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SDGsやESG経営など、サステナビリティに対する世界的な関心の高まりによって、企業活動は大きな変革を迫られている。企業が生み出すプロダクトやサービスそのもののよさだけでなく、それらを生み出す過程がより重要視されるようになってきたなか、新しい時代のサプライチェーンはどのようにあるべきなのか。社会や自然環境をよりよくするためソーシャルデザインの手法を用いてサステナビリティ教育に取り組む一般社団法人Think the Earth理事の上田壮一さんに、サステナビリティに対する理解を深め、それぞれが実践していくためのヒントを伺った。

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上田 壮一(うえだ そういち)

一般社団法人Think the Earth 理事/多摩美術大学客員教授

1965年兵庫県生まれ。95年の阪神淡路大震災をきっかけに、「社会のためにできる仕事をしたい」との思いから広告代理店を退職。01年に24時間で1周(自転)する地球儀を埋め込んだ「アースウォッチ(地球時計)」の製品化をきっかけに、Think the Earthを設立する。以後、プロデューサー/ディレクターとして携帯アプリ「live earth」、書籍『百年の愚行』『1秒の世界』『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』などを手がける。2017年よりSDGs for Schoolをスタート。ソーシャルデザインの専門家として、大学や企業などでの講演活動も行う。グッドデザイン賞審査委員(2015-2017)、STI for SDGsアワード審査委員(2019-)。

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社会や自然環境を変えるためには「継続性」こそが重要

――上田さんは環境や社会、地域が抱える課題を解決するための団体「Think the Earth」の理事を務められている傍ら、ソーシャルデザインの実践者として大学でも教鞭をとられていますよね。あらためて、ソーシャルデザインとはどういうものなのか教えてください。

上田:簡潔に言えば、社会や環境課題に対してデザインを通じてアプローチすることで、「公共性、参加性、継続性」の3つを大切にしていることが特徴です。

公共性とは、一企業や特定の人の利益のためではなく、社会全体の利益になること。参加性とは、誰か1人のスーパークリエーターが考えるのではなくて、それぞれ課題を抱える当事者と一緒に知恵をしぼり、課題解決を進めること。そして継続性は、次世代への継承も視野にいれながら、長い目で見ながら続けることです。

個人的にはソーシャルデザインのプロジェクトでは、この3つ目の継続性が難しいし、重要だと思っています。社会を変えるには、少なくとも5年、10年はかかりますし、自然環境を変えるとなると、50年、100年スパンで物事を考えていかないといけない。私たちも「100年の計」のつもりでサステナビリティ教育に取り組んでいます。

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一般社団法人Think the Earth 理事/多摩美術大学客員教授 上田 壮一氏
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一般社団法人Think the Earth 理事/多摩美術大学客員教授 上田 壮一氏
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10年後も必要とされる企業であるためにサステナビリティ教育を進めていくべき

――ソーシャルデザインは企業活動のサステナビリティを考えるうえでも、参考になりそうな視点ですね。Think the Earthの具体的な活動内容はどういったものでしょうか。

上田:環境問題や社会問題をテーマに、企業やNPO、教育機関、行政などとのコラボレーションプロジェクトを企画・制作・運営しています。現在注力している「SDGs for School」は、持続可能な社会の担い手の育成をめざし教育を実践する、教員の方々や生徒たちを応援するプロジェクトです。書籍や冊子、映像、指導案など、楽しみながら SDGsについて学べる教材をつくって学校に届けたり、各地の教員をつなぐための研修や交流の場を提供したり、そのほか、教員や子どもたちと一緒に「問題の現場」を訪れるフィールドワーク型の授業、現場で問題と向き合う実践者を招いての講演会なども実施しています。

矛盾を孕む地域の現状を子どもたちに見てもらうことで、持続的な社会のあり方について考えてもらうことがフィールドワークの狙いです。答えのない現場に放り込まれて、問題と向き合うことで、子どもたちは大きく成長します。

現在、「SDGs for School」には全国の小中高2000名以上の教員に参加いただいており、これまでのべ8万人以上の生徒が授業に参加してくれました。教育の場から、大人と子どもたちが一緒になって持続可能な社会実現に向かう動きをつくっていきたいと思います。

最近「SDGs for School」は、環境省の環境教育等支援団体指定を受けました。さらに活動の幅を広げていきたいと思っています。

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SDGs for Schoolの活動第一弾としてつくられたビジュアルブック『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』は発行部数が10万部を超えている(2021年12月時点)
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上田:そもそも環境問題や社会課題は、私たち1人ひとりが関心を持たなければ解決できません。環境や社会の問題をわかりやすく伝え、世の中の「無関心」を「好奇心」に変えていく。「SDGs for School」は、そのための普及・啓発活動の1つです。

そうした普及・啓発活動は教育にたどりつきます。少し専門的な言葉でいえば、1人ひとりの行動が変容し、連帯してゆくことで社会変容につながるわけですが、たとえばいきなり法律やルールをつくって行動変容を促したとしても、なかなか定着せず、たいていは長続きしません。

行動変容を強制する前に、まず気持ちを動かす。社会を変えるためには、意識変容を通じて自発的な行動変容を促すことが大切です。そのプロセスを、じっくり時間をかけて実践できるのが、教育の現場だと思っています。企業のなかで行われる人材教育にも、同じことが言えるのではないでしょうか。

子どもたちと関わるなかで感じることですが、新しい世代は以前よりもサステナビリティの理解が進んでいます。その子どもたちが大人になったときには、これまでとは違った価値基準で企業を選ぶはずです。

環境問題に取り組む意欲が低かったり、行動が伴っていなかったりする企業は、次世代の若者から選ばれなくなっていくでしょう。10年後も必要とされる企業であるためには、社員の心が動くようなサステナビリティ教育を進めていくべきだと思います。

ブランド戦略として経営者自身がサプライチェーンを「デザイン」する

――もし、現在企業と一緒に取り組んでいるプロジェクトがあれば教えてください。

上田:野村不動産と港区が進める「SKDs学びのまちプロジェクト」に一緒に取り組んでいます。背景にあるのは野村不動産が進めている「芝浦一丁目プロジェクト」です。2030年度の全体竣工を目標に、浜松町エリア(東京都港区芝浦1丁目)に高さ235mのツインタワーを建設するという計画です。サステナビリティがひとつ大きなテーマとして据えられており、完成すれば街区全体でCO2排出量が実質ゼロになります。

そして、地域の企業や団体とともに芝浦の街をよりよくしていきたいと野村不動産は考えていて、その一環で、地域の学校と一緒に未来の芝浦について考えるプロジェクトを始めました。

具体的には、地域の高校の生徒たちと一緒に、サステナビリティを大切にしている地元企業やNPOを取材して、記事をつくるという活動です。生徒たち自身が取材先をリサーチし、質問を考え、インタビューをして、原稿も執筆する。完成した記事は、港区のウェブサイトで公開され、3 年後には冊子にして港区の人たちに配布される予定です。教育、地域デザイン、企業ブランディングといったさまざまな面をもった、ユニークな取り組みだと思っています。

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	「SKDs学びのまちプロジェクト」の様子
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「SKDs 学びのまちプロジェクト」では出張授業「まちをみるめ」を実施するほか、地域在学の高校生とともに芝浦港南地区版の「SDGsアクションブック」を作成する(提供:野村不動産株式会社)
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――長年活動されてきたなかで「サステナビリティ」に対する企業側の向き合い方が変化してきたと感じられることはありますか。

上田:そうですね。ひと昔前までは、「環境への配慮」や「持続可能性への対応」は、単なるコストとして捉えられていました。しかし、近年SDGsやESGが注目されるようになり、そうした取り組みに力を入れることで消費者の信頼を得られて、長期的には利益につながるという考えが強まっています。そもそも環境破壊や温暖化が進めば、企業活動や経済活動そのものが成り立たなくなる恐れもあるわけです。

また、投資家も、環境や人権などサステナビリティを重視して経営されている企業のほうが長期的な成長が見込めると評価しています。そして消費者も、単に安いから、モノがいいからと飛びつくのではなく、その商品がつくられる“過程”に目を向けるように変わってきました。原材料は安全か、工場では人権に配慮しているのか、廃棄物はどのようにリサイクルしているのか。今後、ますますプロダクトやサービスの背景にある取り組みが評価される時代になっていくはずです。

――サプライチェーン全体を投資家や消費者が厳しい目でチェックするようになるということですね。

上田:そうですね。それは企業にとって大変なことかもしれませんが、新たなブランド価値を生み出すチャンスにもなると思います。

これまで企業は、製品やパッケージ、あるいはその製品を売るための店舗や広告のデザインには一生懸命クリエイティビティを発揮してきました。たとえばグラフィックやプロダクト、空間のデザインの専門家などがブランドイメージ作りに貢献し、企業の価値を高めてきたわけです。しかし、これからの時代、消費者の心をつかむためには、サプライチェーンそのものが「持続可能な社会」と調和がとれていなければいけません。利益や効率とはまた別の文脈の、「信頼できるサプライチェーン」を可視化して消費者と共有していくブランドデザインが必要だと思います。

そしてそれができるのは、経営者です。経営者自身が「サプライチェーンのデザイナー」となって、新しい時代のサプライチェーンをつくる必要があるのではないでしょうか。

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一般社団法人Think the Earth 理事/多摩美術大学客員教授 上田 壮一氏
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――なるほど、サプライチェーンの構築そのものが、ブランド戦略になりうるということですね。

上田:はい。そして、その際に大切なのは「誠実な情報開示」だと思います。自社に都合にいい情報だけを発信する企業を、もはや消費者は信用しません。消費者が知りたいのは“本当のところ”です。

「こんなSDGsに取り組んでいます」と自社の実績ばかりをPRする企業と、未来のリスクをしっかり把握した上で“まだできていないこと”も公表する企業では、どちらのほうが信じられるでしょうか。これからの時代、自社の課題も含めた透明性のある情報公開が企業価値を高めることにつながるはずです。

「誠実な情報開示」を実践するためにも、現場でサステナビリティを学ぶ機会を増やすことは重要です。たとえば、原料調達の現場や海外の工場、物流拠点をまわる研修などを実施するなど、サステナビリティという観点から自社のサプライチェーンの現場を見ると、これからの企業のあり方を考える上で、さまざまな発見があるのではないでしょうか。

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SDGsやESG経営など、サステナビリティに対する世界的な関心の高まりによって、企業活動は大きな変革を迫られている。企業が生み出すプロダクトやサービスそのもののよさだけでなく、それらを生み出す過程がより重要視されるようになってきたなか、新しい時代のサプライチェーンはどのようにあるべきなのか。社会や自然環境をよりよくするためソーシャルデザインの手法を用いてサステナビリティ教育に取り組む一般社団法人Think the Earth理事の上田壮一さんに、サステナビリティに対する理解を深め、それぞれが実践していくためのヒントを伺った。
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【Think the Earth 上田壮一氏インタビュー】「誠実な情報開示」が未来の企業価値を高める
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【Think the Earth 上田壮一氏インタビュー】「誠実な情報開示」が未来の企業価値を高める
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取材・文:相澤良晃、撮影: 井上秀兵