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全国に約2900店舗を展開する日本最大規模の外食チェーン、日本マクドナルド。同社は持続可能なサプライチェーンの構築に向けて、“全体最適化”を図るべく、物流改革を推し進めている。トラックの年間運行距離を地球約23周分削減した「平準化施策」や、マックフライポテトに使う食塩を異業種の読売新聞の夕刊と混載して運ぶ「共同輸送」、包装材料輸送のための「鉄道モーダルシフト」など、ユニークな施策に次々と取り組んでいる。その背景には、日本のトラックドライバー不足への危機感と、「Scale for Good」と題して世界が抱える社会的課題や環境問題などに、CSR(企業の社会的責任)を果たそうとする真摯な姿勢があった。日本マクドナルド株式会社サプライチェーン本部ロジスティクス部(取材当時)の梶野透部長が語る、同社の物流戦略とは。

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巨大サプライチェーンで、モノと情報を一元管理

――日本マクドナルドのサプライチェーンについて教えてください。

梶野:まず「規模が大きい」ということが、最大の特徴であると言えます。弊社は、北海道の稚内から沖縄県の石垣島まで、全国に約2900店を展開しています。国内を見渡してみても、単一ブランドのサプライチェーンとしては、非常に大規模と言えるでしょう。

食材や資材などのサプライヤー(供給元)は国内外に約250カ所あります。そのうちハンバーガーのバンズのみ、サプライヤーから店舗へ直送しています。ほかの食材や資材はサプライヤーから国内に13カ所ある配送センター(Distribution Center:以下、DC)に納品してもらい、それを仕分けして各店舗へ届けています。

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日本マクドナルド株式会社 サプライチェーン本部ロジスティクス部 梶野透部長
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日本マクドナルド株式会社 サプライチェーン本部ロジスティクス部 梶野透部長
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梶野:DCから店舗までは、常温、冷蔵、冷凍という3つの温度帯の食材を、温度管理のできるトラックに載せて一括配送します。DCから店舗への物流だけで、1日あたりトラック約400台分、年間で約55万400トンを運んでいます。距離にすると年間で約3200万キロメートル、すなわち地球約800周分を走っている計算です。

全店舗に高品質で安全な食材を、過不足なく安定供給をすることが、我々物流チームの大前提であり、至上命題です。DCから店舗への配送については、毎日配送ルートを最適化しながら運んでいます。

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マクドナルドシステムにおけるサプライチェーン
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提供:日本マクドナルド株式会社
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――配送ルートを日々最適化するとは、どういうことでしょうか。

梶野:次の配送で必要なモノとその量は、前日の売り上げによって店舗ごとに日々変化しますし、配送回数も店舗の売り上げや倉庫のサイズに応じて、週3回から7回まで店舗ごとに異なります。そのため固定ルートで配送をするというのではなく、毎日DCごとにルート組みを変更し、必要量を必要なときに必要なところだけに運ぶのです。そうして無駄を省くことによって、俊敏性を保ち、生産性が高められます。

このような弊社のサプライチェーンマネジメントに関しては、2012年から「HAVIサプライチェーン・ソリューションズ・ジャパン」に一括して担っていただいています。さらに物流網におけるモノの流れだけでなく、受発注、入出荷などの情報もまとめて一元管理してもらっています。モノと情報を一元管理することで、サプライチェーンの全体最適化を推進しています。

ドライバー不足への対応と、サスティナビリティの追求のために

――全国約2900店という規模でモノと情報を一元管理する環境は、ほかのメーカーや小売店が持っていない大きな強みですね。それでもさらに御社が物流改革に取り組む理由は何でしょうか。

梶野:日本というマーケットが抱える課題について、もっと改善していきたいと考えたからです。特にトラックドライバー不足という物流業界の課題への対策は、急務です。このままでは、お金を支払ってもモノを運んでもらえなくなる時代が到来してしまうでしょう。荷主の我々が積極的に改善を進めることで、ドライバーの働く環境を整える必要があります。

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日本マクドナルド株式会社 サプライチェーン本部ロジスティクス部 梶野透部長
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梶野:さらには2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」への対応も、進めていかなければなりません。弊社は以前から「Scale for Good」をという、私たちのスケールメリットを生かして社会的課題や環境問題に対する責任を果たそうと取り組んできました。物流の省エネ、効率化を図ることも、気候変動を食い止めるための大切な取り組みです。

――物流改革は、どのようなステップで進めていったのですか。

梶野:まず2017年に物流戦略の策定から取り組みました。全体最適を推し進めていくためには、弊社の物流網を支えている社内外1千人近い人々が共有できるミッションが必要なのです。

そのミッションは「店舗運営に集中できる環境をすべてのレストランに」と定めました。そして戦略として、4つの柱を掲げています。絶対に必要なベースが、「安定供給、品質、安全」です。その上で、「店舗利便性向上」、「サプライチェーンマネジメント全体の生産性向上」、「外部の知見を最大限活用」という柱があります。外部の知見の一例として、早稲田大学との共同研究で効果が確認できた「店舗配送物流平準化施策」を2018年から始め、2019年2月に全国展開が完了しました。

物流をゼロベースで見直し、地球約23周分の無駄を削減

――「店舗配送物流平準化施策」とは、具体的にはどのような取り組みですか。

梶野:DCから店舗への配送を効率的に行うために、全国的に平準化していく施策です。まず3つの「標準化」を進めてから2つの「平準化」に取り組みました。

標準化の1つ目は、カートを使った納品です。従来約60%だったカート納品比率を、100%まで引き上げました。カートには重量があるので、トラックの積載効率は若干落ちてしまいますが、荷下ろしするドライバーの作業負荷が圧倒的に軽減されます。2つ目に、ドライバーが各店舗の倉庫まで運ぶ「庫内納品」をやめ、お店のクルーに車上や店舗内外で渡すよう変更しました。3つ目は、全店舗の納品回数や納品時間を、ゼロベースで見直しました。それまでは納品時間の希望を各店舗に聞いた上で調整していましたが、毎日の配送ルートを組みやすく、物流の効率をより良くするために、物流目線で再構築したのです。

2つ目や3つ目の標準化については、店舗の負担が増えてしまいますが、ここでは「サプライチェーンマネジメント全体の生産性向上」を優先しています。特にトラックドライバーの方への負担を減らすことを優先しました。

こうして標準化を実現した後に、午前と夜間の希望が多かった「納品時間帯」、土・日・月曜日に集中していた「曜日ごとの納品の重量」の2点のばらつきを平準化しました。納品時間帯のばらつきを平準化すると、24時間を有効利用できるようになります。曜日ごとのばらつきは、油や飲料の原液といった重量がかさむものを、従来納品が少なかった平日に運ぶように需給管理をすることで、平準化ができました。

――平準化施策を達成した結果、どういう効果が得られたのでしょうか。

梶野:何よりも、トラックドライバー不足という課題に効果がありました。時間ごと、曜日ごとに作業や納品量のばらつきがあると、物流会社は念のため多いほうにあわせてトラックとドライバーを確保しておかなければなりません。平準化することで、必要なトラックとドライバーの数を圧縮できるのです。こうすることによって、毎週水曜日を休配日とすることができ、ドライバーの働き方改革も推進できています。コスト面でも、1パーセント強をカットすることができました。

そしてサスティナビリティの面では、CO2の排出量が年間で約481トン、年間走行距離が約92万キロメートル削減できました。DCから店舗への配送は年間で地球約800周分あると申し上げましたが、そのうちの約23周分が削減できたということです。

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施策結果
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梶野:こうした効果を生み出した店舗配送物流平準化施策は、各方面より評価していただき、弊社とHAVIサプライチェーン・ソリューションズ・ジャパン、ロジスティクス会社「富士エコー」の3社が共同で、国土交通省と農林水産省から「物流総合効率化法(物効法)」の認定を受けました。また経済産業省・国土交通省などが表彰する「令和元年度グリーン物流パートナーシップ会議特別賞」、日本ロジスティクスシステム協会の「2019年度ロジスティクス大賞業務改革賞」も受賞いたしました。

異業種での共同輸送や、鉄道モーダルシフトへの挑戦

――DCから店舗への物流については、平準化が大きな役割を果たしているんですね。サプライヤーからDCへの物流に関しては、どのような取り組みをしていらっしゃいますか。

梶野:異業種の商品を混載した「共同輸送」と、包装材料の「モーダルシフト」という2つの取り組みを行っています。この2つも、平準化施策と同様、物効法の認定を受けました。

共同輸送は、阪神地区での弊社と読売新聞グループ本社などとの共同事業で、弊社のマックフライポテト用の食塩と読売新聞の夕刊を同じトラックに載せて輸送するというものです。読売新聞社は夕刊を2トントラックで週6回、大阪市の印刷所から兵庫県西宮市の各販売店まで運んでいます。この2トントラックの空きスペースに、大阪市のサプライヤーから神戸市の関西DCまで運ぶ食塩を載せてもらいました。全体で年間約1.1トンのCO2排出量を削減でき、2019年6月、国交省と農水省、経産省より物効法の認定を受けました。3省連名での認定は史上初の事例でした。

――モーダルシフトは、どのような取り組みですか。

梶野:愛知県犬山市にある紙コップなどの包装材料のサプライヤーから、佐賀県鳥栖市の九州DCまでトラック輸送をしていましたが、その9割以上の距離を鉄道貨物輸送に転換しました。

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モーダルシフト施策
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梶野:現在、貨物コンテナで週5~6回輸送しています。トラックから鉄道へと輸送手段を転換したことで、年間21トンのCO2排出量を削減し、2019年9月に弊社と日本貨物鉄道(JR貨物)などと共同で、国交省より「物流総合効率化法」の認定を受けました。ただ、鉄道貨物輸送は自然災害や鉄道事故などが発生すると、遅延や運休をすることがあります。安定供給とモーダルシフトをどう両立させていくか、今後も模索していく予定です。

モノや情報の「リアルタイム化」で、よりパワフルなサプライチェーンを目指す

――数々の先進的な取り組みに挑戦されていますが、今後の御社のサプライチェーンマネジメントについて、展望をお聞かせください。

梶野:これからの時代、何かを達成するために何かを犠牲にするといった「or」な施策ではなく、複数課題を同時に解決していく「and」の施策に取り組んでいく必要があると考えています。既存のやり方の延長線上では難しいでしょう。「そもそも論」、「あるべき論」からスタートする視点を持つことが大切だと思っています。そうしてビジョンを策定することによって、中長期的に複数課題を解決するための具体的な取り組みが見え、全体最適が実現できるのです。

もう1つ、現在具体的に取り組んでいることとしては、先述した標準化と平準化に次ぐステップとしてサプライチェーンの「リアルタイム化」も進めています。

――リアルタイム化とは、具体的にどういったことでしょうか。

梶野:現在、ハード面とソフト面、2方向でのリアルタイム化を進めているところです。ハード面では、箱の大きさを数種類に標準化した上でバンズ、ビーフ、ポテト、紙製品などのすべての商材をその箱に入れて、ドライバーが運びやすい環境を整えることで、変動する需要に対して、リアルタイムに対応しやすくしています。これは調達から物流、店頭に至るまでをコントロールできる弊社ならではの取り組みです。

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日本マクドナルド株式会社 サプライチェーン本部ロジスティクス部 梶野透部長
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梶野:ソフト面では、サプライチェーンの情報をリアルタイムに把握できるしくみづくりに取り組んでいます。

これまで、日本ではすべての商品に使用しているバーコードが統一されておらず、情報を読み取ったあとに規格ごとに翻訳をする必要があり、そのせいで情報を可視化するまでに時間がかかっていました。

そこで、商品が入った箱などに貼るバーコードをGS1と呼ばれる国際規格のものに統一することを意思決定しました。サプライヤーの生産拠点や倉庫、すべての資材に商品アイテムコードの適用をすすめております。将来的なITシステムの刷新を経て、情報を各社のバーコードの規格ごとに翻訳することなく読み取れるようになります。これをもとに、店舗だけではなく、物流会社やサプライヤーパートナーさんまで含めた、サプライチェーン全体で、受発注、入出荷などの情報が必要な場所にリアルタイムで届く体制を構築しているところです。

こうしてハードとソフトの標準化を経て、最終的にモノと情報の動きをリアルタイムに一致させることで、よりパワフルなサプライチェーンが生まれると考えています。約2900店舗で約15万人のクルーが働き、毎年延べ15億人以上のお客様に訪れていただいている日本マクドナルドのスケールメリットは、社会的課題や環境問題への取り組みに大きな力を発揮します。「Scale for Good」のために、これからもより良い物流スタイルを追求していきます。

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全国に約2900店舗を展開する日本最大規模の外食チェーン、日本マクドナルド。同社は持続可能なサプライチェーンの構築に向けて、“全体最適化”を図るべく、物流改革を推し進めている。トラックの年間運行距離を地球約23周分削減した「平準化施策」や、マックフライポテトに使う食塩を異業種の読売新聞の夕刊と混載して運ぶ「共同輸送」、包装材料輸送のための「鉄道モーダルシフト」など、ユニークな施策に次々と取り組んでいる。その背景には、日本のトラックドライバー不足への危機感と、「Scale for Good」と題して世界が抱える社会的課題や環境問題などに、CSR(企業の社会的責任)を果たそうとする真摯な姿勢があった。日本マクドナルド株式会社サプライチェーン本部ロジスティクス部(取材当時)の梶野透部長が語る、同社の物流戦略とは。
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日本最大規模の外食チェーン・日本マクドナルドの物流“大改革”ーーサプライチェーンの全体最適化で、持続可能性を高める
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日本最大規模の外食チェーン・日本マクドナルドの物流“大改革”ーーサプライチェーンの全体最適化で、持続可能性を高める
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取材・文:小泉明奈(POWER NEWS)、写真:渡邊大智