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『サーキュラーエコノミー実践 オランダに探るビジネスモデル』

安居 昭博 著

学芸出版社

2,640円(税込)

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気象や生態系など自然界の循環システムにならう

前回の記事では、『サプライウェブ 次世代の商流・物流プラットフォーム』(日本経済新聞出版)を基に、情報やモノの流れが「リニア(直線)」から「ウェブ(クモの巣)」に進化しつつあると論じた。

だが、モノの流れに関しては、もう1つ、興味深く、そして私たちの未来に大きく影響する「変化の兆し」がある。「リニア」から「サイクル(循環)」への変化だ。

これは「変化」というより「回帰」といった方が良いのかもしれない。自然界がサイクルで成り立っているからだ。気象や生態系のことである。もっともシンプルなのは、地上に降り注いだ雨がやがて蒸発し、上空で雲を作り再び雨を降らすというサイクルだろう。

『フォース・ターニング【第四の節目】』(ビジネス社)という書籍では、人類が数千年をかけて「混沌(カオス)」→「循環的(サイクル)」→「線的(リニア)」というように「時間の流れ」に対する意識を発展させてきたと論じられている。

産業革命以降、特に西洋社会では、自然界のサイクルを忘れ、「始まり」から「終わり」に一方向に進むという、リニアな意識が広まった。モノの流れで言えば、生産→消費→廃棄という一方向に進むのが当たり前と思われるようになった。

ところが、最近になって、そうしたリニアな流れの「終わり」の段階で大量に生み出される廃棄物の地球環境への悪影響が無視できないほどになっている。これらによって、それこそ人類社会が、一直線に「終わり」に向かってしまう。そんな持続可能性への危機感が世界に広がっているのは周知の通りだ。

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そこで、自然界の「循環」にならい、人工物を含むモノの流れをサイクル状にして、(リニアなモノの流れの「終わり」にあたる)「廃棄」をなくしていこうという動きが、世界中に起きている。「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」である。

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本書『サーキュラーエコノミー実践』では、サーキュラーエコノミーの概要をまとめた上で、この分野における先進国の1つであるオランダと、日本国内の取り組み事例を豊富に紹介している。

著者の安居昭博氏はCircular Initiatives & Partners代表。サーキュラーエコノミー研究家、サスティナブル・ビジネスアドバイザー、映像クリエイターとして活躍。1988年生まれで、世界経済フォーラムGlobal Future Council on Japanメンバーでもある。オランダと日本の2拠点で活動を続けている。

ジーンズをリースで提供することで 循環型システムを実現する

サーキュラーエコノミーは、単なる「リサイクル(資源活用)」や「リユース(再利用)」にとどまらない概念だ。

サーキュラーエコノミーでは、徹底して廃棄物ゼロが目指される。事業立案や商品デザイン考案、原料調達など最初の段階から廃棄の可能性をなくし、自社や社会の中で資源が循環するトータルなシステムを作り上げる。リサイクルやリユースは、そのシステムの一部であり、廃棄物をなくすためのアプローチの選択肢にすぎない。

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サーキュラーエコノミーでは、リサイクル、リユースに加え、「リデュース」「リペア」というアプローチもとられる。生産に向けて資源を投入する際に、そもそもの調達量を最小限に抑えたり、再生可能な素材や原料を選択したりするのがリデュースである。リペアは、修理やメンテナンスにより製品等を長く使い、廃棄を避けるというものだ。そして、この四つのアプローチは「リデュース>リペア>リユース>リサイクル」という優先順位で検討すべきものだと安居氏は説明する。

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本書で事例として紹介されているオランダの衣料メーカー「マッドジーンズ」は、世界初の「サーキュラーエコノミー・ジーンズ」を開発したことで注目されている。

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マッドジーンズ(提供:Akihiro_Yasui)
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2012年創業のマッドジーンズは「世の中からジーンズが捨てられる慣習をなくすこと」を経営理念とする。そのためのビジネスモデルとして、同社は自社が生産するジーンズを月額制の「リース」で消費者に提供している。リース期間中の修理サービスはリース料に含まれている。

1年間のリース終了時には、二つのオプションから今後の使い方を選択できる。「新しいジーンズと交換し、リースを続ける」と「古いジーンズを引き取り、自分のものにする」のいずれかだ。これまでの統計によると、利用者の80%は前者を選択するそうだ。返却された使用済みジーンズは、繊維に戻され、新しいジーンズにリサイクルされる。

マッドジーンズは、先に紹介した「リデュース>リペア>リユース>リサイクル」という順番を意識して、商品を開発していったそうだ。具体的には、まず、ジーンズの背部に取り付けられるブランド名を記した革製のラベルを、リデュースの考え方から廃止。代わりに直接生地にペイントすることにした。

次にファスナーが検討されたが、リデュースは難しいと判断され、リユースの考え方から、ファスナーより耐久性のあるボタンを採用する案が生まれた。コットン繊維については、リユースも難しいことから、上記のようにリサイクルすることにした。

サーキュラーエコノミーに欠かせない 「情報の伝達」

もう1つ、本書から事例をピックアップしてみよう。

オランダの3大メガバンクの1つで、近年、サーキュラーエコノミー分野へのファイナンスに力を入れる「ABN AMRO」は、2017年に複合施設「サークル(CIRCL)」を、アムステルダム本社オフィス前に設置した。これは、従業員の増加による会議室不足の対策として計画された建物だが、市民が日常的に訪れたいと思えるオープンな場所にしようというコンセプトが取り入れられ、会議室の他に、レストランやバー、ショップ、展示スペースなどが併設されている。

サークルのもっとも大きな特徴は、建物全体の建築段階から、設置された施設や利用法に至るまで、サーキュラーエコノミーやサステナビリティの考え方が反映されていることだ。施設でいえば、ショップでサーキュラーエコノミー製品を取り扱ったり、レストランで食材の一部を地域のスーパーで廃棄予定だったものを使用したりしている。また、サークルではサステナビリティに関するワークショップなどが開催され、コロナ禍以前には毎月5,000人ほどがサークルを訪れていたという。

サークルの建設にあたっては、オランダ国内で取り壊しになった建物や、ABN AMROの社員から集められた資材が、ところどころに活用されている。形やサイズ、色の異なるさまざまな木材がモザイク画のように組み合わさった木製フロアは、サークルの象徴になっているそうだ。防音壁に、着られなくなったABN AMROの旧型ユニフォームを繊維化した素材が使われているのもユニークだ。

また、サークルの建設でも、マッドジーンズと同様に「リデュース」が優先され、建築時のみならず将来の改築や取り壊しの際にも「廃材を出さない」ことが徹底的に追求されたという。解体後に資材に戻しやすい木造建築を基本とし、木製支柱の固定に接着剤は一切使用されていない。代わりに金属製のネジで留めることで、分解しやすくされている。

このような素材の再利用を考慮した「サーキュラー建築」を進めるにあたっては、素材の「情報」を把握して記録し、解体業者や次の利用者に伝達する仕組みが欠かせない。例えば素材の純度はどのくらいか、混合材であればどんな素材が何%混じっているのか、といった情報を集め、伝えられれば、次の利用者のニーズに合ったスムーズで無駄のない再利用の可能性が高まる。そのために、オランダでは、ブロックチェーンで情報を保護し、それぞれの建材にQRコードを印字する仕組みづくりが進められているそうだ。

本書によれば、こうした情報伝達の仕組みづくりは、食品分野でも取り組まれている。 「フェアフード」というオランダの研究機関による、ブロックチェーン技術を応用したフェアトレードのシステム構築だ。例えば商店に並べられている食品にQRコードを付け、それを読み込むことで、生産者の賃金や労働環境、使用している農薬の種類、遺伝子組み換えかどうか、サプライチェーンに関わった企業といった詳細な情報が得られる。

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日本でも同様の取り組みが始まりつつある。2021年11月、「ITで環境問題に挑む」をスローガンに掲げる株式会社JEMSは「Circular Navi(仮称)」をリリース。これは、ブロックチェーン、QRコード、ICタグなどを活用して、廃棄物を再生利用する際にそれまでの過程をトレースし「見える化」する、リサイクルされた過程を記録する、といったデータ管理を可能にするプラットフォームだ。すべての企業や業界で利用可能なものだという。

世界的なサステナビリティへの意識の高まりから、サーキュラーエコノミーへの移行は今後、さらに広がっていくことだろう。もちろん日本も例外ではない。来るべき「サイクルの時代」に備え、サーキュラーエコノミーの考え方を理解するとともに、その実践に欠かせない、情報を「見える化」する仕組みづくりの検討を始めてみてはいかがだろうか。

情報工場 SERENDIP 編集部 チーフ・エディター 吉川清史)

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リニアからウェブへと変化するサプライチェーン ――『サプライウェブ 次世代の商流・物流プラットフォーム』書評

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「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」と呼ばれる、自然界の「循環」にならい、人工物を含むモノの流れをサイクル状にして、「廃棄」をなくしていこうという動きが、世界中に起きている。『サーキュラーエコノミー実践』では、その概要をまとめた上で、この分野における先進国の1つであるオランダと、日本国内の取り組み事例を豊富に紹介している。
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リニアからサイクルへと“回帰”する「モノの流れ」 ~『サーキュラーエコノミー実践』書評
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文:吉川清史