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企業の経営において、近年はサプライチェーンマネジメント(SCM)の重要性が増している。サプライチェーンの要素や工程が複雑で、人力に頼った管理をすることは不可能に近いため、SCMを実現するためにはAIをはじめとしたテクノロジーの活用が必須とも言える。本稿ではSCM先進国であるアメリカの事例を紹介し、サプライチェーンに共通する課題やその解決のためのヒントを考察する。

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石角友愛

パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナー

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをリード。HRテックとリテールAIベンチャーを経て2017年にパロアルトインサイトを起業。シリコンバレーやシアトルに技術拠点を持ち、日本企業に対してAI開発やDX支援を行っている。順天堂大学大学院客員教授(AI企業戦略)も務める。近著に『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『いまこそ知りたいDX戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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メーカーにおけるSCMの重要性とは

こんにちは。パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナーの石角友愛です。この記事では、サプライチェーンマネージメント(SCM)とAIに関して書きたいと思います。

「アップルの本当の強さは、サプライチェーンマネジメントにある」とは、『GAFA』著者でニューヨーク大学スターン経営大学院の教授であるスコット・ギャロウェイ氏のコメントです。スティーブ・ジョブス氏が後任にサプライチェーン畑の出身であるティム・クック氏を選んだのも、アップルの本当の競合優位性は複雑なグローバルサプライチェーンを管理する能力にあると知っていたからかもしれません。

また、どれだけ良い製品を作れたとしても、需要増加に伴った生産拡大ができずにバックオーダー(在庫切れ)になってしまうと、企業として批判されてしまうことになります。

最近の例では、スピンバイクを開発するペロトンがバックオーダーになり商品が到着するまで5〜6ヶ月待ちということで批判を受けています。9800人ものメンバーが参加している、ペロトンの出荷遅延問題について語るためだけに作られたフェイスブックグループまであるほどです。

ペロトンは2019年には台湾のバイクメーカーであるTonicを買収しグローバルサプライチェーンを強化する体制を作っていたのですが、コロナで急激に増えた需要に供給が追いつかなかったのです。先日、ペロトンCEOからユーザーにメールが届き、生産を拡大させるために1億ドルを追加で投資することを報告しました。

いかにサービスが価値を生む時代にシフトしているといえど、このようにハードウェア事業を行う企業にとってサプライチェーンは要となります。

AIで解決すべきSCMの課題とは

また、この領域ではAIが多く活用されているのをご存知でしょうか。例えば、マッキンゼーが2018年に行ったAIに関する調査では、76%の会社がサプライチェーンにAIを導入することで大きな、または適当な価値が生まれると回答しています。

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業種別によるAIに対して価値があると感じている人の割合
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出典:McKinsey & Company,AI adoption advances, but foundational barriers remain
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サプライチェーンに含まれる要素や工程は複雑です。人力に頼って管理するのは不可能といってもよいでしょう。そこで、膨大なデータの管理にAIが力を発揮します。特に、サプライチェーンにおいて以下のような課題を抱えている場合はAIが役立つでしょう。

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①在庫管理

②工場や作業場での商品配置最適化

③サプライヤーリレーションシップ、製品のトレーシング

④物流スケジュール最適化

⑤出荷予測、需要予測に基づく生産計画の最適化

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これらは私が製造業のクライアントと話しているなかで、普遍性があると感じた課題です。

アメリカではAIをはじめとしたIT投資が盛んで、SCMにおいては先進国と言ってよいでしょう。さらに、今後は「自動化」や「データ活用」などの変化がより進むだろうと答えているビジネスマンの割合が米国のほうがより高い傾向にあり、企業のマネージャーや経営層の意識に大きな差があることがわかります。

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2020 年日米企業の DX に関する調査
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出典:JAITA「2020 年日米企業の DX に関する調査」
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以降は、SCMの先進国であるアメリカの事例を中心に5つの課題に関する取り組みを紹介します。

SCM先進国アメリカでAIがどのように活用されているのか

①在庫管理

在庫管理とAIの掛け合わせについては、マヒンドラUSAの例をご紹介します。

同社はインドの自動車会社であるマヒンドラ&マヒンドラの北米トラクター製造部門なのですが、2016年からサプライチェーン管理にアエラテクノロジー社のAIソリューションを利用し始めました。このAIソリューションは機械学習を利用した予測分析ソフトウェアで、店舗在庫の削減や顧客への部品配送の迅速化を支援するものです。

AI導入の背景には、マヒンドラの事業規模の拡大がありました。当時、マヒンドラの製品ポートフォリオは当初の10から約55に増加し、同時に販売店数は2011年時点から4倍にも拡大しており、同社はその規模の拡大に応じてサプライチェーンを効率化する必要に迫られていたのです。その解決策として、オペレーション、財務、経営管理、企画など、社内の様々な部門のデータをアエラのプラットフォームに統合しました。

そして、統合されたデータを用いてAIモデル等を構築していった結果、コストを削減するのに最適な出荷の組み合わせを特定することができたと同時に、在庫保管月数(現在の在庫を同様の市場条件で売却するのにかかる可能性のある月数)を35%も削減することができたということです。

私も、「何を目安に在庫量が適切だと判断すればよいのか」「在庫回転率の最適値やベンチマークが欲しい」という顧客からの問い合わせを受けることは多いです。ベンチマークとして社内で共通認識基盤を作るためにもAIを用いた客観的指数が求められていることが分かります。

②工場や作業場での商品配置最適化

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ベルトコンベアに乗った荷物
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AIは、倉庫内の商品配置の最適化にも有用です。リネージュロジスティクスの例を見てみましょう。同社は飲食店や食品店向けに食品の冷蔵保管サービスをしている企業なのですが、SCMにAIを活用することで、注文経路を予測して商品等の配置の最適化を実現しています。

リネージュが特許を取得しているAIアルゴリズムでは、注文の到着日だけでなく倉庫からの出庫日も予測することができます。これにより、従業員は事前にパレット(荷物を載せて運ぶための台)を適切に配置することができます。また、倉庫での保管期間が長い商品は奥に置き、短い商品は手前に置くといった具合に、商品配置を最適化するのにも有用です。

こういったAIの活用を通じ、リネージュはサプライチェーンにおいて20%の効率化を実現したそうです。これは、同社が年間200億~300億ポンド(約900〜1,350トン)の食品を配送していることを考えると、非常に大きなインパクトです。

私自身も倉庫内のレイアウトの最適化やそれに伴う従業員の作業導線の最適化の依頼をよく受けます。レイアウトや作業員のワークフロー、物流トラックの駐車場所などを変更するのは大変かもしれません。ただ、データに基づき改善をすることでリネージュの例のように大きな効率化も期待できます。

③サプライヤーリレーションシップ、製品のトレーシング

世界的な製薬会社であるメルクもまた、アエラのAIソリューションを活用してSCMを行う会社の1つです。

同社は、材料の配分や製品の流通に関する意思決定などサプライチェーンの一部の工程を自動化し、より迅速な計画決定を行うのにAIを用いています。

また、物流及び在庫管理の効率化には、工場の機械に取り付けられた予測モデルソフトウェア搭載のセンサーからデータを収集し、分析に活用しています。

メルクは不妊治療薬やがん治療薬などの医薬品が、複雑化するサプライヤーや取引先のネットワークの中でどのように流通しているのかを、より詳細に把握するためにAIを利用しているそうです。

このAIシステムと現場の人間が、同じテストデータを使って検証を行ったところ、そのうちの80%はAIの方が人間より正しい予測ができたとのことです。

同社のCIOは「問題解決のためには1つのソリューションを導入すれば終わりということではない。グローバル規模でまず導入したのは、ダッシュボードの形でサプライチェーンの情報を見える化したデータパイプラインだ。そしてその次に、使用事例に基づき社員が使う機械学習モデルのレイヤーがある。それとは別にもう1つ、何をすべきかレコメンドしてくれるAIシステムのレイヤーがある。これはサプライチェーンのプランナーに対して需要と供給データに基づき計画に関するレコメンドをするものだ」という内容の発言をしています。

サプライチェーンが複雑化するほど製品や部品のトレーシングが難しくなります。パロアルトインサイトのクライアント企業からも、「自分たちが製造や加工した部品が最終的にどんな形で商品になりどこにいくのかトレーシングができたら、QAプロセスなどにも活かせるのではないか」という課題を聞くことがあります。オペレーションの現場でもAIの活用価値があることが分かります。

④物流スケジュール最適化

続いて、カリフォルニア州に本社を置くインフィネラというメーカーのケースを見てみましょう。

インフィネラは、2017年に粗利益が45%から33%に低下したことに危機感を覚え、SCMにAIを導入することにしました。

同社のシステムは、スプライス・マシーン社のAI技術とイントリゴ・システム社のサプライチェーンマネジメント技術を掛け合わせたもので、顧客や販売員が現在入手可能な製品やその納期の情報へリアルタイムにアクセスできるようになっています。

このシステムは、単に出荷や製造のスケジュールから商品の到着日を推測するのではなく、過去の配送情報や気象情報、物流、顧客のフィードバック等のデータを組み合わせてAIに分析させ、正確な商品の配送日を予測しています。その結果、企業内での連携が強化され、より迅速に意思決定を行うことが可能になりました。

例えば、インフィネラの営業チームは、納期までにどのような商品が入手できるかをリアルタイムの情報に基づいて顧客と交渉することが可能になります。そして顧客サイドからすれば、商品の正確な納期を把握できることで、取引に満足感を得ることができるのです。

スプライス・マシーンの CEOであるモンテ・ツヴェーベン氏によると、「自分たちで計画をした在庫量に基づくのではなく、客観的な予測値に基づいて顧客と交渉ができるようになりました」とのことです。

日本企業のSCMにおけるAI導入の展望

⑤出荷予測、需要予測に基づく生産計画の最適化

不二家には「カントリーマアム」などの菓子を量販店に販売する製菓事業と、店頭でケーキなど生菓子を扱う洋菓子事業があるのですが、堅調な製菓事業に対し、洋菓子事業では10年以上赤字が続いていました。

そこで不二家は、赤字の洋菓子事業にAIを導入し、立て直しを図ることにしたのです。以下に紹介する内容は現在進行中のプロジェクトに関するものです。

まず、2000種類にものぼる商品の店舗ごとの発注量や販売動向、顧客の属性などのデータを整理し、それに加えて生菓子の材料や配合、天気まで多岐に渡るデータをAIに解析させることで、「特定の商品がどのような条件でどの店舗で売れているのか」という詳細な需要傾向を予測することを試みます。

そしてこの需要傾向から正確な出荷予測を立てることで、工場のライン編成や人員配置を最適化するという計画です。

これにより、これまで人の感覚で行われる発注により生じていた無駄を取り除き、生産コストを削減することを目指しています。また、同時に食品廃棄ロスの抑制も実現できるため、環境に優しいシステムともいえるでしょう。

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洋菓子製造工場
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今回は5つの課題と事例を紹介しましたが、SCMの課題はもちろんこれだけではありません。特にグローバルにサプライヤーをコントロールする企業では、データの管理や所有権などの規制に関わる課題が必ず出てくるでしょう。

冒頭で、「アップルの本当の強さは、サプライチェーンマネジメントにある」というコメントを紹介しましたが、企業の競争力はサプライチェーン次第で大きく変化します。サプライチェーンは、環境整備が進むと共に、AI活用がさらに期待される領域の1つです。自社の経営にインパクトを与えるSCMについて、あたらめて検討してみてはいかがでしょうか。

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企業の経営において、近年はサプライチェーンマネジメント(SCM)の重要性が増している。サプライチェーンの要素や工程が複雑で、人力に頼った管理をすることは不可能に近いため、SCMを実現するためにはAIをはじめとしたテクノロジーの活用が必須とも言える。本稿ではSCM先進国であるアメリカの事例を紹介し、サプライチェーンに共通する課題やその解決のためのヒントを考察する。
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先進事例に学ぶ、サプライチェーンマネジメントにおけるAI導入
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文:石角友愛