2003年からゴミの焼却・埋立処分ゼロをめざす「ゼロ・ウェイスト宣言」を掲げている徳島県上勝町。 町役場は、町内に1か所だけのゴミステーション「ゼロ・ウェイストセンター」で、小規模なサプライチェーンだからこそできる取り組みを進めてきた。官民連携の体制を整え、政策方針を住民一人ひとりに伝えた結果、リサイクル率は全国平均の約4倍である80%を達成。今回、上勝町役場の企画環境課廃棄物処理(ゼロ・ウェイスト)担当の菅翠さんにお話を伺った。
草の根的な活動でリサイクル率は全国平均の約4倍の80%に
――まずは上勝町がどんなところなのか教えてください。
菅:上勝町は徳島県のほぼ中央に位置する山あいの町で、面積の約9割が山林です。平地は2%ほどしかなく、そのなかの55の集落で、住民の方々は棚田や段々畑で農作業などをして暮らしています。
かつての主産業は林業で、ピーク時の1950年代半ばには6000人ほどの人口がいました。しかし、現在では4分の1の1500人程度まで減っています。深刻なのは少子高齢化の問題で、人口の半数以上が65歳以上の高齢者。19歳以下の住民は130人程度しかいません。小学校の全校生徒数は30人程度でなんとか1学年1クラスを維持しているという状況です。
――現在、上勝町での「ゼロ・ウェイスト宣言」における中心施設となっているゴミステーションは、2020年5月にリニューアルしたと聞きました。
菅:はい、これまでのゴミステーションとしての機能だけでなく、体験宿泊施設や情報発信機能を備えた複合施設、上勝町ゼロ・ウェイストセンター「WHY(ワイ)」としてリニューアルしました。「WHY」という名称には、「なぜそれを買うのか? なぜそれを捨てるのか? 消費とゴミの関係について深く考えてみてほしい」という思いが込められています。
オープンしてから現在 (2022年4月) まで約2450人の方が宿泊に来られています。とくに関西、関東の都市圏から来訪される方が多く、みなさん「SDGs」や「建築」、「まちづくり」などのキーワードを念頭に置かれている印象です。昨今、自治体や企業がサーキュラー・エコノミーの実践を目指している影響もあると思います。
菅:「WHY」自体が、住民から寄付していただいた建具や家具を利用して建てられているので、「ゼロ・ウェイストの手触り感があってうれしい」という宿泊客の方もいました。また、コンポストの体験者のなかには、帰宅してから実践して、その様子をSNSなどで紹介してくれた方もいたそうです。
「ゼロ・ウェイスト宣言」に共感してくれる仲間が各地に増えてくれればうれしいですね。ゆくゆくは、「ゼロ・ウェイスト」を実現するための技術やテクノロジーのショールームのようにしていく構想もあります。企業との共創の場としても機能させていきたいです。
――そもそも、「ゼロ・ウェイスト」を実施するにあたり、町役場としてまず何から始めたのでしょうか。
菅:最初に取り組んだのは、生ゴミの堆肥化です。一般家庭からでる焼却ゴミの組成調査をしたところ、生ゴミが3~4割を占めていることがわかったのです。そこで、生ゴミを堆肥にする「コンポスター」や「電動生ゴミ処理機」の購入費を補助しました。農地を所有する住民が多いなど、有機物の処理が容易な土地柄もあり、原則として生ゴミはすべて家庭で処理してもらっています。
――生ゴミ以外の回収はどうしているんですか?
菅:「ゼロ・ウェイストセンター」に持ち込んでいただいています。ゴミ収集車が回収してくれる都市部の人からすれば不便に思えるかもしれません。ただ、ゴミステーションは年末年始の3日間を除いて年中開いているので、自分の都合のいいタイミングでゴミを出せるというメリットがあります。
また、高齢者や車を持っていない方など、ゴミの持ち込みができない方のために運搬支援も行っています。2か月に1回、無料でご自宅までゴミの回収に伺うというもので、現在利用していただいているのは50世帯ほどです。
――リサイクル率の向上や焼却処分を減らすために、どんな取り組みをされていますか?
菅:こうした町全体の取り組みは、いかに住民の理解を得られるかが成功のポイントになります。そのため2005年には、おもに「ゼロ・ウェイスト」の普及・啓蒙活動をする組織として、NPO法人「ゼロ・ウェイストアカデミー」を立ち上げました。以来、「ゼロ・ウェイスト」の達成に向けて、NPOと二人三脚でさまざまな取り組みをしています。
リユースを広めるために、住民が「まだ使えるけど不要なもの」を持ち込み、どなたでも店内のものを持ち帰れる無料のリユースショップ「くるくるショップ」をゴミステーションに併設。さらに、隣の「ひだまり」という施設では、着物や鯉のぼりなど、不要になった生地でつくった衣類や小物を販売する「くるくる工房」や、お祭りなどのイベントに食器やカトラリー類を貸し出す「くるくる食器」などを実施しています。
菅:こうした取り組みが実を結び、2019年度の上勝町のリサイクル率は80.8%に達しました。全国平均の約4倍です。
財政面でもいい影響が出ています。年間300トンほど排出されているゴミをすべて焼却・埋め立て処分するとなると、1500万円前後の費用が見込まれますが、8割を資源化することで、その費用を600万円程度に抑えることができました。しかも、金属や紙は有価で引き取ってもらえていて、その額は年間200万円ほどです。
――かなりの成果ですね。なぜ上勝町はここまで成功できているのでしょうか。
菅:やはり、自治体でサーキュラーな仕組みを構築するためには、住民ひとり一人にゴミの問題を「自分ゴト」として捉えていただくことが重要だと思います。実は上勝町では、ゴミ問題が持ち上がる以前から、急激に進む過疎化の対策をどうすべきか、町を存続させるために何をすべきかなど、役場職員と住民が膝を突き合わせて一緒に考えてきました。自分たちの町は、自分たちで守り、変えていかなければいけない。住民同士でそんな意識を共有できていたからこそ、「ゼロ・ウェイスト宣言」にも地域一丸となって取り組めたのだと思います。
また、町民の声を聞きながら、町の人口規模や年齢層、地形などに合わせた仕組みづくりをしてきたことも幸いしたと感じます。ゴミステーションを初めて設置する際にはニーズ調査をして、結果1ヶ所になったことから、住民と現場スタッフは顔の見える関係性を築くことができました。小規模なサプライチェーンで生活が成り立つ町だからこそ、丁寧なゴミの分別方法の指導などが実現したのだと思います。そして、「ゴミステーション」というゼロ・ウェイストを推進するための拠点ができたことにより、「ゼロ・ウェイスト宣言」の取り組みや政策の方針が住民一人ひとりに伝わり、徐々に浸透してきたことが高いリサイクル率につながっているのではないでしょうか。
すべてのゴミをなるべく再利用するために、分別は「13種45分類」
――上勝町では、2003年からゴミ廃棄ゼロをめざす「ゼロ・ウェイスト宣言」を掲げ、さまざまな取り組みをされています。何がきっかけだったのでしょうか?
菅:直接のきっかけは、法改正です。もともとゴミ回収車が走ったことのない上勝町では、昔から各々がゴミを庭先で焼却処分する「野焼き」が行われていました。経済成長と共にゴミの質は自然素材からプラスチックへ変わり、ゴミの量も増加の一途を辿り、家庭で処分しきれなくなったゴミを焼却する「野焼き場」が自然発生的にできました。そして、それを後に公的に管理することとなったのです。しかし、それは法令で定められた処分法ではありませんから、たびたび県から指導を受けていたそうです。
菅:そこで、1998年に町として小型の焼却炉を2機導入。しかし、ダイオキシン類対策特別措置法の施行によりゴミの焼却処分の基準が厳格化され、その基準を満たしていなかったため、2000年には小型焼却炉が使用できなくなってしまいました。
それから新しい焼却炉を導入することも検討されましたが、焼却コストや環境に与える影響などを考慮すると、ゴミの再利用・再資源化をめざすほうが長期的には町にとって有益だという結論に至りました。そして、2003年に「ゼロ・ウェイスト宣言」が町議会で可決。以来、町では焼却処分や埋立処分を行わず、民間業者に再利用・再資源化の処理を依頼しています。
――ゴミの分別は、かなり細分化されていますね。
菅:現在、ゴミの分別は「13種45分類」です。すべてのゴミをなるべく再利用するとなると、やはりこのくらいの数に分別しなければなりません。たとえば、紙だけでも「新聞チラシ」「段ボール」「雑誌・雑紙」「シュレッダーくず」などと9つに分類しており、令和4年度は3社に回収していただいています。
菅:上勝町では毎年10社程度に見積もりを依頼して、金額や再利用の方法などを比較検討してから業者を決定します。
多くは徳島県内の業者ですが、水銀の処理など特殊な技術が必要な廃乾電池においては、北海道の業者にも依頼しています。金額を考慮しながらも、効率的に再利用するためにゴミを分別してきた結果、だんだんと細かくなってきました。
町で分別した再生原料やリサイクル品を、資源として使い続けたい
――近年、ESGの観点からもサーキュラー・エコノミーの構築を目指す企業も増えていると感じますが、なにか連携をした事例などあるのでしょうか。
菅:たとえば、 花王さんとは 「リサイクリエーション」という社会実験を行っています。上勝町では洗剤類の使用済つめかえパックを回収し、リサイクルした再生樹脂で「おかえりブロック」というレンガ大のブロックモジュールを制作。町内の保育園などに提供し、ゴミの再資源化を見える化できる教材・玩具として活用していました。この取り組みは、洗剤類のつめかえパックの水平リサイクルを目指して前進し続けており、今後もサーキュラーエコノミーの構築に向けて連携していきたいと思います。
上勝町ではリサイクル率が年々高まっている反面、ゴミの総量はあまり減っていないという現実があります。ECサイトの利用による梱包材の増加や、ものが安く手に入りやすくなったことで「良いものを長く使う」「直して使う」風潮が薄れてきたことが要因の一つではないかと考えられます。いくらリサイクル率を高めても、ゴミの総量が増えてしまえばイタチごっこになってしまうので、ゴミそのものを出さないための施策や、この花王さんとの取り組みのように消費行動に関する子どもへの教育にも力を入れているのです。
菅:また、徳島県阿南市に本社を置く日誠産業さんは、再生が難しいアルミ付きの紙パックのリサイクルを2012年から引き受けてくれています。町の少子高齢化が進み耕作放棄地が増えるなど、集落の人材不足により農業や産業の衰退が深刻になりつつある現状を知った日誠産業さんは、持続可能なまちづくりに取り組む上勝町に共感し、町に人や仕事を呼び込むべく2021年、町内に「きせきれい」という会社を立ち上げました。今後、ゼロ・ウェイストに限らず町に興味のある企業と積極的に手をつないで、さまざまな取り組みや事業を展開していくなど、全面的に応援体制を取ってくれています。
――それでは、最後に今後の上勝町の目標を教えてください。
菅:複数の材質の部品が接着されたものや衛生用品など、処理が難しいゴミを中心にまだ2割程度、焼却・埋め立てしなければならないものが残っています。それらを製造業者さんや処理業者さんの力を借りて再利用できるようにして、本当の「ゼロ・ウェイスト」を達成したいですね。
また、現時点では、ゴミを資源として業者に提供していますが、それらから生まれた再生原料やリサイクル品を上勝町に戻すというところまでは、できていません。「自分たちが分別した資源が、こんな形で戻ってくるんだ!」という感覚を町民の方々に味わってほしいですね。資源リサイクルすることで、自分たちの生活も豊かになるということを実感できる循環型のサプライチェーンの構築を、外の企業や団体と連携して整えていきたいと思います。