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星の数ほどの商品を標準化し、部品調達を革新する

――はじめに、御社の事業内容について教えてください。

吉田:ミスミは1963年に「三住商事株式会社」という製造業向けの専門商社として設立され、電子機器やベアリングなど生産設備や装置に必要な機械部品の販売を行ってきました。2005年には精密金型部品メーカーの「駿河精機」と経営統合をしたため、現在では機械部品の販売のみならず自社生産も行っています。アジア、北米、欧州を中心にグローバルな顧客のネットワークを築いており、取引先は国内外で約30万社に上ります。

ミスミは「ものづくりの、明日を支える。」というビジョンを掲げ、製造業のお客様が確実短納期で生産材調達をできる体制「ミスミQ(Quality=高品質)C(Cost=低コスト)T(Time=確実短納期)モデル」を世界展開しています。お客様の手間を減らして時間を創出できるよう、調達フロー全体の効率化に努めてきました。

お客様が機械部品を調達する際には、探す・選ぶ、見積もる・注文する、受け取る、というフローをたどります。「ミスミQCTモデル」によって、このフロー全体を効率化し、お客様が本来取り組むべき創造的な仕事により時間を使えるようにする点に、我々のサービスの存在意義があり、これを「時間戦略」と表現しています。

取り扱っている商品の数は、創業以来徐々に増えていき、現在は業界最大規模の2940万点です。このうちミスミブランド(自社生産)のファクトリーオートメーション(FA)装置用部品や金型部品は、サイズをミクロン(1000分の1mm)単位で指定することができるので、サイズ違いも含めると商品のバリエーションは800垓(がい)にも上ります。垓とは「星を数える単位」とも言われるそうで、億、兆、京(けい)の次の単位、800垓は1兆の800億倍です。まさに世界最大級のラインナップを取り揃えることができました。

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株式会社ミスミ3D2M企業体 代表執行役員企業体社長 吉田光伸氏
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株式会社ミスミ3D2M企業体 代表執行役員企業体社長 吉田光伸氏
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――機械部品の調達とは、製造業のサプライチェーンにおいてどのような役割や意義があるのでしょうか。

吉田:部品調達はメーカーにとって必要不可欠で重要なプロセスです。というのも、調達した部品によって作られる生産設備や装置によって、メーカーが自社の技術や特色を製品に反映できるかどうかが決まります。そのため、メーカーにとって部品調達という業務は、納期や品質、数量、コストのバランスを取りながら戦略的に行わなければいけないものであり、購買対象も多岐にわたります。

そもそも調達対象となる部品には、原材料や資材、部品といった製品を直接構成する「直接材」と、生産に必要な工具、設備・装置、保安資材、消耗品、燃料などの「間接材」の2種類があります。そのなかでミスミが製造・販売しているのは、主に製造業の間接材にあたる機械部品です。

生産設備や装置というものは、設計者が一から設計し、そこに使う部品も1点1点特別発注し、加工メーカーが受注生産することになります。

――部品調達のプロセスにおいて、一般的にどのような課題があるのでしょうか。

吉田:部品調達の分野において解決すべき最大の課題は、膨大な時間がかかるという点につきます。たとえば印刷機械のトナーカートリッジを製造する設備は、約1500点の部品から構成されています。その設備を作るためには、まず設計者が1点1点の部品について図面を1枚ずつ描いていくところから始まります。平均すると1枚につき30分はかかりますので、1500点の作図には750時間も費やされる計算になります。設計者の負担は大変なものです。

図面がすべて完成してようやく、部品を作ってくれる加工メーカーに相見積もりを取るのですが、その回答が返ってくるのにも1週間程度はかかります。その後、選定メーカーに発注してから納品までさらに2週間ほどかかります。作図と合わせて約1000時間。1日10時間働いたとしても、約100日かかってしまいます。

製造業は日本国内に約38万社あります。各社が年1つの設備を更新すると仮定して、38万社×1000時間×時給3000円という計算で、年間約1兆円の間接コストが「部品調達」に浪費されているというのが実情です。製造業は日本のGDPの約2割を構成する日本の基幹産業なのに、時間とコストにおける無駄がこれほどに存在しているということは、大きな課題だと言えます。部品調達の分野にはまだまだ改善すべき余地があるのです。

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部品調達で必須とされてきた2D図面と、ミスミの調達プラットフォーム「meviy」の3DCADデータだけで手配できる様々な形状の部品
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部品調達で必須とされてきた2D図面(画像奥)と、ミスミの調達プラットフォーム「meviy」の3DCADデータだけで手配できる様々な形状の部品(画像手前)
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――この部品調達の課題に、御社はどのように取り組んできたのでしょうか。

吉田:弊社はこの課題解決のために、まず1977年に機械部品のカタログをつくりました。従来は、「特注品」としてすべて図面を描いて設計しなければならなかった機械部品ですが、そのうちの約半数を部品の寸法や仕様一覧表から選ぶだけで発注できる「規格品」としてカタログにまとめることで、部品調達にかかる時間を短縮するというイノベーションを起こしたのです。すなわち、部品を「標準化」したわけです。

機械などの回転軸となるシャフトを例に取ると、お客様が必要なシャフトの長さ、太さ、形状、材質、表面処理などの仕様をそれぞれカタログに沿って選んでいくと型番ができ上がり、その型番のみで発注ができるので作図が不要になりました。

さらに、このカタログ内に掲載されている各々の商品には、価格と納期を明示していますので、見積もりにかかる労力も不要になったのです。今ではミスミのカタログは、製造業の設計者、調達担当の方々にとって欠かせないものとなりました。2010年からはウェブでカタログを活用した「MISUMI-VONA」というECサイトでも販売しています。

「部品のカタログ販売」というビジネスはもう40年以上続けていますから、お客様の中にはミスミのカタログの型番が頭に入っていて、型番を見るだけで部品の形状が思い浮かぶという方もいらっしゃいます。

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ミスミのカタログによる仕様決定から発注までの流れ
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ミスミのカタログによる仕様決定から発注までの流れ【提供:株式会社ミスミ】
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――それまでできなかった「機械部品の標準化」と「価格と納期の明示」を、御社はどのようにして実現したのですか。

吉田:海外での「大ロット生産」による低コスト化、そしてお客様に近い工場で必要数のみを生産する「一個流し生産」によって実現することができました。まず、仕様に合わせて海外のローコストカントリーの大規模な工場で半完成品である「半製品」を大量に作ります。それを船で世界各国の消費地となる最終仕上げ工場に送っておき、お客様の注文が来てから、少し削ったり、先端だけ斜めにカットしたりするなど、注文通りに最終仕上げをして出荷しています。

――そもそも、実際の発注数が分からない段階で、価格と納期をカタログに明示できるものなのでしょうか。

吉田:そうですね、1万個の注文がくるのか、1個だけの注文なのか、受注生産なので事前にはわかりません。それなのに納期をあらかじめ決めてしまうというのは、実は製造業ではあり得ない、とても勇気のいることでした。しかしその中で、「確実短納期」にコミットすることによって、他社との競争で優位に立てたのです。現在、納期遵守率は99.96%を達成しています。

「部品のカタログ販売」がヒットした結果、ミスミは、現在世界中の顧客約30万社と直接取引をし、製造に必要な機械部品をワンストップで提供しています。カタログは各国ごとにあり、それぞれに価格と納期を明示しています。ミスミはものづくりの社会インフラとして認知いただいており、世界中の様々な現場で我々の製品が使われています。

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株式会社ミスミ3D2M企業体 代表執行役員企業体社長 吉田光伸氏
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すべては製造業における「不」の解消のために

――御社は創業当初、専門商社としてスタートしていますが、現在は商社とメーカー双方の機能をお持ちです。サプライチェーンの中での立ち位置が変化した経緯について教えてください。

吉田:創業者の田口弘は「持たざる経営」を掲げ、人事、情報システム、倉庫、生産機能も持たず、徹底してサービスにこだわりました。1963年の創業から2002年までに、カタログ販売の普及により500億円企業へと成長しました。これをミスミの第一創業期と位置づけています。

田口はミスミをもっと大きくしていくためには一流のプロ経営者が必要だと考え、2002年に「ボストン・コンサルティング・グループ」の日本国内採用第1号コンサルタントで、事業再生専門家として有名だった三枝匡(さえぐさ・ただし)を二代目社長として招きました。ここから「グローバル展開」と「戦略経営」という2軸をメインに据えてミスミは歩んできました。

それは、お客様が我々に期待してくださる「ミスミQCTモデル」のサービスを世界で提供し、世界の製造業を裏方として支えていくことでもあります。結果的には、製造業が抱える部品調達における不便・不平・不満といった「不」の部分、とりわけ調達に要する手間や時間の課題を解消していくことにつながっていきます。

国内では協力メーカーを複数組み合わせることで「ミスミQCTモデル」を築いていましたが、これを世界で展開するには、国ごとに協力メーカーを開拓していくことになり、多くの時間がかかるため現実的ではないと考えました。そこで、経営のスピードを上げるためにも、モノを仕入れて売るだけの商社ではなく、自社で製造できるほうがよいという判断をしました。2005年に協力メーカーで既に海外進出もしていた駿河精機と経営統合し、弊社は製造機能を持ちました。これによって、自ら「ミスミQCTモデル」を体現した製造を行えるようになり、海外展開がさらに拡大していきました。

その後現在の社長である大野にバトンが渡り、グローバル展開する前の2001年度と18年度を比べると、売上高は約6倍の3,319億円、社員数は340人からグローバルで1万人へと、大きく成長しました。そしてミスミのケイパビリティ(企業における組織的な能力)として、「変種変量短納期一個流し生産」という、どこも取り組んでいないであろう生産モデルを徹底的に磨き込みました。「変種変量短納期一個流し生産」とは、どんな種類でもどんな量でも、一個流し生産によって短納期をかなえる、というものです。我々はこれを「MPS」、ミスミプロダクションシステムと呼んでいます。

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「時間戦略」で製造業全体のDX推進に貢献

――御社が現在、注力している事業についてお聞かせください。

吉田:AIで価格と納期を瞬時に算出する「図面品」調達のプラットフォーム「meviy(メヴィー)」を開発し、2016年から段階的に運用し始めました。現在は40000人以上のユーザーにご利用いただいており、2020年度から海外展開も予定しています。

冒頭で、機械部品の約半数を「規格品」として標準化したと申し上げましたが、残る半数は標準化ができない「図面品」と呼んでいます。機械部品は、単純そうな形状に見えても、穴の位置や溝の形状など微妙な違いが発生することもあり、すべての設計や加工方法を一覧に落とし込み、標準化することはできませんでした。図面品についてはいまだに、1枚ずつ図面を描き、ファクスで見積もりを取るなどの煩雑な作業をしなければなりません。

このような図面品の調達にかかる時間を減らすために開発したのがmeviyです。meviyは部品の3DCADデータ(設計図)をアップロードするだけで即時見積もり、最短1日出荷を可能にするという画期的なサービスです。

ミスミは「ものづくりの、明日を支える。」というビジョンのもと、常に全体視点を持ち、製造業における環境の変化に適応しようと取り組んできました。そうして誕生したのが、カタログであり、部品調達領域のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するため最先端の技術を投入したmeviyです。

我々が部品調達にかかる時間の短縮に努め、新たな時間を創出することによって、お客様にはより価値の高いものづくりに取り組んでいただくことができます。我々のサービスが、製造業全体の活性化、競争力強化の一助になっていければと思っています。

【関連記事】 図面品の調達を自動化し製造業のDXに貢献する「meviy」で創造的な「時間」を取り戻す

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製造業向け機械部品の製造・販売を行っている「株式会社ミスミグループ本社」は、2940万点あまりの取り扱い部品を最短1日で出荷し、部品調達に費やされる時間を短縮する「時間戦略」で、製造業にイノベーションを起こし続けてきた。同社は半世紀以上前に機械部品の専門商社として誕生し、現在は部品の製造機能も併せ持っている。近年は海外展開を加速させており、取引先約30万社のうち6割以上が海外企業だ。世界中の製造業を裏方として支えているミスミのビジネスモデルについて、「株式会社ミスミ3D2M企業体」の吉田光伸代表執行役員企業体社長に伺った。
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世界の製造業を支えるミスミの挑戦ーー「時間戦略」でものづくりにイノベーションを
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取材・文:小泉明奈(POWER NEWS)、写真:渡邊大智