「現場プロセスイノベーション」を推進するパナソニックは、これまでサプライチェーンにおける「現場」の困りごとを解決するために、さまざまなソリューションを提供してきた。2019年からは、戦略的パートナーシップを組むBlue Yonder(ブルーヨンダー)社のサプライチェーン計画系ソフトウェアを自社事業部門に導入し、ノートPC「Let's note(レッツノート)」などを製造・販売するパナソニック自身のサプライチェーン改革を進めてきた。そして2020年10月27日、オンライセミナー「日本製造業におけるサプライチェーン・マネジメント改革」で、その全容を明らかにした。幾度とない現場との意見交換、社内での調整作業など、SCM先進企業を目指すパナソニックの取り組みを紹介する。
パナソニックが目指す「自律型サプライチェーン」とは
新型コロナウイルスは、私たちの社会のさまざまな制度やシステムの脆弱性を明らかにした。そのなかで日本製造業のサプライチェーンでは、デジタル化の遅れや海外製造拠点への過剰な依存、リスクヘッジのあり方など、さまざまな課題が浮き彫りになり、再構築が急務となっている。
そこでパナソニックは、オンラインセミナー「日本製造業におけるサプライチェーン・マネジメント改革」を開催。現在、自社で進めているサプライチェーンマネジメント(SCM)改革をモデルケースとして紹介しつつ、ポストコロナ時代のSCMのあり方について提案した。
セミナーの最初の登壇者であるパナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社の上席副社長 事業戦略担当 経営企画担当 原田秀昭氏は、Blue Yonder社が提供するサプライチェーン計画系ソフトウェアを自社導入した背景について、次のように説明する。
「これまでパナソニックは工場、倉庫、物流、小売など、それぞれの現場ごとに生産・業務プロセス最適化に懸命に取り組んできました。しかし今後、多種多様なお客さまの要望に高いレベルで応えるには、個々の現場の最適化だけでなく、SCMのプロセス全体を最適化しなければいけないと判断しました。つくる、運ぶ、売るというSCM全体にBlue Yonder社のソフトウェアで横串を通し、新しいソリューションを構築します」(原田氏)
パナソニックは、Blue Yonder社(1985年にアメリカで創業したSCMを専門とするベンダー)と2019年に戦略的パートナーシップを結び、同社ソリューションの導入を開始した。IoTやセンシング、画像認識、ロボティクスなどの技術を活用したパナソニックのエッジデバイス群を通じて「現場」のデータを収集・見える化。さらに、そのデータを活用してプロセスを自動化し、現場の生産性を向上させる。その上で、Blue Yonder社のSCMソリューションが企業内だけでなく企業間をまたぐサプライチェーン全体を最適化・高度化する。このように、フィジカル(ハード)とサイバー(ソフトウェア)の両方の領域をカバーした「自律型のサプライチェーン」の構築を目指しているという。
「パナソニックが100年以上にわたって製造業で培ってきた知見・ノウハウと、Blue Yonder社の世界最先端技術と融合させ、資材調達から小売まで、SCMを“end to end”で最適化しています」(原田氏)
パナソニック流の「自律型サプライチェーン」構築に向けて
ここからは、CNS社副社長でモバイルソリューションズ事業部(MSBD) 事業部長の坂元寛明氏が登壇。パナソニックが目指す自律型サプライチェーンに向けて、Blue Yonder社のソリューションを自社導入している同事業部の取り組みを紹介した。
「MSBDはノートパソコンのレッツノートや現場用PCのタフブックをはじめ、業務用端末や決済端末などの製品の製造・販売を手がけている事業部です。MSBDの主力工場は神戸と台湾の2か所で、販売会社は欧州だけでも27か国で展開しています。
それぞれの地域販社で独自にシステムを構築していたため、“データをエクセルで落として担当者が手配する”など、属人的な旧時代のオペレーションをしていました。そのため、お客様視点では “各所のリードタイムが長い”“納期即応ができない”、経営視点では“在庫が多い”、そして従業員視点ではマニュアルワークなどの“作業負担が大きい”など、課題が山積していました」(坂元氏)
そうした課題を一掃するため、パナソニックはグローバルのSCMを統括する専門部署BPR部(Business Process Re-engineering)を新設。海外経験のある営業のエースを集め、オペレーション業務の根本的な改善に乗り出した。そして、複数の候補から検討した結果、改善のために選んだのがBlue Yonder社のソリューションだった。
「ソリューションの導入にあたっては、さまざまな投資対効果を検証しました。しかし、最終的に大事なのはトップのコミットメントと現場従業員の腹落ち感です。お客さまの満足度向上はもちろん、従業員の業務負担を減らしたいという現場とトップの意見が合致したことで、今回のSCM改革が前進しました」(坂元氏)
では、実際にどのように改革を進めようとしているのか。その答えは、続いて登壇したCNS社IT革新推進部 総括担当の菅 晃氏が語ってくれた。
「まずBlue Yonderによる戦略的なアセスメント(調査・評価)を実施しました。国内外6拠点を巡りヒアリングした現場の声から課題を分析し、計画系プロセスのあるべき姿をデザインし、そこから改革のロードマップを設計するという手順を踏みました。
その結果、全部で18あるBlue Yonder社の製造・物流向けソリューションパッケージのうち、計画系のプロセスを支える7つの導入を決定しました。現在は、改革の第1フェーズとして、基礎となる5つのパッケージから導入を進めています。続いて2021年4月以降の第2フェーズでは、工場の詳細生産計画などさらに2つのパッケージを追加する予定です。
これにより、サプライチェーン全体の高度な状況把握が可能になり、AIやマシーンラーニングを活用したデータ解析によってリアルタイムなSCMが可能になると考えます。そして最終的には、自律型サプライチェーンの実現を目指します」(菅氏)
「自律型サプライチェーン」とは、あらゆる状況で自動的にSCMの最適化を実現してくれるシステム。たとえば、「災害などにより部品が届かない」「取引き先から急な大量発注が来た」という突発的なできごとに対しても、AIが最適な解決策を提案してくれる。また、市場動向や天候などの外部要因も即座に分析して、スピーディーにSCMを実行する。
MSBDでは、主力工場である神戸と台湾の2か所を起点として、世界各国に広がる複雑なサプライチェーンが構築されている。また、顧客のニーズが多様化していることも、サプライチェーンの複雑化に拍車をかけている。
そのため、人間が各種データを分析して最適なSCMを実行するのは不可能に近い。データの分析を人力に頼らず自動化していく「自律型サプライチェーン」への移行は、パナソニックが推進するSCM改革の1つの到達点でもある。
パナソニックは「共創」によりSCM先進企業への進化を加速
セミナーの最後には、パネルディスカッションでSCM改革の重要性や成果、今後の展望などについて語られた。そのなかで、MSBDオペレーションセンター BPR部 部長の奥田えり子氏は今回の改革のポイントは3つあったと分析する。
「1つ目のポイントは、課題認識と最終のゴールを明確にしてグローバルで共有できたこと。導入前のBlue Yonder社のアセスメントで具体的な数字を示されたことにより、あらためて課題を認識できました。2つ目は、各モジュールで適任人材をアサインし、役割を明確にして進められたこと。そして3つ目は、トップの決断力です」(奥田氏)
サプライチェーン改革は1つの部門・組織だけではなく複数の部門を巻き込んだ取り組みになる。さらにグローバル・サプライチェーンとなると、複数の国・地域を巻き込むことになり、いかに全体の意思を統一するかが成功のカギとなる。
SCM改革を実現させつつあるパナソニックは、「今後、自社で培ったソリューションの経験を外部に向けて展開していく予定がある」として、セミナーは終了した。パートナー企業と「共創」しながら加速するパナソニックのSCM改革は業界の課題を解決していくことができるのか。今後の取り組みに期待したい。
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