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新型コロナウイルス感染症は、物流におけるモノと人の動きに大きな影響を与えた。そのピンチを新たなチャンスに変えたのが、CBcloud株式会社だ。同社が開発したフリーランスドライバーと荷主をつなぐ配送マッチングプラットフォーム「PickGo」(ピックゴー)を、GEMBAでも2019年6月に取り上げた。20年に入ってからは、3月に新規事業の「SmaRyu」(スマリュー)をスタートさせ、4月には新型コロナに対応したコンシューマー向けサービス「PickGo 買い物代行」も開始するなど、事業の拡大が続いている。松本隆一代表取締役CEOに、コロナ禍において「物流の価値」がどう変化しているのかを伺った。

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企業との提携が拡大した配送マッチングプラットフォーム「PickGo」

——まずは、あらためて事業の概要と、前回の取材でお話を伺って以降の変化について教えてください。

松本: 創業当初から変わることのない「『届けてくれる』にもっと価値を。」のビジョンのもと、ドライバーの価値が正当に評価され尊敬される存在になることを目指し、常に“現場で働く人”を第一に考えて事業を展開しています。そのビジョンを達成するために、2016年から軽貨物に特化し、全国の荷主企業と配送ドライバーを直接マッチングさせるプラットフォームである「PickGo」をスタートしました。配送の品質を維持しながら、ドライバーの存在価値を高めることを目的にしています。おかげさまで荷主や運送会社など各方面から注目を集め、登録ドライバーが2万人を超えました。

「PickGo」の登録ドライバーは個人事業主で、小型バンや軽トラックで荷物を配送しています。大型トラックでは運べないような企業や個人宅への荷物、少量の荷物、あるいは急を要する荷物などの配送を請け負っています。 また、企業との連携も進みました。佐川急便との資本・業務提携では、佐川急便のお客様を対象に、軽貨物チャーター運送業務で協業しています。

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【用語説明】
軽貨物チャーター運送
貸切便のこと。指定の場所まで直配送する。

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松本: 航空貨物事業会社のANAカーゴとともに空と陸をつなぐ国内運輸新サービスの提供も始めました。従来のシステムでは、空輸と陸路輸送を荷主が別々に手配しなければなりませんでした。しかし、「PickGo」のシステムを利用することで、陸路と空輸の輸送を一気通貫で依頼できるようになったのです。佐川急便やANAカーゴとの取り組みは、第2回日本オープンイノベーション大賞で「国土交通大臣賞」を受賞しています。

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モノのMaaSの説明図
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モノの MaaSの実現に向けて、「PickGo」に大企業の持つ顧客基盤と輸送手段をシームレスに接続し、当日緊急配送サービスを全国に構築。(提供:CBcloud株式会社)
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松本: ソフトバンクとの業務提携では、お互いに有するIT資産を活用し、運送業界の自動化・効率化を促進し、ドライバーの労働環境の改善など、課題解決に取り組んでいます。たとえば、ソフトバンクとイオン九州の実証実験に協業パートナーとして参画したのも、その1つです。具体的には、イオンショッパーズ福岡店が運営するネットスーパーの注文品の夜間配送を「PickGo」が担当しました。

コロナ禍の新たな需要に応える「PickGo 買い物代行」

——物流のなかでも軽貨物輸送というジャンルでは今回の新型コロナウィルス流行による変化が大きかったのではないでしょうか。具体的にどのような影響を与えていますか。

松本: 影響を相対的に見ると、ポジティブな面とネガティブな面がありました。自粛期間が続いたことで、日用品などの物流量が激増した反面、「PickGo」の登録ドライバーにアンケートを取ったところ、「仕事を失った」「空き時間が増えた」という声が多く寄せられました。ドライバー不足の状況は依然続いているにもかかわらず、需要と供給がアンバランスになってしまったのです。なぜなら、前述のとおり「PickGo」の登録ドライバーは個人事業主で、企業間配送を担当していたドライバーも多かったからです。

たとえば、東京の豊洲市場の新鮮な魚介類をランチに提供するには、トラック1台で何軒も回る、運送会社のルート配送では間に合いません。そこで個人事業主のドライバーの方々が市場で荷物をピックアップし、飲食店に直行して届けるという需要がありました。ところが、そうしたきめ細かい配送を担当していたドライバーが、新型コロナの影響で飲食店や小売店が休業したため、働く場を失ってしまったのです。

——物流業界全体への影響については、どのように捉えられていますか?

松本: 需要と供給のバランス、輸送するアイテムの内容が変わったというのは共通していると思います。これらのコロナ禍における新たな需要を見据えて4月27日から「PickGo 買い物代行」を開始したところ、予想以上の反響をいただいています。

——どのようなサービスなのでしょうか。

松本: 専用アプリを通じてユーザーが「PickGo」の登録ドライバーに買い物代行を依頼します。そして、ドライバーが注文品を購入し、ユーザーに届けるというサービスです。ドライバーは「PickGo」での配送のスキマ時間を「買い物代行」の仕事で有効活用できます。対象地域は東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知、大阪、福岡の7都府県です。

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PickGo買い物代行の説明
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買い物の実費に加えて代行料を支払うことで、ユーザーは外出せずに買い物を行うことができる(提供:CBcloud株式会社)
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ドライバーのやりがいを高める評価システム

——やや異なる業態だとは思いますが、巣ごもり需要によって「Uber Eats」なども利用者を伸ばしています。それらの宅配サービスとの差異はどのような点にあるのでしょうか?

松本: 前提として、私たちはドライバーが活躍できる場を広げるために、新たな価値の創出を目指しています。ドライバーに今後、どのような仕事にチャレンジしてみたいかをたずねたアンケートでも、「人の役に立つ仕事がしたい」「買い物を代行するような仕事がしたい」という声が寄せられていました。

それを踏まえて、「PickGo」の大きな特徴となるのが、高い意欲を持つドライバーが適切に評価され、サービス向上のために努力した人に仕事が集まり、収入が増えるという仕組みです。また、「PickGo 買い物代行」で個人ユーザーの反応が加わると新たな評価軸が増えるので、ドライバーの評価をより確かなものにできます。

個人ユーザーの反応は、ドライバー個人のモチベーション向上にも役立ちます。「PickGo 買い物代行」のおかげで、ユーザーから直接「ありがとう」「助かった」と感謝される機会が増え、とても嬉しかったと話すドライバーが増えました。仕事の価値を実感することはやりがいにつながりますし、ユーザーにドライバーの価値を認識してもらうことで社会におけるドライバーの地位向上にもつながると思っています。

——ユーザーとドライバー、両方の需要を満たしているのですね。「PickGo買い物代行」のサービスはさらに拡大するのでしょうか。

松本: 7月1日からはタクシー会社の国際自動車と連携し、最短30分で指定場所までお届けする「超お急ぎ便」も始まりました。1店舗、最大5品目までの買い物代行と、早さを優先する内容になっています。

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「超お急ぎ便」の説明
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より緊急度の高いユーザーのニーズにも対応する「超お急ぎ便」(提供:CBcloud株式会社)
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松本: また、自治体との連携も始まっています。社会の高齢化や流通の変化から、身近な場所に食料品や日用品の購入店がない、買い物に出向くことが難しいといった「買い物弱者」と呼ばれる人たちが増えています。そうした方たちの目と足になる仕組みとして「PickGo 買い物代行」が期待されています。店舗への広報は主に自治体が担当し、実際の受注と配送を「PickGo 買い物代行」が担当する仕組みです。大阪府の東大阪市や富田林市との連携が始まったところですが、地域が拡大していく可能性は高いです。

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自治体と連携する際の「PickGO 買い物代行」導入後のフロー
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※店舗側はドライバーを自ら確保せずとも、買い物代行のサービス提供が可能に。
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物流の現場に寄り添う効率化システム「SmaRyu」

——新規事業の「SmaRyu」は、どのようなサービスですか。また、どんなきっかけから始まったのですか。

松本:「SmaRyu」は、クラウドを活用した物流効率化システムです。宅配事業者向けの配送支援を行う「SmaRyu Post」と運送会社の業務支援を行う「SmaRyu Truck」の2つのサービスがあります。

「SmaRyu Post」はスマートフォンさえあれば、荷積みから配送ルートの決定、受取時の電子サインまで、一連の流れを一括して管理できる仕組みになっています。これにより、配送の省力化と効率化が可能になります。「SmaRyu Post」によって、ベテランドライバーでも1日に運ぶ荷物の数を増やすなど、時間を有効活用できますし、初心者ドライバーは経験が浅くても滞りなく配送できるようサポートを受けられるのです。

もう1つの「SmaRyu Truck」は、運送会社の配車管理から請求書発行までを一気通貫で行うサービスです。運送会社の多くは、車両の管理や請求書などの書類の作成はFAXや紙で、ドライバーとの運行確認は通話でというように時間と手間のかかる作業を続けています。アナログな環境や、昨今の人手不足で現場の負担がさらに増加しているなか、業務効率化は急務です。そこで、日々の運行業務をPC上で可視化し、ペーパーレス化などをサポートする「SmaRyu Truck」をリリースしました。

——「SmaRyu」の開発では、どのような点に力を入れたのでしょうか。

松本: 両サービスともに何度も配送に同行したり、現場を訪問したり、作業を手伝いながらドライバーや運送会社の方々と会話を重ねたり、その場にいるからこそ気づく「困りごと」の材料を集めてプロダクトに反映しました。どんなに優れたシステムでも、使っていただかなければ意味がありません。とくにアナログで長年続けてきた業務の仕組みを変えるためには、使う方たちが便利さを実感できるかどうかが重要なのです。

また、「PickGo」で集積してきたノウハウも役に立ちました。「SmaRyu Post」も「SmaRyu Truck」もユーザーとなるドライバーは40〜50代の方が多いので、アプリのボタンの配置や大きさなどのUIを工夫し、操作性にもこだわりました。

——実際には配送の現場では、どのように活用されているのでしょうか。

松本: 「SmaRyu Post」は、6月15日から全国約200局の郵便局に導入が始まっていて、実際にすでに利用している企業のドライバーからは、「SmaRyu Post」がなければ仕事ができない」という声が寄せられ、手応えを感じています。興味を持ってくださる経営者も多く、既に数社から導入に関する相談をいただいています。

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SmaRyu Postの説明図
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提供:CBcloud株式会社
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「面倒だから」ではなく「困っている」というニーズに応えたい

——今後の展望については、どのようにお考えですか。

松本: 「PickGo」に加え、「SmaRyu」がスタートしたことで、軽貨物物流の川上から川下までを網羅するプロダクトが揃いました。まずは、これらの事業をブラッシュアップしていきたいです。特に今後は、新型コロナウイルスの影響で、比較的近距離の物流ニーズが高まると考えています。それに伴い「PickGo 買い物代行」はもっとサービスを広げていく可能性があります。

冒頭でも申しあげたとおり、CBcloudが目指すものとして将来も揺らぐことがないのは、「『届けてくれる』にもっと価値を。」というビジョンです。そして、そのために重要なのは、「面倒だから頼む」のではなく、「困っているから頼みたい」というニーズに応えることだと考えています。「面倒」のニーズは、時短や料金の安さだけを重視する評価軸になりがちです。しかし、「困っている」のニーズは人や社会の役に立つという価値を生み出します。

海外では、国際宅配便で有名なアメリカのFedExなどのドライバーが映画に登場したり、子どもたちの憧れの職業になったりしています。日本でもドライバーがやりがいのある職業の1つという認識が広まれば、働きたい人が増えるでしょう。荷物を届ける側も受け取る側も物流を通して喜びを感じることができる。そんな将来を目指して、「PickGo」と「SmaRyu」をより役立つものにしていきたいと考えています。

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新型コロナウイルス感染症は、物流におけるモノと人の動きに大きな影響を与えた。そのピンチを新たなチャンスに変えたのが、CBcloud株式会社だ。同社が開発したフリーランスドライバーと荷主をつなぐ配送マッチングプラットフォーム「PickGo」(ピックゴー)を、GEMBAでも2019年6月に取り上げた。20年に入ってからは、3月に新規事業の「SmaRyu」(スマリュー)をスタートさせ、4月には新型コロナに対応したコンシューマー向けサービス「PickGo 買い物代行」も開始するなど、事業の拡大が続いている。松本隆一代表取締役CEOに、コロナ禍において「物流の価値」がどう変化しているのかを伺った。
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ドライバーの価値向上を目指す「PickGo」と「SmaRyu」はコロナ後の物流を変える切り札となるか?
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ドライバーの価値向上を目指す「PickGo」と「SmaRyu」はコロナ後の物流を変える切り札となるか?
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取材・文:角田奈穂子