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製造業において、これまで「部品調達」のプロセスには多くの時間と労力が費やされてきた。「ミスミ」は40年以上前からこの部品調達の課題解決に取り組み、ついに画期的なサービス「meviy(メヴィー)」を生み出した。meviyはオーダーメイドの「図面部品」を、5秒で自動見積もりし最短1日での出荷を実現するという、次世代部品調達プラットフォームだ。その最大の目的は、部品調達にかかる時間を劇的に削減し、“時間価値”を提供することで、製造業全体が生み出す付加価値を高めることだという。株式会社ミスミ3D2M企業体の吉田光伸代表執行役員企業体社長に、meviyが製造業全体にもたらすインパクトについて解説してもらった。

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【関連記事】「時間戦略」でものづくりにイノベーションを――世界の製造業を支えるミスミの挑戦

価格と納期を5秒で明示、出荷は最短1日を実現したmeviy

――御社は製造業の生産設備や装置に必要な機械部品の標準化によって、部品調達の効率化を進めてこられました。その中でどういった課題を感じられていたのでしょうか。

吉田:これまで、図面をベースにした部品調達がものづくり全体のスピードを阻害するという不便・不平・不満があり、業界の課題となっていました。機械部品のサプライヤーの第一人者として、ミスミこそがこの課題を解決しなければならないという責任感を、長年持ち続けていました。

なぜなら、部品調達にかかる時間を大幅に短縮し、設計者がより創造的な「ものづくり」の仕事に時間を充てられるようにすることで、製造業を活性化し、強化することにもつながるからです。これが我々のミッションで、「時間戦略」と呼んでいます。

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meviyで取り扱う切削部品などや、板金部品
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meviyで取り扱う切削部品など(画像上段)や、板金部品(画像下段)
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製造業の生産設備や装置に必要な機械部品のうち約半数の部品については、ミスミが1977年にカタログ販売をスタートしたことで「規格品」として標準化させることができ、調達の手間を大幅に軽減できるようになりました。

しかしもう半数の部品については、複雑な形状のため標準化ができず、「図面品」として1つ1つの部品の図面を描いて、ファクスで送信して見積もりをとり、加工メーカーに発注し完成を待つという膨大な手間が相変わらずありました。

製造業全体でのデジタル化は進んでいます。規格品の設計にはCADやCAE(Computer Aided Engineering、コンピュータを活用した設計支援技術)が導入され、製造現場では自働化ロボットが活用されています。規格品の調達に関してはミスミのウェブカタログ「MISUMI-VONA」というECサイトもあります。しかし図面品の調達だけがいまだに、設計した図面を紙に印刷し、ファクスを送信して見積もりを取るという紙ベースのアナログな作業で、工程全体のボトルネックになっていました。

我々はこの図面品の調達領域におけるDXを推進することが、製造業全体を進化させるカギだと考えました。そこで、CADで作成した3Dの設計データをアップロードすると価格と納期が5秒で明示され、出荷が最短1日で可能となる、meviyという部品調達プラットフォームを作ったのです。

ミスミのカタログには、サイズのバリエーションを含めて800垓(がい、1兆の800億倍)のアイテムを取り揃えていますが、このプラットフォームはさらにそれを超えていくという決意を込めて、無限大を表す「メビウスの輪」からmeviyと名付けました。

発想の転換とシリコンバレーの開発手法でプラットフォーム化を実現

――meviyの開発に着手したのは、いつからですか。

吉田:meviy自体は、2013年から構想し、2014年から開発がスタートしました。しかし実は、meviyの原型となったコンセプトそのものは、1985年に取り組んでいたのです。インターネットもまだ普及していない時代でしたが、当時はミスミがCADを開発してお客様に提供し、それを使って作った設計図を電話回線で転送して、その設計図をもとに集中加工センターで製造して商品を提供するという仕組みでした。事業としては失敗に終わってしまいましたが、それからも何度もチャレンジを繰り返してきました。

図面品もカタログ化できないかと模索した時期もありました。しかし穴の位置や溝の形状など、微細な違いを標準化し型番に落とし込もうとすると、型番の桁数が100桁を超え、煩雑すぎてお客様が混乱してしまいました。こうしたことがあり、カタログには限界があるということを痛感しました。それでも、図面品という部品調達のボトルネックを何とか解決できないかと考え続け、meviyに行き着きました。

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株式会社ミスミ3D2M企業体 代表執行役員企業体社長 吉田光伸氏
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株式会社ミスミ3D2M企業体 代表執行役員企業体社長 吉田光伸氏
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meviyの成功要因は、発想を転換したことだと思っています。お客様に「選んでもらう」というカタログの発想から、設計図を「CADで自由に描いてもらう」方向に大転換しました。自由に描いてもらっても、規格品のように価格と納期を回答できる仕組みさえあればいいのだと考え、そこからチャレンジが始まりました。

――複数回の失敗を経てもなおチャレンジを続けてこられたのは、なぜでしょうか。

吉田:一言でいうと「責任」です。ミスミがものづくりのインフラ企業として存在していくためには、お客様が不便を強いられている図面品調達の課題を何とか解決したかったのです。それができるのは「我々しかいない」という自負もありました。

しかしどうやってその仕組みを作るのか、当初はまったく想像もつきませんでした。そこでオープンイノベーションで、技術を持つ人を探し回りました。世界中でいろいろな出会いがあり、徐々に一歩ずつmeviyを作っていきました。開発手法はシリコンバレー流にアジャイル開発を採択し、実用最小限の製品(MVP、Minimum Viable Product)を作って、お客様に使っていただき、フィードバックを得て迅速に改善するという形で進めました。

――meviyの特徴とは何でしょうか。

吉田:meviyは、部品調達において2つのイノベーションを起こしました。まず1つ目は、「AI自動見積もり」です。meviyにアップロードされた設計図をもとに、その部品の形状や体積、どの工作機械でどんな加工をすべきか、作業時間はどのくらいかかるか、といったことを算出します。さらに、2940万点のカタログ部品を値付けしてきた経験で培われた、価格計算のアルゴリズムをもとに価格と納期を提示します。その結果、従来は加工業者にファクスで見積もりを依頼すると1週間ほどかかっていた価格と納期の提示が、わずか約5秒でできるようになりました。

2つ目の革新的な点は、「デジタルマニュファクチュアリングシステム」です。これまで、NC工作機械(数値によってコントロールされる工作機械)を使って切削や板金加工などをする際には、機械を自動操作するための「NCデータ」を、人が紙の図面を見ながら30分から1時間かけてプログラミングしていました。これをすべてデジタル化し、NCデータを自動で生成して機械に転送できるようにしたのです。それによって、通常は約2週間かかる出荷を最短1日に短縮できるようになり、カタログに掲載している規格品と同様の「確実短納期」にコミットできるようになりました。

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調達領域のDXを実現
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提供:株式会社ミスミ
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2016年に最も難易度が高い金型部品からスタートしたmeviyは、2018年にラピッドプロトタイピング(試作品)の製作、2019年に板金部品・切削プレートなどのファクトリーオートメーション(FA)メカニカル部品に対応できるようになりました。市場規模はFAが圧倒的で、約7割を占めています。FA部品対応後にmeviyの売り上げ規模も急激に伸び、2017年度第1四半期から2019年度第3四半期までに、meviyの売上高は15倍となりました。オンデマンド製造サービスでシェアナンバーワンとなり、ご好評をいただいています。

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サービスの拡大とともに急成長
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提供:株式会社ミスミ
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UXを徹底的に追求し、24時間365日無料で利用可能

――meviyの操作性はいかがでしょうか。

吉田:meviyの操作はすべてブラウザ上で完結し、UX(ユーザーエクスペリエンス)を徹底的に追及して開発したので、難しいといったことはありません。本社ビルにはUXのための研究室「UXラボ」も設け、meviyを使用するお客様の目の動きや操作速度などを計測し、画面設計を何度も改善しました。設計データをアップロードした後も、「ねじ穴を通し穴に変更する」、「材質を変更する」などといった作業が描画ビューワーで簡単にできます。

一方で、meviyはプロフェッショナルエンジニアの方々が現場で使うサービスなので、何よりも精度が重要です。公差(許容される誤差の範囲)はミクロンレベルの±0.005mmまで設定することができます。そして、見積もりを確定すると型番ができ、次回以降はこの型番だけで発注できるので、1年後にこの部品が壊れたとしても、すぐに再発注できるシステムになっています。

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製造情報をブラウザ上で自由に設定
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製造情報をブラウザ上で自由に設定【提供:株式会社ミスミ】
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また自動見積もりに失敗した場合、ただ「エラー」と表示されるのではなく、どう修正したらエラーが回避できるかを教えてくれるサジェスト機能もあります。たとえば経験の浅い設計者ですと、板金の曲げと穴の位置が近すぎると穴が変形してしまうなど、物理的には不可能なことをわからず設計してしまうことがあります。meviyでは即座に、「曲げと穴の距離は10.4mm以上にしてください」などといったレコメンデーションが出ますので、お客様には「若手設計者の勉強ツールになるし、大変わかりやすい」と喜んでいただいています。

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どこを直せばよいかシステムがサジェスト
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どこを直せばよいかシステムがサジェスト【提供:株式会社ミスミ】
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さらにもう1つお伝えしておきたい点は、meviyはミスミのアカウントを作成するだけで、無料でご利用いただけるということです。納期や価格の確認だけでなく、成型や加工といった製造性の検証機能や検図のための簡易図面出力機能も無料です。

大手自動車メーカーのお客様からは、「部品に関するコスト意識が高まった」という感想をいただきました。従来は各部品の価格がわからないまま全体を設計していたけれども、meviyでは価格と納期が5秒でわかりますから、途中途中で各部品のコストを確認しながら設計を進めていけるようになったそうです。

設計者が“作業”に奪われていた時間を取り戻し、製造業に創造性を

――meviyの今後について、お聞かせください。

吉田:meviyもまだ進化の途中で、図面品で対応できているのは板金部品や切削プレートなど7割程度です。ただ、お客様の声にお応えしていくことで、徐々に複雑な部品にも対応できるようになってきました。今後も拡充していく予定です。また加工の幅も広げたいと考えています。3Dプリンティングや鋳造、プラスチックなどの素材を加工する射出成形など対応拡大できる領域は多く残っています。

せっかく、自信を持ってお勧めできるmeviyというサービスができましたので、もっと多くのお客様にmeviyを知っていただきたいと思っています。カタログは40年かけて「ミスミ」と第一想起してもらえるようになりましたが、meviyはまだこれからです。2020年は北米を皮切りに、meviyの海外展開も開始する予定です。

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株式会社ミスミ3D2M企業体 代表執行役員企業体社長 吉田光伸氏
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――meviyがサプライチェーンに与える影響はどういったことが考えられますか。

吉田:meviyの利用を通じて提供できる価値は、なんといっても「時間」です。meviyのリピート利用率は80%を超えており、時間価値を重要視しているお客様ほど、積極的にmeviyを使っていただいている印象です。

meviyの登場により、製造業の最後のアナログ領域だった図面部品の調達において、新たな創造のための時間を創出いただけるようになりました。今後も、人々が不便を強いられてきたアナログな商習慣が、ITなどを活用することで解消されていくことが期待できます。

例えば、約1500点の部品からなる生産設備を作るためにかかる時間は、作図から納品までトータルで従来約100日程度でした。これがmeviyを活用すると約8日で納品されるので、約92%の時間が削減できるのです。設計者は本来、アーティストです。“作業”に時間を奪われるのではなく、製品の質を高めるためのよりよい設計、デザインの考案に時間を使うべきです。そうすることで、製造業全体がより強くなり、進化していけると思うのです。

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meviyが提供する価値=労働生産性改革
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提供:株式会社ミスミ
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繰り返しになりますが、meviyのイノベーションによって、部品調達にかかる非効率な時間を劇的に削減し、お客様の「時間」を創出することが我々ミスミグループの提供価値です。これからも「時間」というバリューを、世界のサプライチェーンに提供していきたいと考えています。

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製造業において、これまで「部品調達」のプロセスには多くの時間と労力が費やされてきた。「ミスミ」は40年以上前からこの部品調達の課題解決に取り組み、ついに画期的なサービス「meviy(メヴィー)」を生み出した。meviyはオーダーメイドの「図面部品」を、5秒で自動見積もりし最短1日での出荷を実現するという、次世代部品調達プラットフォームだ。その最大の目的は、部品調達にかかる時間を劇的に削減し、“時間価値”を提供することで、製造業全体が生み出す付加価値を高めることだという。株式会社ミスミ3D2M企業体の吉田光伸代表執行役員企業体社長に、meviyが製造業全体にもたらすインパクトについて解説してもらった。
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取材・文:小泉明奈(POWER NEWS)、写真:渡邊大智