人手不足、インフラ老朽化、高度化するなりすまし犯罪、人口集中による都市機能の麻痺など、さまざまな社会課題が顕在化しつつある現在。パナソニック コネクトはそれらの社会課題に対するソリューションとして、AIセンシングや顔認証技術を用いた事業を展開している。エバンジェリストとして同事業・取り組みをリードする古田に、テクノロジーの社会実装をとりまく現状や、新規事業創出の現場における共創の取り組みについて聞いた。
※ConnectAIは、パナソニック コネクトが社内で活用している生成AIサービスです。
1. 時代の要請に応えるセンシング技術の進化
AIの進化により顔認証技術の精度が飛躍的に向上し、空港やオフィスなどで実用化が進んでいる。現在は人手不足、インフラ老朽化、なりすまし犯罪防止、都市機能の麻痺といった社会課題に対応するソリューションとして注目される。フィジカル空間の事象をセンシングして定量化し、より便利で安全な社会の実現を目指す。
2. 実社会での具体的な活用事例
鉄道業界では東急電鉄との実証実験で、AI画像解析により駅員の手合図を検知して安全性を向上。セキュリティ分野では「SmartOn ID」などにパスワードの代わりとなる顔認証を提供。大阪・関西万博では関係者用入退場ゲートに顔認証システムを導入予定で、ピーク時1時間5000人以上の通過をスムーズに実現する。
3. 共創による社会課題解決の重要性
パナソニック コネクトの強みは技術力だけでなく「すり合わせ力」にあり、現場の課題を吸い上げて改善する姿勢を重視している。年間約50件のワークショップを実施し、フォーキャストとバックキャストの両視点から「叶えたい未来」と「現状」のギャップを埋める「スパイラルアップ活動」を展開。社会課題の解決には組織の垣根を越えた共創が不可欠だと強調している。
古田 邦夫
パナソニック コネクト株式会社
現場ソリューションカンパニー 公式エバンジェリスト
子どもの頃からプログラミングに興味を持ち、高校生で松下幸之助の著書に出会ったことをきっかけに1992年、松下電器産業に入社。ソフト技術者としてVR・音楽配信・VODシステムを開発、その後技術企画、商品企画、経営企画を経て、新規事業のビジネスデザイン組織を立ち上げる。2021年からは公式エバンジェリストとして、パナソニック コネクトのAIを用いたセンシングや顔認証の技術の特徴、社会実装の事例を広める活動にも注力している。
時代の要請に応えて進化を続けてきたセンシング技術と顔認証
まず古田さんの専門分野である「センシング」や「顔認証」についてのお話を聞かせてください。これらの技術をニュースなどで聞く機会も増えていますが、実際のところどこまで社会実装が進んでいるのでしょうか。
古田:そもそもセンシング・顔認証の技術は、時代の要請に合わせて提供価値を変えながら進化してきたんです。たとえば、交通分野ではもともと交通事故の防止・即時発見のためにCCTVカメラを設置したのですが、日本の経済発展とともに大都市圏の交通渋滞が大きな社会問題になりました。そこでパナソニックは、ETCに着目して技術開発に取り組み、料金所ETCシステムなどを通じて高速道路の渋滞緩和に貢献してきたのです。
顔認証技術が本格的に市場で使われるようになってきたのは、ここ数年のことです。AI(ディープ・ラーニング)の進化により認証精度が飛躍的に向上し、2017年頃から空港、テーマパーク、オフィスなど、さまざまな現場で使われるようになりました。

ニーズ自体が変化し続けているんですね。現在はどのようなニーズがあるのでしょうか。
古田:目下、お客さまから受ける相談で多いのは、①人手不足、②インフラ老朽化、③セキュリティ対策(なりすまし犯罪防止)、④人口集中による都市機能の麻痺の4つです。
④について少しご説明しましょう。昨今、「オーバーツーリズム」という言葉を耳にする機会が増えたと思いますが、インバウンドの急増も都市機能麻痺の大きな要因になっています。
2024年の訪日外国人数は3687万人でしたが、国はこれを2030年までに6000万人に引き上げることを目標にしています。すでに京都や富士山などの人気の観光地では、交通機能麻痺がニュースになっていますよね。
それなのに今以上の外国人観光客が訪れるとなると、さらに日本各地で交通機能麻痺が引き起こされ、住民の安心・安全な生活が脅かされかねません。しかし、今や観光産業は自動車産業に次ぐ外貨獲得手段ですから、人流をうまくコントロールすることさえできれば、日本全体を活性化させることにつながると思います。その具体的な方法を、皆さんとの共創活動を通じてつくり上げていきたいと考えています。
センシング技術とデータ活用によって、ピンチがチャンスに変わる可能性があるんですね。
古田:そもそも、なぜ私たちがセンシング技術の研究・開発に力を入れているのかというと、フィジカル空間(現実世界)のさまざまな事象をセンシングして定量化し、サイバー空間で再現することによって予測を可能にし、より便利で安全な世界をつくろうとしているからです。
たとえば、天気予報って昔は外れることも多かったのですが、今は雨雲の動きや気圧の変化などをより正確にとらえ、5分後に雨が降る場所をピンポイントで予測できるまでになりました。天気予報の発達によって、風水害の被害も最小限に留められていますよね。同じようにデータを活用して社会全体に利益をもたらすために、パナソニック コネクトはセンシングや顔認証の研究・開発に取り組んでいるのです。
高度な技術を生かすための現場との“すり合わせ力”が最大の強み
世の中の役に立ってこその技術、ということですね。具体的にセンシングや顔認証技術は社会の中でどのように役に立っているのでしょうか。最新の事例を教えてください。
古田:3つご紹介します。まず1つ目は鉄道機関との実証実験です。2024年2月から3月にかけて東急電鉄様と一緒に、運転業務の高度化に取り組む実証実験を行いました。ホームで介助が必要なお客さまのご案内を行う際、運転士に合図を送る駅係員を、AI画像解析技術により検出するものです。運転士は車内モニタで「手合図検知」の文字表示を確認し、マイク放送で認識した旨を駅員に伝達して相互確認を行うことで、さらなる安全性の向上をめざすという内容でした。

2つ目の事例はセキュリティ分野です。今はネット上のサービスを始め、実生活のさまざまなシーンでパスワードの入力が求められます。しかし、パスワードを忘れてしまうとサービスが利用できなくなるだけでなく、万が一漏洩すれば「なりすまし被害」に遭う恐れも出てきます。そこで、パスワード入力の代わりに顔認証を用いて本人確認をするというサービスを提供しています。一例を挙げると、ソリトンシステムズ様が提供する、21年連続国内シェアNo.1※の「SmartOn ID」や、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度であるISMAPにおいて、国産IDaaSで唯一政府が求めるセキュリティ要求を満たすサービスに認定されている「Soliton OneGate」に私たちの顔認証が搭載されています。顔認証による本人確認は、パスワード方式よりも利便性・安全性に優れるため、今後、自治体や医療機関、教育機関などでもますます広がっていくと予想されます。
株式会社富士キメラ総研調べ
最後は少し未来的な事例です。今年開催される大阪・関西万博において、関係者用の入退場ゲート30台に、パナソニック コネクトの顔認証が用いられる予定です。期間中、運営を担う協会職員や各国・地域/各企業のパビリオン参加者、ボランティアスタッフなど、約10万人の関係者が入退場するとされていて、ピーク時には1時間に5000人以上がゲートを通過することが想定されます。関係者の方々が滞留せずスムーズにゲートを通過できることに加え、セキュリティ対策として厳格な本人確認が求められるのですが、それを可能にするのが顔認証とQR認証を併用したシステムです。万博で多くの方にぜひ体感いただいて、今後、日本のみならず世界中にこの最新型の入場システムが広まっていってほしいと思います。

身近なところでどんどん導入が進んでいるんですね。あらためて、パナソニック コネクトの強みはどこにあるのでしょうか?
古田:認証精度の高さはもちろんですが、最大の強みは、お客さまとの共創を可能にする「すり合わせ力」だと思います。実は顔認証システムの導入現場では、「カメラの方にまったく顔を向けてくれない」とか、「季節や時間帯によって顔が暗くなってしまう」といった問題が絶えず起きています。
ですから、納入後のチューニングがとても大事なんですね。パナソニック コネクトでは、営業、技術担当者、デザイナーなどがひとつのチームになって現場の課題を吸い上げ、すぐに改善することを繰り返しています。単なる技術力だけでなく、現場に寄り添い、お客さまに伴走して課題を解決するという姿勢こそが、パナソニック コネクトの顔認証の一番の強みだと私は思います。
社会課題の解決は共創なしには成し得ない
古田さんは、エバンジェリストとして他社との共創活動に特に注力されていると伺いました。共創事業は、どのような方針で行っているのでしょうか。
古田:さまざまな業界のお客さまから相談を受け、年間50件ほど、DXや業務効率化のためのワークショップなどをお客さまのもとで行っています。
何か新しいことを始めたい、現状を変えたいといったとき、内輪だけで議論してもなかなか答えが出ないものです。私はフォーキャストの視点とバックキャストの視点、両方を持つことがとても大事だと思っています。それができれば、「叶えたい未来」と「現状」とのギャップが浮き彫りになります。

多くの場合、そのギャップは高い壁として立ちはだかりますが、それを越えるための階段をつくるのが私たちの役目だと思っています。われわれが長年製造業として培ってきた技術や知見を提供して、お客さまの「やりたいこと」の実現を手助けする。そしてその共創事業の成果によって、社会がよりよいものになっていく。こうした一連の共創活動を私は「スパイラルアップ活動」と呼んでいます。

古田さんはプライベートでも共創に取り組んでいるそうですね。どのような取り組みなのでしょうか?
古田:千葉県柏市の「柏の葉地区」におけるスマートシティツアーの企画・運営を行っています。柏の葉は、三井不動産様が主導して10年以上前から公民学連携でスマートシティ化を進めている先進地域です。そして実は、今私が暮らしている街でもあります。これまでスマートシティ関連の仕事もたくさんしてきたのですが、自分がまったく関わっていないスマートシティで暮らせば何か新しい発見があるのではないかと思って、2019年に移り住みました。これまでさまざまな現場でAIの導入を進めてきましたが、いざ暮らしてみると「AIばかりに囲まれた生活はちょっと嫌だな」と感じる自分がいて、新鮮でした(笑)。この経験は今後の技術開発や提案にも生きてくると思います。

古田:少し話が逸れましたが、柏の葉地区には、スマートシティに興味がある人が全国からたくさん訪れます。しかし、まちの魅力を伝えて切れていないという課題がありました。そこで私が案内役を務めて来訪者と一緒に街を巡り、先端施設や最新設備の技術的な背景や住民との関わりなどについて解説するというツアーを行っています。
2024年8月には、東日本大震災の被災地である福島県新地町の中高生16人と一緒に、エネルギー施設のほか、街頭に設置された自動運転バスや、電気自動車への走行中の無線給電システムやAIカメラを見て回りました。多くの質問をいただいて、とても有意義な時間を過ごせました。
あらゆる立場の人が、時代に合わせた提供価値について議論することで、よりよい未来をつくるためのアイデアが生まれるという点は、エバンジェリスト活動にも共通するポイントですね。最後に、古田さんは今後どのような領域で共創活動をしたいと考えていますか?
古田:やはり、社会を変えたい、世界をよりよいものにしたいと本気で考えている企業や自治体と一緒に日本の新しいインフラをつくっていきたいと思います。強いパッションを持って世の中を変えていくのはなかなかエネルギーを使いますが、ぜひ皆さん、一緒に日本のこれからをつくっていきましょう。

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