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サプライチェーンにおける部品調達に革新をもたらす気鋭のスタートアップ企業、キャディ株式会社。「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」をミッションとして掲げ、製造業のバリューチェーン全体に潜む構造的な課題に対峙している。そんなキャディ株式会社の製造支援本部 本部長の幸松 大喜(こうまつ・だいき)氏にキャディがサービスを通して実現したい世界と、現在の業界構造をどう変革していくのかを伺った。

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持ち前の開発力や技術力を発揮できない業界構造を変革する

——モノづくり産業・製造業界の課題とはどんなものでしょうか。

幸松:製造業のなかには開発力や技術力を持っていても「見積業務や管理業務に忙殺される」「営業力が足りない」「情報やネットワークが乏しい」といった理由からその力を発揮できない企業や町工場がたくさん存在します。個人的にも前職のマッキンゼーで国内外の製造業を中心としたオペレーションの領域を担当していたときから、限られた取引先への売上依存からくる“下請けピラミッド構造” に課題を感じていました。そこにはさまざまな問題がありますが、業界構造の象徴と言えるのが、調達市場における「相見積もり」。これは、各メーカーが5社・10社から見積もりをとり、そのなかでの最安値を把握するという商習慣です。

例えば、メーカー(発注者)が町工場(加工会社)から部品調達するとき、メーカー側には「できるだけ安く仕入れたい」事情があります。競争力を高めるためには当然です。ただそこには「この部品をいくらで買うのが適切か」を判断する仕組みがなく、それを判断できる唯一の手段が相見積もりでした。

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キャディ株式会社 製造支援本部 本部長 幸松 大喜氏
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キャディ株式会社 製造支援本部 本部長 幸松 大喜氏(提供:キャディ株式会社)
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幸松:相見積もりは一見合理的な手段のようにも思えますが、町工場側からすると大きな負担となります。なぜなら、あるべき価格設定がわからないうえ、発注者が示す品質基準が明確でないことも多く、そもそも案件が確実に来るかもわからないからです。

そのため、町工場側は相見積もりに応じる一連のプロセスのなかに、金額・納期の余裕を見るためのバッファを組み込むことになります。結果的に、それらのバッファがあることでコストは上がり、メーカー・町工場双方の効率は下がり、競争力低下にもつながるのです。そのような構造を変革するために、キャディでは「バッファの必要ないフラットな取引を実現できる世界を作りたい」という意識をもって事業を進めています。

また、製造業のバリューチェーンのなかでも、調達分野はIT化が進んでいません。設計であればCAD/CAEなどの活用、製造であれば自動化・ロボット化、販売であればAI・ビッグデータ活用などがありますが、調達においては目立ったイノベーションが起きていないのです。総生産額180兆円規模と言われる製造業のなかで調達の市場が占めるのは120兆円。そこを変革できれば製造業界全体へのインパクトも大きいと考えました。

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製造業における各市場における生産額
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製造業のなかで120兆円を占める調達市場においては、大きな革新が未だない(提供:キャディ株式会社)
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現場に根付いたシステムで、製造業界全体を変える

——そもそも町工場や調達市場での、IT化・DXが進まない背景にはどんな要因があるのでしょうか。

幸松:「システムを導入すれば現場を変えられる」と考える経営者が一定数いるのだと思います。正直、システムありきで現場を変えるのは難しいです。例えば、経営者が「このシステム良いな」と思っても、現場がそのシステムについていけるかといえばそうはいきません。

また、システムを導入したとしても、システム開発会社が現場の感覚を理解しているかといえばそうとも言い切れない。「システムで解決したい」という思いが先行すると現場に使われないシステムになり経営者もDXを諦めてしまいます。ITと製造業、双方の知識・コミュニケーションノウハウを身に付けた“両立できるプレイヤー”がいなかったことも大きな要因です。

——キャディではどのようなアプローチをとっているのでしょうか。

幸松:最初は基本的に町工場のやり方に合わせています。いきなり「このシステムから注文が入りますよ」といってもこれまでのやり方をすぐやめることは難しく、煙たがられてしまうためです。そのため、最初のうちは町工場の方々の日頃の業務に合わせ、PDFのメール添付などでやりとりをしました。そうしたコミュニケーションを通じて「このシステムは役に立つかも」とご理解いただいてから、4年目くらいのタイミングでシステム導入を提案しています。

キャディが掲げている“現場主義”は「町工場の現場だけを変えることがゴールである」という意味では決してありませんし、私たちはあくまで業界全体を変えたいと思っています。ただ、製造業において当社の提供する価値を理解していただくには「営業で得意な案件がやってくる」「見積もり依頼が楽になる」といった付加価値だけだと限定的でインパクトに欠けます。もっと大きな価値を出していくと考えたとき、「製造業の現場を変える」「よりモノづくりをしやすい状態にする」ことにはしっかり向き合っていきたいと考えました。

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キャディのコンテナ
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(提供:キャディ株式会社)
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——特に現場と対峙するとき意識していることは何ですか。

幸松:キャディの行動指針(バリュー)の1つに「至誠を貫く」があります。これは顧客・パートナー・同僚、そして自分を含めたすべてのステークホルダーに対し、常に誠実であることを意味します。製造業では「お世話になったら恩返しする」のような、ある意味では義理人情の慣習が存在していると感じます。

だから取引先にトラブルがあった場合は、「どうにか解決しよう」と寄り添う。これは合理化が進む現代の社会にはマッチしないのかもしれません。でも、それがあるから日本の製造業は強くなってきたとも思っているんです。お互いが気持ちよく仕事をできるよう、誠実に対応することは全社員が常に大事にしています。

ファブレスメーカーとして「製造業の当事者になりたい」

——それでは、受発注プラットフォーム「CADDi」とは具体的にどのようなものなのか教えてください。

幸松:「CADDi」は当社独自開発のアルゴリズムを用いて、品質・納期・価格が最も適合する加工会社を選定し、品質保証を行った上で納品まで責任を負います。発注者から図面データをいただき、プラットフォーム側で自動的に算出した製造原価計算を元に見積提示を行います。発注者から成約を得られたら、加工工程ごとに最適な加工会社に確定発注を行います。その間、発注者が相見積もりを取ることも、加工会社が見積作成作業に時間を割くこともありません。

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受発注プラットフォーム「CADDi」のサービス概要
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受発注プラットフォーム「CADDi」のサービス概要(提供:キャディ株式会社)
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幸松:加えてCADDiには「図面解析システム」・「原価計算システム」・「生産管理システム」・「パートナー工場連携システム」が実装されています。システムによる省力化と最適発注を実現しているため、価格だけでなく複数社を管理する工数も抑えることができるのです。また発注者・加工会社間では図面には記されない細かな仕様の話などをする必要がありますが、そうしたお取引の情報もすべて我々が言語化し、加工会社へお伝えします。

ただ、誤解していただきたくないのは、CADDiが“マッチングのみ”を行うサービスではない、ということ。製品に関しては検査・品質保証・納入までを行っているため、我々もまた製造業の当事者です。ファブレスメーカー(製品製造のための自社工場を持たないメーカー)と言ったほうがわかりやすいかもしれません。特にCADDiは調達市場のなかでも全体の約3分の1を占める多品種少量生産(大型輸送機器、産業機械、医療機器業界等)に注力しています。

――なぜキャディは多品種少量生産に注力しているのでしょうか。

幸松:かつての少品種大量生産にはスケールメリットがあるため、作業指示書を作ったりロボットに作業させたりといったコストのかけ方をしても大量の注文によって十分元が取れます。

一方、多品種少量生産ではそうしたスケールメリットを得られないうえ、1つひとつの注文にきめ細かに対応しなければいけません。また、部品の多様化やサプライチェーンの柔軟性の向上も求められるため、新規サプライヤ開拓の取引コスト(※1)が高くなってしまうのです。CADDiではそれら取引コストを限りなくゼロに近づけ、業界全体のフラット化を目指しています。

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※1 取引コストとは以下の3つのコストを指します。
探索コスト…最適な取引先を適切に探し出すコスト
交渉コスト…品質条件や価格を合意するコスト
監督コスト…条件通りに履行されるかを監視・監督するコスト

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2018年のサービスローンチ後、CADDiは急激なグロースを達成し、2021年の受注額は前年比6倍超に急拡大しています。特に2020年以降はコロナ禍でのサプライチェーン分断リスクの問題があったため注目が集まりました。サプライチェーン拡大のあり方を考え直したいお客様に向け、新たなアプローチを提案しています。

日本のモノづくり産業が持続的に発展していくために企業がすべきこと

——キャディはVision2030のなかで「グローバル1兆円の受発注プラットフォームへ」「データをレバレッジした製造業ソリューション・プロバイダーへ」という2つの具体ビジョンを示されています。今後の展望をお聞かせください。

幸松:現在のCADDi事業では“部品の受発注”のみにフォーカスしていますが、それは我々が目指す世界の入口に過ぎません。もちろんCADDiの加工カテゴリを増やしたりグローバル展開させたりなど目下の目標もありますが、同時に目指していきたいのはサプライチェーン・オペレーション全体のDXです。見積もりや大量の図面をシステム上で最適に管理し、生産や物流までの情報が一元化された世界を目指していきます。

直近ではこれまでの知見や研究開発をもとに、機械学習による画像解析を用いた図面管理・活用の新しいSaaSプロダクトを開発中です。そうしたソフトウェアサービスを続々と展開しながら各種データ分析ができるようになると、当社としてできることの幅が拡がります。図面のビッグデータから部品の需要予測ができれば新しい設備投資をご提案できるかもしれませんし、さらにはそれがファイナンスにつながるかもしれません。

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キャディ株式会社 製造支援本部 本部長 幸松 大喜氏
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(提供:キャディ株式会社)
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――最後に、日本のモノづくり産業が持続的に成長・発展していくために現場の工場ができることは何だと考えますか。

幸松:2つの観点で申し上げます。1つめは“得意領域に特化すること”ではないでしょうか。QCD(品質・コスト・デリバリー)の条件がいずれも厳しくなり、いろいろなものを作らなければいけないため得意が分散し、なかなか効率が上がらないのが製造業の現状だと感じています。しかし「この町工場の強みはこれだよね」ということがきちんと定義されれば、各町工場を差別化できるようになるでしょう。

もう1つは“テクノロジー”だと考えます。「製造業」とは言いながらも、現状は現場が本当にモノづくりだけに専念できている時間は限られています。その意味では今後の当社においても、テクノロジーを現場と結びつけながら効率化を図る施策を次々に打ち出していきたいです。オンライン書店から始まったAmazonがクラウドサービスAWSを立ち上げたように、我々も受発注プラットフォームを軸にしたソリューション拡大ができると考えています。

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サプライチェーンにおける部品調達に革新をもたらす気鋭のスタートアップ企業、キャディ株式会社。「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」をミッションとして掲げ、製造業のバリューチェーン全体に潜む構造的な課題に対峙している。そんなキャディ株式会社の製造支援本部 本部長の幸松 大喜(こうまつ・だいき)氏にキャディがサービスを通して実現したい世界と、現在の業界構造をどう変革していくのかを伺った。
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部品調達を革新する「CADDi(キャディ)」 ――現場が得意なモノづくりに集中できる世界を実現する
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部品調達を革新する「CADDi(キャディ)」 ――現場が得意なモノづくりに集中できる世界を実現する
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文・安田博勇