認知が広がるきっかけとなった出来事として、2014年4月の消費増税がありました。消費税が5%から8%になる前の駆け込み需要で、2月ごろからJR貨物の輸送量が爆発的に増えたのです。一方でトラック業界では、かなりの欠車が発生しました。ドライバー不足が社会的に認知される、大きなきっかけになったと思います。
髙市:2018年も物流業界において、潮目が変わった年となりました。自然災害が多かったためです。北陸の大雪に始まり、6月の大阪府北部地震、7月の「2018年7月豪雨(西日本豪雨)」。夏の記録的猛暑で、飲料やビールの需要が高まっていたものの、9月には台風が関西などに上陸し、北海道胆振東部地震も起きました。全国的にさまざまな被害が出ました。
物流は「コスト」ではなく「価値」がある
髙市:私は営業部門の担当なんですが、2018年はオペレーション部門のような仕事ばかりしていましたね。西日本豪雨の際は、事務所の机に九州・中国・四国・関西の地図を広げて、この道路、線路が不通になった、じゃあどのルートで輸送しようか、と社員総出で相談しました。9月に地震が起きて、北海道の地図も広げて対応に明け暮れました。
佐々木:西日本豪雨の際には、関東から九州向けの鉄道の大動脈である山陽線が止まってしまいました。JR貨物としてもさまざまな鉄道利用運送事業者にトラックを出してもらい、不通区間の代行輸送の確保に奔走していました。また、運行開始までに時間を要しましたが、山陰線への迂回列車の運転も行いました。
髙市:一度に大量の輸送が可能な鉄道貨物をトラックで代行輸送しようにも、さすがに全量は無理です。あふれた分は、運休中の船をチャーターして海上輸送しました。JR貨物のコンテナをお借りしたり、通常は使わない輸出用コンテナを使ったりして、飲料などを工場から船で九州の博多港に運びました。
佐々木:あの時は、「国内船舶の499船(一般的な貨物船型)がなくなってしまうのではないか」というくらい、多くの船をチャーターしました。日本通運をはじめ、全国通運の皆様にご協力いただきました。
――自然災害の多かった2018年を経て、現在はどのような対策をしていますか。
佐々木:代行輸送力を増やすのに時間がかかったという反省のもと、素早く確保するためのシミュレーションを精緻に行なっています。代行輸送で大量のトラックを使ったことで、駐車場やドライバーの宿泊施設の確保にも苦労しましたので、行政にお願いして事前準備に協力いただいています。国も危険性の高いエリアを中心に、交通網の機能を維持するための予算を確保しています。
髙市:2018年の度重なる災害によって、1つの輸送モードに偏ってしまうと非常にリスクが高い、という認識が広がりました。1つのモードに集中した方がコストは抑えられるかもしれませんが、コストよりも安定供給を重視し、多様なモードを確保するという動きが、2018年から特に顕著です。
モノをつくっても、エンドユーザーのお客様に届かなければ、意味がありません。2018年は「コスト」と捉えられていた物流が「価値」であると意識が変わる節目となりました。そのほかにも、メーカー側の災害対策としては、長距離輸送を極力発生させないようにしている、と感じます。
究極は運ばずに近くで製造するということでしょうか。実際に、「パッカー」(飲料受託製造企業)と呼ばれるボトリングや製造をする会社に製造ラインを作ってもらうよう、メーカーが働きかける動きが広がっています。こうした“地産地消”でモノを動かさないようにするという動きは、北海道や九州など首都圏から離れた地域で顕著になってきています。
ドライバー不足を解決するため取り組むべきは人の作業負荷減
――ドライバー不足という業界課題を解決するために、現在取り組まれていることがあれば教えてください。
佐々木:トラックドライバー不足という問題は、今後自動運転などの技術が発達するとしても、解決にまだまだ時間がかかるでしょう。そのためモーダルシフトは、これからも必要な取り組みの1つだと考えています。一方で、私たちJR貨物では、フォークリフトで荷役(積み込みや荷下ろし)をするオペレーターが不足しつつあります。ドライバーとオペレーター、双方の作業負担を軽減していかなければなりません。
髙市:私ども日本通運も同じく、しばらくは現在の物流課題は解消しない、と考えています。その1つに、ドライバーの労働時間の中で手荷役が非常に大きい割合を占めており、いかにそれを短くするかという課題があります。大型の10トントラック車にバラ貨物を積むためには、積み込みに2時間、さらに荷下ろしにも2時間かかっているのです。
そのため、荷物のパレット化を推進しています。パレットとは荷物を単位数量にまとめて載せる台で、パレットでまとめてあれば、大型車に15~20分で積むことができます。そういう意味で、パレット化は物流業界にとって重要な手段で、これからより進展していくと思います。
佐々木:JR貨物グループの「中期経営計画2023」では、駅ナカ・駅チカの改良を掲げています。駅構内にトラック持ち込み・積み替え場所や、倉庫を設けることで、より使いやすい貨物駅にしていきます。また新技術の導入により、荷役や貨車の入れ換え作業の自動化・省力化も目指しています。このような取り組みを進め、今後もモーダルシフトの期待に応えていきたいと思います。
――物流業界の将来に向けて、長期的な視点で取り組まれていることはありますか。
髙市:新たな取り組みとしては、物流4社で連携し、1台で大型トラック2台分の荷物を運べる「ダブル連結トラック」を使った共同輸送を、2019年3月から東京―大阪間で始めています。また自動運転では、「カルガモ輸送」という、トラック複数台での隊列走行の実証実験も進んでいます。
国土交通省、経済産業省、農林水産省による「ホワイト物流」推進運動は、荷主企業・物流事業者の双方が、物流の効率化や、より「ホワイト」な労働環境の実現を目指す取り組みです。既に多くの企業がこの運動への賛同を表明しており、社会的にも、物流に対する意識が変わってきていると感じています。お客様のご要望である「安定供給」は、物流業者の命題として今後も取り組んでいきたいと思います。
佐々木:JR貨物も、全国ネットワークで貨物列車を運行している国内唯一の会社として、安定供給の推進に一層励んでいきたいです。
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