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日本ではインフラの老朽化にともなう保守点検や、コロナ禍を背景に「非接触」「非対面」などニーズが高まっている。それらの需要に対して、いま活躍の場を広げているのが「ドローン」だ。輸送、点検、警備、農業などの分野でドローンを活用するソリューションを提供している気鋭のベンチャー企業・ブルーイノベーション株式会社の代表取締役社長・熊田貴之氏に、最新のドローン事情と来たるべきドローン社会の未来像について伺った。

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国内ドローン市場は大幅に成長、社会実装のための環境整備も進む

――はじめに、ブルーイノベーションがどのような会社なのか教えてください。

熊田:弊社は「日本で唯一のドローン・インテグレーター」を標榜し、ドローン運用のためのシステムやソフトウェアを開発している会社です。具体的には複数のドローンやロボットを遠隔で制御・管理し、運用するためのプラットフォーム「Blue Earth Platform(BEP)」を軸として、「点検」「警備」「物流」「教育・安全」の4つの分野でサービスを展開しています。

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ブルーイノベーション株式会社 代表取締役社長 熊田貴之氏
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ブルーイノベーション株式会社 代表取締役社長 熊田貴之氏
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熊田:現在、日本国内のドローンビジネスの市場規模は、2019年度で1409億円と推測され、前年度の931億円から約50%増加しました。今後も市場は同程度のペースで成長を続け、2025年には6500億円規模程度になるのではないかと予測されています。

ドローンは、生活利便性を向上させるための「夢のツール」として捉えられることが多いのですが、我々は現在の社会インフラを守り、生活基盤を維持していく労働力としてドローンを活用するための研究開発に力を入れています。

たとえば、過疎が進む山間部では労働の人手不足が課題となっています。そんな場所で生活必要物資を届けることも、ドローンで代用できる重要なミッションです。採算性の問題などもありますが、多くの人が安心して、豊かに暮らすためにドローンを活用していきたいと考えています。

――なぜ、ここにきて急速にドローンが普及しているのでしょうか。

熊田:大きく2つの理由があると思います。1つめは、ドローンの機体そのものの性能が向上したことです。モーターやプロペラ、バッテリーの改良により飛行時間や航続距離が延びたことに加え、GPSやジャイロセンサー、加速度センサー、カメラなどの各種センサーが進化したことで、安定した姿勢制御ができるようになりました。自由自在に機体を動かせるようになり、格段に活躍の場が広がったというわけです。

2つめの理由は、国策としてドローンの利活用が推進されていることです。ドローンには新たな産業を生み出し、雇用を創出する力があるとして、2015年には、「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」が設置され、ドローンを社会実装するための環境整備が進められてきました。

2020年7月には、「ドローンの機体認証」「操縦者のライセンス認証」などの制度化を盛り込んだ、新たなロードマップが国から発表されました。これはつまり、車と同じようにドローンにナンバープレートをつけて免許制にして、運行ルールを明確にしようということです。

それと同時に、電波利用に関する規制緩和や人口密度の高い有人地帯での目視外飛行なども目標に盛り込まれました。これらが実現すれば、市街地でも物資輸送やインフラ保守点検、巡回警備などの自動飛行が可能になり、ドローンを利用したサービスが一気に広まるはずです。実現目標は2022年以降とされていますが、個人的には5~10年後には、ドローンが街中を飛び回る光景を目にできるのではないかと思っています。

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ドローン
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複数のドローンやロボットを一括管理・操作できる「Blue Earth Platform」

――御社のコア技術である「Blue Earth Platform(BEP)」とはどのようなものでしょうか。

熊田:複数のドローンやロボットを協調・連携させて複雑な業務を達成させるためのソフトウェアプラットフォームです。「One Command Full Mission」をテーマとしており、煩雑な設定や操作をすることなく、ひとつの指示で複数のドローンやロボットを動作させて自動的に業務を達成できるようになります。

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複数のドローンやロボットを一括管理・操作できる「Blue Earth Platform」(提供:ブルーイノベーション株式会社)
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複数のドローンやロボットを一括管理・操作できる「Blue Earth Platform」(提供:ブルーイノベーション株式会社)
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熊田:BEPは「情報統合管理」「ドローン(ロボット)サーバー通信」「自己位置推定」「ドローン(ロボット)操縦」という4つのシステムから構成されており、たとえば、BEPで「倉庫内を管理して」という指示を出すと、まずドローンが在庫の有無や倉庫内の汚れをセンサーで感知します。そして、そのセンシングした情報が運搬ロボットやお掃除ロボットと共有され、荷物の運搬や床の清掃などを各業務ロボットが実行するという仕組みです。

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Blue Earth Platform(BEP)の活用例(提供:ブルーイノベーション株式会社)
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Blue Earth Platform(BEP)の活用例(提供:ブルーイノベーション株式会社)
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熊田:いわばBEPは「現場監督」のような存在で、「これをやって」とざっくりと業務指示をすると、部下であるドローンやロボットを効率よく動かして、自動的に業務を遂行してくれるというイメージです。まだ開発途中ですが、ゆくゆくは音声などで簡単に指示を与えるだけでドローンやロボットが連動するようなシステムを目指しています。

人手不足の解消を目指す「ドローン物流」

――では、BEP」を活用して実際にどんなソリューションを提供しているのでしょうか。

熊田:物流分野では、2019年にIHI 運搬機械株式会社と共同で、ドローンから自動運転モビリティへの荷物受け渡しを完全無人化する「ドローン着陸ポート」を開発しました。いわば、「ドローンの宅配ボックス」のようなもので、立体駐車場の屋上などに設置することを想定しています。

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ドローン着陸ポートの活用(提供:ブルーイノベーション株式会社)
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ドローン着陸ポートの活用(提供:ブルーイノベーション株式会社)
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熊田:ドローン輸送では、「安全な着陸」と「荷物の受け渡し」が課題となりますが、それを解決したのが本製品です。ポートから発信される信号とBEPが連動することにより、以前はできなかった高精度の着陸が可能になります。風環境解析機能も備えており、強風時の着陸ミスも防止。

さらに着陸ポートに人や小動物の接触を感知して、着陸の際の事故を未然に防ぐほか、運行管理機能により、どのドローンをどの順番で着陸させるのが効率的なのかを自動で判断してドローンに指示を出す機能も組み込んでいます。

現在は早期実用化をめざして実証実験を繰り返しているところです。その一方でISO規格(国際規格)の取得も進めており、このポートが世界標準になることを目指しています。ほかにも、この技術をベースに移動式の小型ドローン着陸ポートも開発中で、災害時の避難所などの緊急輸送に利用することも見込んでいます。

――そのほか物流分野での活用事例はありますか。

熊田:最新の事例では、ドイツのスタートアップ「doks. Innovation(ドックスイノベーション)」と業務提携を結び、「倉庫内完全自動棚卸ソリューション」を開発しました。「doks. Innovation」はAGV(無人搬送車)やロボットなどを活用した物流倉庫内在庫管理のオートメーション化、デジタル化のソリューションを開発している会社で、創業から2年半で大手物流企業をはじめ、欧州の70以上の会社にサービスを提供してきました。

同社の開発した製品のなかでも、とくに注目されているのがドローンとAGVを組みあわせた「inventAIRy XL」です。これまでブルーイノベーションは、倉庫内作業にドローンやAGVを活用することが研究してきましたが、「ドローンの飛行時間は10分程度と短い」「AGVでは高所の荷物をピックアップしづらい」などの課題があり、完全には実用化には至っていませんでした。その課題を解決してくれたのが、ドローンとAGVを有線で接続した製品「inventAIRy XL」です。

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熊田:ドローンを乗せたAGVが倉庫内を移動して、目的に棚の前に着いたらドローンが離陸。カメラで商品コードを読み取り、そのデータを在庫管理に役立てます。ドローンの電源は有線給電されるため、最長5時間の稼働が可能で、もちろん高所にある商品の読み込みも可能です。

この「inventAIRy XL」と「BEP」を連携させることで、ほかの作業工程とも統合管理ができるようになります。たとえば、毎日の業務終了後の夜間に全自動で棚卸を行い、翌朝の出勤時に倉庫内の状況を確認するといった使い方ができます。

物流業界の市場規模は拡大を続けているものの、ECの普及にともなう小口配送の増加などにより、従業員の負担も増大しています。人手不足も深刻化しているので、この「倉庫内完全自動棚卸ソリューション」でそうした問題を解決できればと考えています。

社会インフラを守り、生活基盤を維持していくためのドローン活用

――物流以外の分野では、どのようなシーンでドローンが活躍しているのでしょうか。

熊田:弊社がいま力を入れているのは「点検」「警備」の分野です。日本のインフラの多くは高度経済成長期に整備されたため、設置から50年以上が経った現在、いたるところで保守点検のニーズが高まっています。

たとえば、送電網もそのひとつで、日本全国には約9万㎞もの送電線が張り巡らされ、24万基の鉄塔が設置されています。これまでは人の手で保守点検を行ってきましたが、作業員の高齢化などにより人手不足が問題になりつつあります。

そこで期待されているのがドローンによる自動点検です。センシングの進化により、送電線のたるみに沿うような飛行が可能になったことで、高精度で電線の破損や劣化などを自動検出できるようになりました。この実証実験はほぼ終えて、来年から実用化できる見込みです。

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送電線点検ドローンの活用(提供:ブルーイノベーション株式会社)
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送電線点検ドローンの活用(提供:ブルーイノベーション株式会社)
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熊田:また、石油プラントの外壁や煙突内など、人間がなかなかたどり着けない危険な場所の点検にもドローンを活用する実験を進めています。2019年には厚生労働省、総務省消防庁、経済産業省の3省が連携して、「プラントにおけるドローンの安全な運用方法に関するガイドライン」を策定しました。今後、こうした基幹産業の分野でもドローン活用のガイドライン整備が進み、活躍の機会が増えると思われます。

――教育分野の事業にも注力しているとのことでしたが、どのようなものでしょうか。

熊田:ドローン操縦士を育成するための教育プログラムを提供しています。実は弊社は、ドローンの操縦技能を学べるスクールの運営や、操縦技能証(JUIDA認証)の発行を行う「一般社団法人 日本UAS産業振興協議会」(JUIDA)の事務局を務めています。

スクールは全国に230校以上あり、これまで1万3000人以上に操縦技能証を発行してきました。シンガポール、インドネシア、マレーシアなど、海外にもスクールを開校していて、世界20カ国、30近いドローンコンソーシアムとMOU(協力協定)を結んでおり、世界のドローン産業の発展に貢献していくことも目指しています。

――最後に、今後の展望についてお聞かせください。

熊田:コロナ禍によりサプライチェーンでも「非対面」「非接触」が求められています。そんななかで、デスクワークではない分野でもリモート化が増えていくと思います。今後、法整備などが進んでドローンを利活用する環境がさらに整えば、ラストワンマイルを含め、多くのシーンでドローンによる自動配送が採用されることになると思います。

そして最終的には「人」もドローンによって輸送される時代が来るはずです。そんな時代に向けて、我々ブルーイノベーションでは、多くの人が安心して安全にドローンの利活用をできるような環境づくりを進めていきます。

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日本ではインフラの老朽化にともなう保守点検や、コロナ禍を背景に「非接触」「非対面」などニーズが高まっている。それらの需要に対して、いま活躍の場を広げているのが「ドローン」だ。輸送、点検、警備、農業などの分野でドローンを活用するソリューションを提供している気鋭のベンチャー企業・ブルーイノベーション株式会社の代表取締役社長・熊田貴之氏に、最新のドローン事情と来たるべきドローン社会の未来像について伺った。
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取材・文:相澤良晃