どのサブからも同じリソースが扱える環境を目指し
2025年5月、信越放送株式会社(以下、SBC)様がサブシステムと回線ルーターシステムのリプレイスを完了しました。従来はSサブとNサブと回線設備のそれぞれにSDIの映像ルーターを配備していたSBC様では、各サブ間での素材共有に多くの手間がかかっていたといいます。特に選挙や特番の際は、IP中継装置や増設したCG作画機などの信号を分配するために、準備や撤収に数日を要することもありました。こうした状況を改善すべくルーターの統合を検討する中で、近年飛躍的に進化したSMPTE ST 2110 ベースのシステムに着目。サブ・回線ルーターのIP化によるリソースの共有を目指す方針を固めました。
リソースシェアに適したAV-HS8300やKAIROSの性能を評価
技術局 技術部の中村様と北沢様は、「これまでもパナソニック製のSDIスイッチャーを使用してきましたが、今回導入したAV-HS8300は従来機の使いやすさを継承しながらIP化され、リソースシェアにも適しており、まさに求めていたことが叶うスイッチャーでした。また、今回はKAIROSの高い性能も大きなポイントでした。通常、カラコレを行う際は一度SDI信号に戻す必要がありますが、KAIROSならカラコレはもちろん、マルチビューもEMGも全てIP信号のまま処理することができます。さらに今回、全てのIP信号をSpineスイッチに集約したいとお願いしたところ、真摯に向き合い、トータルでサポートいただけたことなど対応の手厚さも決め手となりました」と語ります。
Sサブのスイッチャー卓。中央にIPスイッチャーAV-HS8300の操作パネルを設置。モニターは KAIROSのマルチビュー機能を使用しており、回線設備やNサブの映像も直接アサインすることが可能。
AV-HS8300操作パネルの左隣にはKAIROSのコントロールパネルを設置。AV-HS8300の入力ソースの1つにKAIROSのプログラムアウトを入れており、KAIROSで作成した素材をAV-HS8300で扱うことが可能。
SDI⇔IP間での変換回数を減らして遅延を最小化
今回のIP化にあたり、SDIとIP間での変換の回数をできるだけ減らすことが重要だったと中村様は語ります。
「IPスイッチャーAV-HS8300の最大のポイントは、やはり従来型スイッチャーの操作感を踏襲しながらST 2110によるフルIPに対応している点です。入出力がIPに対応したことでスイッチャーの遅延以外の、SDI⇔IP変換による余計な遅延を回避することができました」
「また、今回あわせて導入したIT/IPプラットフォームKAIROSはEMG-DSKやマルチビューワー、カラーコレクション用途で活用しており、外部機器を追加することなく様々な機能をIP信号のまま扱え、非常に助かっています。特にKAIROS内部のカラーコレクション機能がとても便利で、SDIに変換せずに色調整が可能なため、遅延の削減に貢献しています。さらに、カラコレに関してはVE卓に物理パネルも用意していただきました。中継の映像や情報カメラ映像などをワンボタンで簡単に色調整することができ、今ではなくてはならない存在となっています」
特番の準備・撤収時間を大幅に削減
Sサブでは平日午後に連日放送されているワイド番組「ずくだせテレビ」の生放送をはじめ、特番やスポーツ番組の受けサブとしても活用されるなど様々な番組制作が行われています。稼働率の高いサブであるがゆえに、特番前後の準備には大きな労力がかかっていたと中村様は語ります。
「以前は特番の度に臨時の回線を立て、日々の生放送の合間を縫って数日かけて準備を進めていました。実際に接続してみて問題点があればもちろんその分の時間が取られ、通常番組用に戻す作業もまた大変でした。今回のIP化により、こうした準備や撤収が飛躍的に短縮され、大きな業務効率化につながりました。特にブロードキャストコントローラーであるPSM(Panasonic System Manager)は非常に使いやすく、特番用のマルチビューやクロスポイントをあらかじめ仕込んでおけば、タッチパネルで呼び出すだけでシステム全体の設定が変わります。戻す際も通常番組用のファイルを読み込むだけなので技術部門のスタッフでなくても簡単に操作でき、IPの利便性を強く実感しています」
リソースシェアでSサブとNサブの効率的な運用を実現
ライブスイッチャーAV-HS8300をSサブとNサブで共用化することで、どちらのサブからでも共通の映像素材が使用できるようになりました。中村様は語ります。
「リソースシェア機能に優れたAV-HS8300の導入により、リプレイスで最も重視していた“どちらのサブからも垣根なく素材が使用できる”環境が実現できました。今回は全部で120系統の入力を共有。MEやDSK、STILLなども共有することは可能ですが、2分割で運用することにしました。MEは3MEずつ、DSK/USKやSTILL/CLIPは4chずつ割り当てています。ME数自体は更新前より減少しましたが、AV-HS8300にはテクスチャー機能が搭載されており、1キーヤーで額縁ワイプがつくれるため十分に理想の演出が可能です。スイッチャーを共用化すると、一方のサブを運用中にもう一方のサブへ影響がおよぶ可能性が懸念されますが、OA中はもう一方のサブの一部機能をロックするなど細部まで綿密に設計していただいたおかげで、共用していることを意識することなくオペレーションができています」
OTCのリプレイスにより、スムーズな送出を実現
主に月曜から金曜まで毎日放送している「SBCニュースワイド」を運行しているNサブでは、従来からOTC運用を基本としています。リプレイス後の変化について中村様は語ります。
「従来は本線系の送出サーバーが2系統と、再撮系が1系統でしたが、例えばコーナーが変わる際などに再撮のVTR映像を変えることができなかったため、再撮系の送出サーバーを2系統に増やしました。従来と同じ操作感で運用しながら、これまで制約の中で実施していたことが自由に行えるようになった点は嬉しいポイントでした」
OTCの素材ポン出し機能で、災害時の速報性を確保
「また、新しいOTCは素材ポン出し機能が搭載されており、万が一の災害時対応を円滑に行うことができます。これは、緊急地震速報が出た際にLoopRECシステムに接点が入力され、地震が起きた時間の情報カメラ映像が自動的に送出サーバーに登録される機能です。これにより、OTC操作画面を開くと県内各所の情報カメラ映像が表示され、ワンタッチで送出することが可能です。もちろん、地点テロップも自動でスーパーされます。 これまでは、該当時間の映像を頭出し、再生、地点テロップを選択、送出、といった4段階のオペレーションが必要でしたが、それら全ての作業をワンタッチで実行できるようになりました。報道記者1名でも安心して即時対応が可能になり、情報の速報性を向上させることができました」
様々なことに挑戦できるサブになりました
今回のIP化により、従来の様々な制限が取り払われ、やりたいことが自由に、かつ円滑に行えるサブを構築することができました。今後インターネット回線や圧縮方式の進化が進めばリモートプロダクションにも挑戦できる環境が整ったと思います。また、今回はKAIROSを導入しましたので、地上波だけでなく配信という新しい形にも挑戦してみたいですね。前回のサブを知り尽くしているパナソニックさんならそれを超えるサブをつくってくれるだろうと期待していた通り、とても使いやすいサブになりましたので今後の運用が楽しみです。
技術局 技術部<br>
中村 龍太郎様<br>
※所属は納入時のものです。
導入からアフターケアまで手厚いサポートに感謝しています
前回の更新から約20年、パナソニックさんには長年にわたりアフターケアをしていただきました。製品の良さはもちろん、今どき珍しいくらいの手厚いサポートをしていただいたことは、引き続きパナソニックさんにお願いしようと決めた最大の理由でした。今回はLeafスイッチを削減しSpineスイッチのみで構築したいという無茶なお願いをしましたが、決して無理と言わず実現の方法を追求してくれたことに感謝しています。SBCの運用を熟知している前回の更新担当の方がサポートに入ってくれたこともありがたかったですね。おかげで、従来の良かったところは踏襲しながら、さらに使いやすい新機能を備えることができました。
技術局 技術部<br>
北沢 雅志様<br>
※所属は納入時のものです。
IPスイッチャー
- ライブスイッチャー AV-HS8300 Sサブ/Nサブ共用 1式
- スイッチャー操作パネル Sサブ 1式、Nサブ 1式
IT/IPプラットフォームKAIROS
- メインフレーム Kairos Core 200 AT-KC200T Sサブ 1式、Nサブ 1式
- GUIソフトウェア Kairos Creator AT-SFC10G Sサブ 1式、Nサブ 1式
- コントロールパネル Kairos Control AT-KC10C2G Sサブ 1式
- IP/SDIゲートウェイユニット AV-PF80GW1
- ネットワークスイッチ(メディアスイッチ)
- PSS(Panasonic System Surveillance)
- PSM(Panasonic System Manager)
- 映像分配器 AV-PF30M1、AV-PF30M2
- OTCシステム一式 AV-SA3000他
- 音声システム一式
信州に生きる 信州を伝える放送局
1951年に創立した信越放送株式会社(SBC)様は、JNN系列局(ラジオはJRNとNRNのクロスネット)として長野県を対象に展開する特定地上基幹放送事業者です。平日午後の生ワイド番組「ずくだせテレビ」や平日夕方の「SBCニュースワイド」をはじめ、連日数々の番組を発信し、県民の皆さまに愛され続けています。
所在地:長野市問御所町1200
URL:https://sbc21.co.jp/
信越放送株式会社 (SBC) 様本社
複雑なシステムを組むことなく、制作サブ(Sサブ)とニュースサブ(Nサブ)のリソースを共有化したい。
SMPTE ST 2110で2つのサブシステムと回線ルーターをIP化。シンプルなシステムでコストを抑えながらリソースシェアを実現。
IP化により、従来の様々な制限が取り払われ、やりたいことが自由に、かつ円滑に行えるサブになりました。