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化学系専門商社であり、自社グループに製造・研究開発拠点を保有する長瀬産業。1832年京都で創業し、現在は国内外に100社超のグループ企業を擁する。そんな長瀬産業、およびNAGASEグループがめざす“サステナブルなサプライチェーン”に向けた取り組みについて、サステナビリティ推進本部 サステナビリティ推進室・室統括 相澤康之氏にお話を伺った。

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「商社業」と「製造業」の両輪で事業展開している長瀬産業

——NAGASEグループ独自の強みはどこにあるのでしょう?

相澤:長瀬産業は1832年に創業した化学系専門商社です。2032年に創業200周年を迎えます。創業してしばらくは主に天然染料を取り扱ってきましたが、1901年、フランスのリヨンに出張所を開設した頃から化学品を取り扱うようになり、以降NAGASEグループのグローバル展開を牽引しました。1970年代からは商社としての機能は保持しつつも、より上流の「研究開発」機能、下流の「製造・加工」機能を強化。商社業と製造業の両輪で事業展開していることが強みです。

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	長瀬産業株式会社 サステナビリティ推進本部 サステナビリティ推進室・室統括 相澤康之氏
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長瀬産業株式会社 サステナビリティ推進本部 サステナビリティ推進室・室統括 相澤康之氏
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——御社がサステナビリティ推進を始めたきっかけは?

相澤:2018年4月、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が「不退転の決意でESG投資に取り組む」と宣言したことがきっかけです。当社においても2019年を「ESG元年」と定め、ESGやサステナビリティに関する本格的なスタディを始めました。正直、“株式市場の圧力”が発端でしたが、検討を進めるなかで「これからは社会・環境価値のある企業だけが成長する」という枠組みやマインドセットが大きな潮流として形成されつつある事を経営陣が実感し、いまではサステナビリティ推進を最重要の経営課題と考えるようになりました。

また、当社は「製造業」と「商社業」という2つの機能をもつため、それぞれの領域でサステナビリティに関わる重要課題も異なります。そのため、グループ一丸でサステナビリティを推進していく指針が必要となり、2020年6月に当社社長が委員長を務めるサステナビリティ推進委員会が設立され、「サステナビリティ基本方針」を策定しました。2021年4月には、サステナビリティ推進室を設立、2022年1月に「NAGASE グループカーボンニュートラル宣言」を発表しました。

――「NAGASE グループカーボンニュートラル宣言」では、どのような目標を定めているのでしょうか。

相澤:宣言のなかで定めた目標は「2050年までにGHG排出量を実質ゼロとするカーボンニュートラルの達成(Scope1・2)」「2030年までにScope1・2を46%削減(2013年比)、Scope3を12.3%以上削減(2020年比)」というものです。「Scope3は今後、サプライチェーンを形成するパートナーとの対話を実施、目標値の更新も検討」ともしています。

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Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)

Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出

Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出 (事業者の活動に関連する他社の排出)

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「NAGASE グループカーボンニュートラル宣言」におけるGHG排出量の削減目標値(Scope1・2)
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相澤:商社としてScope3の具体的な目標値を定めているのは、あまり前例がないと思います。エネルギーを大量に消費し、サプライチェーンが多層化している化学品産業はもともと環境負荷への意識が高い業界です。当社はこの業界に200年近く携わってきた商社としてサプライチェーンに対する責任をしっかりと果たしたいという気持ちから、Scope3の具体的な目標の提示に行き着きました。

——自社を含めた「サプライチェーン全体」の情報を集めて開示するためには、さまざまな障壁があるのではないでしょうか。

相澤:はい。GHG排出量を算定する際の国際的基準であるGHGプロトコルは、「Scope3」を事業者が関与するサプライチェーンの上流と下流の排出量の合計と定めています。

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サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量

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相澤:そして、Scope3の具体的な排出量算定には「①排出原単位から推計する方法(活動量×排出原単位)」と「②関係取引先から排出量の提供を受ける方法(一次データを利用する方法)」の2つがあります。現状、ほとんどの企業が①で算定しています。ただ、この算定方法では、排出量が企業の活動量に比例していくため「売上が上がると排出量も増える」という構造になっています。そのため「②の方法へ切り換えていこう」とする動きがこれから始まると考えています。

各企業・業界の一次データが流通するようになれば、環境価値がよりダイレクトに企業価値に反映される社会がやってくると思います。金融機関ならば「一次データを提供してくれる投融資先であれば優遇金利の枠組みを提示できる」、自治体ならば「一次データを提供してくれる企業を補助金の対象に優先される」——このような動きは徐々に、そして、確実に進んでいます。

目標達成に向けたNAGASEグループの取り組み

——「NAGASE グループカーボンニュートラル宣言」の目標を達成するための具体的な施策について教えてください。

相澤:前提として、当社の施策には全体施策と「可視化・削減」の2軸・「商社業主導・製造業主導」の2軸——2×2による4つの方向性があります。

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カーボンニュートラルの実現に向けた、NAGASEグループが行う施策の4つの方向性(提供:長瀬産業)
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——Scope3の目標を達成するための取り組みについて詳しく教えてください。

相澤:2021年9月より、企業の脱炭素経営の支援のためにGHG 排出量算定・可視化クラウドサービス「zeroboard」の販売・事業展開を行っています。「zeroboard」は、Scope1・2だけではなく、煩雑なデータ収集が必要だったScope3も算出・可視化できるサービスです。もちろん、「zeroboard」を導入すればそれで問題が即時解決、というわけにはいきませんし、使いこなして成果につなげるためには専門知識やサプライチェーンにおける信用も必要です。そこで当社が各企業におけるGHG算出のお手伝いをしていきます。

——一方、自社のサプライチェーンに関するScope1・2の目標を達成するために取り組んでいることを教えてください。

相澤:化学品特化型の共同輸送マッチングサービスを2023年にローンチすることを目指し、2022年5月から実証実験を開始しました。

この取り組みの背景にあるのが、物流業界における「2024年問題」および「化学物質規制の強化」というトレンドです。2024年から働き方改革法によるドライバーの人手不足が加速するとともに、運送業法改正により危険品物流の規制が厳格化されていきます。その影響により、化学品業界が物流危機に瀕する可能性があるのです。そこで当社が物流容器を取り扱う「日本パレットレンタル株式会社」から共同輸送マッチングサービス「TranOpt」のライセンス提供を受け、塗料・インキ等の化学品に特化した共同輸送マッチングサービス構築に向けた検証を進めています。

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共同輸送マッチングサービス「TranOpt」のサービス概要
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——他にはどのような取り組みがありますか。

相澤:経済産業省の「GXリーグ基本構想」に共鳴し、GXリーグに参加しています。GXリーグとは、カーボンニュートラルに積極的に取り組む企業群がGX(=グリーントランスフォーメーション)実現のため議論・実践を行うコンソーシアムです。

その中で当社は「グリーン調達・費用負担等の考え方」「CFPの見える化・標準化・炭素情報の流通のあり方」「CO2ゼロ価値/低・脱炭素部素材の認定・表示」などを論点とする低・脱炭素部素材ワーキンググループへ参画、サプライチェーン上流(素材)の技術革新をCO2削減効果につなげるルールづくりの議論に参加しています。

NAGASEグループ主導でサプライチェーンをまとめ上げ、業界全体をつなげていく

——今後の目標をお聞かせください。

相澤:我々の業界にとって目下の課題はやはり「気候変動への対応」です。とりわけTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みによる対話、そして「Scope3」開示に対応しなければいけません。気候変動や脱炭素に向けた取り組みや情報開示は、ますます株式市場の競争要因となるでしょう。

当社は化学系専門商社として培ってきた業界の知見・ネットワークなどを活かし、化学品業界をつなげていきます。この業界のサプライチェーンは、上流の基礎化学が下流の最終製品に行き着くまで複雑な経路をたどり、化学品から生産された副産物も枝葉のように分かれていくところが特徴です。それだけ複雑だからこそ“つなげる”ことで価値が生まれます。まずはNAGASEグループの関わる化学品業界全体をつなげ、サプライチェーン全体の排出量可視化を達成することが大きな目標です。

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長瀬産業株式会社 サステナビリティ推進本部 サステナビリティ推進室・室統括 相澤康之氏
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——最後に、創業200年を見据えた長瀬産業のビジョンについて教えてください。

相澤:我々の商品は、商取引上では“素材”なのですが、そのなかに宿る技術、情報、そして安心感や信頼こそがお客様に提供している価値だと思っています。それは200年前の創業から今に至るまで変わりはありません。近年は世界的な潮流により、そこにカーボンニュートラルという重大テーマが加わりました。カーボンニュートラルは不特定大多数で構成される社会全体のニーズです。社会から「商社・長瀬産業およびNAGASEグループが入っているサプライチェーンは安心だ」と思っていただける世界を創ることが、経営理念の冒頭にある「社会の構成員たる自覚」だと認識して、これからも気候変動対応に全力で邁進して参ります。

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化学系専門商社であり、自社グループに製造・研究開発拠点を保有する長瀬産業。1832年京都で創業し、現在は国内外に100社超のグループ企業を擁する。そんな長瀬産業、およびNAGASEグループがめざす“サステナブルなサプライチェーン”に向けた取り組みについて、サステナビリティ推進本部 サステナビリティ推進室・室統括 相澤康之氏にお話を伺った。
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これからは社会・環境価値を提供できる企業だけが成長する――化学系専門商社「長瀬産業」が描くサステナブルなサプライチェーン
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これからは社会・環境価値を提供できる企業だけが成長する――化学系専門商社「長瀬産業」が描くサステナブルなサプライチェーン
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取材・文:安田博勇、写真: 渡邊大智