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ライフスタイルアクセント株式会社が展開しているファッションブランド「ファクトリエ」は、日本製の高品質な商品を適正価格で提供し、人気を博している。2012年に創業した同社は、「D2C(Direct to Consumer)」というビジネスモデルを採用し、ブランドを重視しながら、工場から消費者へ中間業者を介さず商品を売っている。その背景には、「作り手の想いを伝える」服で日本の縫製工場を元気にしたい、という山田敏夫CEOの熱い思いがあった。商品の使い手(消費者)、作り手(工場)、伝え手兼売り手(ファクトリエ)、社会がよしとなる「四方(しほう)よし」のサスティナブルなものづくりを実現したいという、ファクトリエのビジネスを伺った。

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作り手の想いを伝えるために、手段としての“D2C”へたどり着く

――ライフスタイルアクセントの事業内容について教えて下さい。

山田:メイドインジャパンの工場直結ECファッションブランド「ファクトリエ」を運営しています。店舗もありますが、あくまでもフィッティングスペースとして運営しており、基本的にはECから購入していただきます。商社や卸などの中間業者はおらず、「作り手」である工場と「使い手」である消費者をファクトリエのサイトで繋いでいる、いわゆる「D2C」というビジネスモデルです。

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【用語解説】
D2C
「Direct to Consumer」の略で、商品を消費者に直接販売する仕組みを指す。

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――山田CEOがライフスタイルアクセントを起業し、ファクトリエブランドを始めたきっかけを教えてください。

山田:ものづくりには高い技術力が必要ですが、それをどのように価値に変えるかという点こそがより重要だと考え、現在のファクトリエができました。この考えは2つの経験に大きな影響を受けています。

僕の実家は熊本市の商店街にある100年続く洋品店で、子どもの頃から店を手伝っていました。お客様は40年前に購入した服も大切に着てくださっていて、そのときの経験から「日本製の仕立てのいい服は長く着ることができるんだ」と知りました。

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山田敏夫CEO
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山田:また、学生時代に留学先のパリで高級ファッションブランド「グッチ」のパリ旗艦店に勤めた経験も影響しています。仕事仲間から「日本にはものづくりから生まれた本物のメイドインジャパンブランドがない」と指摘され、そのことがショックでした。同時にフランス・シャンパーニュ地方のブドウで作られたスパークリングワインだけが「シャンパン」と呼ばれる、というように「ブランド化」していることを知り、シャンパーニュの農家の人たちが日本の農家では考えられないような高収入を得ていることに大きな衝撃を受けました。

「ブランドは質の高いものづくりからしか生まれない」ことと、「ブランドの価値づくりの大切さ」をパリで学んだのです。

その後日本に戻り、いくつかの会社にサラリーマンとして勤めながら、自分で起業するための事業計画書を作っていきました。この時には、ものづくり自体に価値を置く「作り手の想いを伝える」という現在のコンセプトが既にできていました。

――ファクトリエが、工場と消費者を結び付ける「D2C」のビジネスモデルとなったのはなぜでしょうか。

山田:ブランドを重視しながら工場から消費者へダイレクトに商品を売るECは、最近では「D2C」という言葉で表現され、注目されています。ただ、僕の場合はD2Cがしたくて起業をしたわけではありません。「作り手の想いを伝える」というコンセプトを実現する手段として、D2Cにたどり着きました。

当初の事業計画は実店舗を持つ前提で考えており、借金も覚悟していました。しかし私が起業しようとしていた2012年前後には、社会に大きな変化が起きていました。

1つ目は、スマートフォンが普及し、スマホで気軽にネットショッピングをする人が増えてきたこと。2つ目は、FacebookをはじめとしたSNSが日本で浸透し、広告費をかけずに情報を伝播できるようになったことです。3つ目は、これが僕にとっては最も大きな出来事でしたが、LCCの就航で飛行機代が格安になり、全国に点在している工場の皆さんに気軽に会いにいける環境が整ったのです。

これら3つの変化のおかげで、事業計画はガラッと変わりました。店の開店資金や広告宣伝費がほとんどいらない、ネット上で店を開くECで起業し、結果的にD2Cのビジネスモデルになりました。

工場とお客様、両者にとっての「適正価格」を実現

――ファクトリエの「工場を大切にする」仕組みとは、どういったものなのでしょうか。

山田:工場が利益を確保できる「適正価格」でのお取引をしています。作り手のこだわりを大切にしたいので、「どんな製品を作るか」や「価格」などはすべて工場で決定してもらい、僕たちがお願いすることはありません。通常、アパレルの原価率は15~20%程度といわれていますが、ファクトリエの原価率は50~60%です。つまりそれだけ、作り手である工場にお金をお支払いしています。

一方でファクトリエは、商社や卸などの中間業者を介さずに工場と提携して商品を作り、直接お客様に届けているので、お客様にとっては高品質な商品を従来の半額以下の価格で購入できるという利点があります。工場だけでなく、お客様にとっても「適正価格」になる仕組みです。

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適正価格になる仕組み
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山田:また、提携している工場向けの参考資料として、僕たちが毎週末に東京の百貨店やファッションビルを回って「市場レポート」を作っています。売れる商品を作るために「市場レポート」を元にしたマーケティング視点のアドバイスをしているのです。今どんなものが人気なのか、それを踏まえてどんなデザインで新商品を開発するか、値付けはどのくらいが最適なのかの参考にしていただいています。

提携している工場の皆さんにとってファクトリエと取引するメリットは、さまざまです。粗利がいいのはもちろんのこと、下請けでなくオリジナルのデザインを考えるようになったことで社員のモチベーションアップにつながったり、他社ブランドの製造請負(OEM)の閑散期に工場を稼働できたりする点などが挙げられます。また最近は、ファクトリエとの提携によって収益が上向き、社員の新規採用ができるようになったという工場もありました。工場が元気になるのが、とてもうれしいです。

――提携する工場はどうやって探しているのですか。

山田:それはもう地道な作業で、電車の急行や快速の停まる駅に降りて、そのエリアのタウンページに載っている縫製工場へ順に電話をし、直接訪問しています。僕自身はWEBを活用してビジネスをしていますが、ネットに載っている情報には限りがあって、リアルとは比べものにならないほど情報量が少ないと日頃から思っています。そのため、年間100社くらいの工場を自分の足で訪ねています。

訪れた工場では、ファクトリエというブランドのコンセプトを説明した上で、「工場内部を見せていただけませんか」とお願いします。ファクトリエの提携先は、単に日本の工場で「メイドインジャパン」を謳えればどこでもいいというわけではなく、技術力のある工場のみに限定させていただいています。技術力や工場の現場環境、サンプル品など、非公開の30項目のチェックポイントを必ず僕自身で確認し、提携するかどうかを判断しています。

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フィッティングスペースとして運営する店内には、技術力の高い工場が手掛けたさまざまな製品が並ぶ
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フィッティングスペースとして運営する店内には、技術力の高い工場が手掛けたさまざまな製品が並ぶ
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提携後の品質管理も徹底しています。生産開始前に、ファクトリエの品質管理担当者がサンプル品を厳格にチェックし、お互いが納得するまで、場合によっては十数回にわたってやり取りすることもあります。

こうして本当に技術力の高い工場とだけお取引をしていますので、これまで約700社の工場を見学させていただきましたが、実際に提携している工場は現在55社です。

ものづくりのブランド力を高め、お客様を「工場のファン」にする

――一般の方にとっては工場の技術力を知るのは難しいと思いますが、ファクトリエのお客様には「工場のファン」もいるそうですね。どのようにファンになっていくのでしょうか。

山田:最初は、ファクトリエの商品の機能面に注目して購入してくださる方が多いです。たとえば、通常の靴下の30倍以上の耐久性があり、万一穴が開いたら無償で新品と交換する「永久交換保証ソックス」(株式会社Glen Clyde)や、半永久的に撥水効果が持続する「ずっときれいなコットンパンツ」(株式会社レッドリバー)など、工場の技術の粋を結集した、高機能の商品を多く取り扱っているからです。それをきっかけに、品質の良さに満足していただけるようになり、最終的には各工場のファンになって、工場名も覚えてくださっています。

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永久交換保証ソックス
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消耗品だと思われている靴下の耐久性を向上させるために研究・開発を行っており、穴が空いた場合は無償で新品に交換するという「永久交換保証ソックス」。技術力の高さに裏打ちされた商品だ
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――品質以外で、お客様に「工場のファン」になってもらうために、取り組んでいることはありますか。

山田:とにかく工場のブランド力を高めるための取り組みに力を入れています。「ファクトリエ」というブランドタグには、各々の工場名を入れて販売していますし、商品お届けの際には工場からのお手紙も同封しています。またWEBサイトやSNSで、作り手の商品に対する熱い「想い」を、僕たちが代わりにお客様に向けてお伝えすることで、それまで裏方的な存在だった「工場」にファンがつく仕組みを実現しました。

また、お客様と工場とをつなぐ活動も積極的に行っています。全国のものづくりの現場を見学・体験できる「工場体験ツアー」では、参加したお客様から「ツアーに参加して、ますます商品への愛着が深まった」、「職人さんらの熱心な姿に感動した」といった声をいただいています。工場の皆さんからは、「エンドユーザーの方々の顔が見えてうれしい」「自分たちのやっていることを評価してくれて自信につながる」という感想もありました。

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工場文化祭の様子
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工場文化祭の様子
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年1回開催しているイベント「工場文化祭」も好評で、その人気はチケットが事前に完売するほどです。ファンの多い工場の方に、そのポイントを講演してもらったり、工場の若手二代目を集めたトークショーをしたり、最近は工場の人が一般向けに行うものづくりワークショップのコーナーも人気です。

「四方よし」を目指すことで、持続可能な仕組みを作る

――アパレル業界ではファストファッションが全盛ですし、製造業全体でもいかに安く作って売るかという発想の方が主流です。そんななかファクトリエのコンセプトが受け入れられるか不安ではありませんでしたか。

山田:現在はファストファッションの品質レベルも高いですし、日本でネクタイが一番売れているのは、なんと100円ショップの「ダイソー」です。確かに、「ファッションにはこだわらない、安ければいい」という消費者の方が主流といえるでしょう。

一方で僕たちは「身に着けるものは自分の想いを表現するもの、こだわりを話せるものがいい」という思想で行動しており、多様な価値観があっていいと考えています。実際、このコンセプトに賛同してファクトリエの商品を購入してくださる方々が、たくさんいらっしゃいます。

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山田敏夫CEO
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山田:アパレルの国内生産率は、1990年の50%から2014年にはわずか3%まで落ち込んでいます(出典:経済産業省「工業統計」/総務省「経済センサス」、財務省「貿易統計」/日本繊維輸入組合「日本のアパレル 市場と輸入品概況」)。メイドインジャパンの洋服が激減しているからこそ、その技術力を守っていくためにも、「作り手を大切にする」というビジョンには大きな意義があると考えています。

――ファクトリエの今後の展望をお聞かせください。

山田:自分たちが本気で欲しいものを丁寧に作ってくださっている、工場の皆さんを大切にする。これまでもこれからも、ただこれにつきます。

もちろん、工場という「作り手」だけを大切にしているのではありません。商品を購入してくださるお客様という商品の「使い手」や、作り手の想いを伝える僕たち「伝え手・売り手」が不満をためるかたちでは、いずれファクトリエ自体が立ち行かなくなるでしょう。

全員にとって無理のない合理的な形にすることで、「サスティナブルな(持続可能性のある)」仕組みができるのです。そのため、「四方よし」という理念を掲げています。「使い手」「作り手」「伝え手・売り手」、そしてそれを取り巻く社会、その「四方よし」を目指しています。

――オーガニックコーヒーのカフェや、コットンプロジェクトなど、ファクトリエブランドで多様な事業に取り組んでおられますね。なぜアパレル以外の事業を展開されているのでしょうか。

山田:アパレル業なのになぜ飲食業や農業に手を出すのかとよく驚かれますが、これもサスティナブルなものづくりを通じて「四方よし」という理念を実現するために始めた事業で、僕の中では自然なことなのです。

ファクトリエのお客様同士が語り合える場所を作るため、2019年10月、熊本に「ファクトリエ&コーヒー」をオープンしました。また2019年5月から「タネから育てる服」と題して始めたコットンプロジェクトは、山梨県南アルプス市の遊休農地を活用してオーガニックコットンを育てるというもので、SDGsの達成、地方活性、服育などに繋がればと考えています。このように、すべてはサスティナブルなものづくりに必要なことなのです。

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山田敏夫CEO
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山田:サスティナブルとは、「みんなが負けない」ことだと考えています。サプライチェーンの1つのかたちとして、それは決して不可能なことではありません。「作り手の想いを伝える」というコンセプトのもと、これからもファクトリエはこだわりを極め、「四方よし」を追及していきたいと考えています。

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ライフスタイルアクセント株式会社が展開しているファッションブランド「ファクトリエ」は、日本製の高品質な商品を適正価格で提供し、人気を博している。2012年に創業した同社は、「D2C(Direct to Consumer)」というビジネスモデルを採用し、ブランドを重視しながら、工場から消費者へ中間業者を介さず商品を売っている。その背景には、「作り手の想いを伝える」服で日本の縫製工場を元気にしたい、という山田敏夫CEOの熱い思いがあった。商品の使い手(消費者)、作り手(工場)、伝え手兼売り手(ファクトリエ)、社会がよしとなる「四方(しほう)よし」のサスティナブルなものづくりを実現したいという、ファクトリエのビジネスを伺った。
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取材・文:小泉明奈(POWER NEWS)、写真:渡邊大智