1985年の創業以来、サプライチェーン向けにさまざまなソリューションを提供してきたBlue Yonder(旧JDA Software)。現在、同社が取り組んでいるのはAIや機械学習、IoTなどの最新技術を活用した「自律型サプライチェーン」の構築支援である。「実現すれば、あらゆる現場の全体最適化が自動で行われるようになる」。日本法人「Blue Yonderジャパン」の代表取締役を務める桐生卓(きりゅう・たかし)氏に、“自律型”サプライチェーンのポテンシャルや日本企業のサプライチェーンが抱える課題についてうかがった。
サプライチェーン・マネジメントのソリューションを全世界4000社以上の顧客に提供
――はじめにBlue Yonderがどんな会社なのか教えてください。
桐生:弊社は1985年にアメリカで創業したサプライチェーン・マネジメントを専門とするソリューションベンダー(販売元)です。資材調達から製造、物流、配送、小売まで、「end to end」(上流から下流まで)のサプライチェーン最適化をコンセプトに掲げ、これまで製造、流通、物流など、全世界4000社以上の顧客にさまざまなソリューションを提供してきました。
具体的には「生産計画の立案」「在庫管理」「物流・配送の効率化」「人員配置の最適化」などを支援するシステムです。たとえば北米では、スターバックスに要員管理システムを利用いただいています。各種データから店舗ごとの混雑具合を予測し、アルバイトを含め約6万人いる人員を、どの店舗にいつ・何人配置し、どのようにシフトを組むのがベストなのかを自動的に提案してくれるというシステムです。
桐生:日本進出は1997年。現在まで国内大手企業100社以上に導入実績があり、たとえばソニーには液晶プラズマディスプレイの生産計画システムを提供しています。各国にある工場の在庫や稼働状況を一元管理し、全体で最適となる生産計画を即座に導き出すというものです。また、国内小売り最大手のイオングループにも、プライベートブランド商品の生産計画システムをご利用いただいています。
――御社のソリューションの導入先に大手企業が多いのはなぜでしょうか。
桐生:弊社の強みは、創業から30年以上蓄積してきたノウハウを生かして、「全体最適」のソリューションを提案できることです。たとえば、お客さまから「ある工場に生産管理や計画システムを導入したい」という相談をいただいた場合、「1つの工場だけでなく、全工場の生産計画、在庫、物流を一元管理できるシステムを導入しませんか?」と、提案することが少なくありません。そのほうが導入効果は高く、結果的にお客さまの利益の最大化につながりやすいからです。
しかし当然、なかなか首は縦に振ってもらえません。大規模なシステムの導入には相当額の投資が必要ですし、導入したシステムを最大限有効活用するためには、組織や業務の進め方を見直したり、従業員の働き方を変えていただかないといけないケースもあります。そのため結果的に、全体最適の仕組みでスケールメリットが出やすい大手企業の皆様に導入を検討いただくことが多くなっています。
日本企業の課題は「縦割り型の組織運営」
――サプライチェーン・マネジメントの分野において、グローバルにソリューションを提供されている御社から見て、日本のサプライチェーン特有の課題はどんなところだと思われますか。
桐生:やはり「縦割り型の組織運営」が問題ではないでしょうか。日本企業は部署別、職能別、拠点別にセクションを分断した個別最適の組織運営を得意としてきました。そうすることで、セクション内の連携は高まり、部分的には業務効率はアップするのですが、セクション間の連携は希薄になるため、会社全体でみれば業務効率があがっていないのです。
そして、工場もいわば1つのセクションとして分断されているというのが、日本の企業の実状です。外資系のグローバル企業と比べると、日本のメーカーは工場同士の「横の連携」が弱い。本社主導で製造現場に横串を通し、全体の最適化を押し進める必要があると思います。そのサポートをBlue Yonderが担っているというわけです。
――昨今、企業のビジネスや組織を変革するDX(デジタル・トランスフォーメーション)の必要性が語られる機会が増えていますが、うまくいっていない企業も多いようです。ここにも日本の企業カルチャーが関係しているのでしょうか。
桐生:そこにも日本独特の組織運営のデメリットがあると思います。多くの日本企業には、いまだ「年功序列、減点主義」が根強く残っていると感じます。90年代ではこうした日本式のやり方が世界で絶賛されていましたが、そんな組織からは、リスクを負って業務改革やイノベーションを起こそうという人は出てきません。
桐生:特にアメリカは「加点主義」です。新しいことにチャレンジし、成功した人だけが評価される。当然、アイデアは生まれやすくなりますし、リスクを負ってでも経営改革や組織改革にもどんどん挑戦していこうという気風になる。日本に比べて、アメリカではDXが機能しやすく、その成果として新しいテクノロジーも次々と生まれています。
また、「同調意識」が強いというカルチャーもDXがうまくいかない原因だと思います。弊社のシステムは会社全体で働き方を変えるなど組織をまたいた変革が必要になるため、経営陣から「他社の成功事例をみせてほしい」と言われることが少なくありません。「他社が使っていれば、安心して導入できる」というのがその理由です。
しかし、そもそもシステム導入の目的は「課題解決」です。課題を解決できるのであれば、他社が導入していようがいまいが関係なく、どんなテクノロジーが使われているのかも本質的には重要ではありません。
日本企業は「同調意識」を捨ててリスクを覚悟し、もっと積極的に改革にチャレンジすべきです。そうしなければ、時代の趨勢(すうせい)に取り残され、徐々に企業体力が奪われて、チャレンジする機会そのものが失われてしまいます。
自動的に全体最適化が可能になる「自律型サプライチェーン」
――あらためて、Blue Yonderが提供しているソリューションについて、詳しく教えてください。
桐生:私たちが提供しているのは「自律型サプライチェーン」を実現するための仕組みです。ひと言でいうと、「あらゆる状況で自動的にサプライチェーン・マネジメントの全体最適化を実現してくれるシステム」です。サプライチェーン・マネジメントの現場では、日々さまざまな問題が発生しています。たとえば、「配送トラックが遅れて部品が届かない」「タンカーが座礁して製品が海に沈んだ」「大得意から3日後に製品を大量納品してほしいと依頼された」など、事前にどれだけ綿密な計画を立てても予想外のトラブルは起きるものです。
こうした事態に直面したとき、これまでは現場の責任者や経営者が過去の経験などを頼りに解決策を考えてきました。しかし「自律型サプライチェーン」では、「問題が起きた状況」「その際に講じた対応策」「その後の結果」をデータ化してマシンラーニング(機械学習)させることで、AIがベストな解決策を提案してくれるようになるのです。
たとえば「大得意から3日後に製品を大量納品してほしいと依頼された」場合には、
① 「海外拠点から在庫を取り寄せる:利益200万」
② 「下請けの工場に発注する:利益50万円」
③ 「他の製品の製造をストップし、製造ラインを増やして対応する:利益400万円」
というように、AIが過去のデータを分析して、金額などの指標とともにいくつかの解決策を示してくれるというイメージです。
さらには、起きてしまった問題だけでなく、今後起こり得る問題も予測し、発生前に未然に対処することができるようにもなります。
――画期的なシステムですね。現状はどこまで開発が進んでいますか?
桐生:小売分野ではすでに自律型サプライチェーンに近いソリューションを提供できています。
弊社は数年前に、小売業向けにAIを利用した最適化システムを提供していたドイツのBlue Yonder社を買収しました。(2020 年2月、JDA Softwareから、この買収したBlue Yonderへの社名変更を発表)
曜日、天気、気温、日付などの小売属性を200項目ほど用意し、それらの項目と商品を紐づけて売り上げのデータを集めることにより、利益を最大化できるというシステムです。データが揃えば、たとえばスーパーでは、生鮮食品をどのくらい仕入れるべきか、何時から惣菜の値引きを開始すればいいのかなどを自動的に提案してくれるようになります。この仕組みは食品廃棄ロスの課題解決にも貢献できるはずです。
しかし、製造、物流の分野では、まだ自律型の実用化には時間がかかりそうです。前述したように、日々さまざまな突発的なトラブルが起こるために、そうした際のデータを網羅するには、小売以上に膨大な時間と手間がかかる場合が多いからです。当然、弊社がすでに製造業向けに提供しているシステムでもデータを集めているのですが、それだけではデータの量が足りません。そこで、2019年4月にパナソニック・コネクティッドソリューションズ社(CNS)と協業するに至りました。
――なぜパナソニックCNS社との協業を選んだのでしょうか。2社の役割分担についても教えて下さい。
桐生:パナソニックは世界トップクラスのセンシング技術などを活用した多彩なエッジデバイスを、さまざまなサプライチェーン・マネジメントの現場に提供しています。そのエッジデバイスを通じて、製造、物流の現場で起こるありとあらゆるデータを収集したい。そのデータを「自律型サプライチェーン」の開発に活用したいという狙いがあります。
つまり、パナソニック社のエッジデバイスでデータを収集する領域をさらに広げ、それを弊社のソフトウェアで可視化する、というソリューションを実現したいと思っています。
また、そうして収集したデータをもとに新たなソフトウェアを開発し、パナソニック社のエッジデバイスと組み合わせれば、さらに効果的で多様なソリューションをサプライチェーンの現場に提供できます。製造、物流、流通という両社が主戦場とする「現場」で、タッグを組んで「暴れる」ことができるというわけです。
――両社の強みを生かしたソリューションが実現すれば、サプライチェーン・マネジメントの現場に大きなインパクトをもたらしそうですね。協業の現状と、今後の展望について教えてください。
桐生:現在は、昨年11月末に立ち上げた合弁会社「JDAパナソニック ビジネスソリューションズ社」を通じて、両社のサービスや業務の進め方などを確認しあっている段階です。なるべく早く、両社の強みを組み合わせた独自のソリューションを提案していきたいと考えています。
個人的には、日本で実績をあげたソリューションを海外に展開することを目標にしています。日本から世界中のサプライチェーンの「現場」を変えていきたいと思っています。
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