さばの照り焼きや豚の角煮、おでんやハンバーグなど、家庭で作ったような優しい味わいのお惣菜が、オフィスでいつでも、1品100円で食べられる。そんなプチ社食サービス「オフィスおかん」を手がけているのが「株式会社OKAN」だ。2014年のスタートから、導入企業数が毎年2〜3倍のペースで増加するなど好評を得ているというが、その理由とは。多くの企業が直面している人材確保の課題を解消しうるサービスの魅力や、独自の物流の仕組みについて、同社サービスデザイングループ ロジスティクスの中川光氏に答えてもらった。
食の大切さへの“気づき”から始められた「オフィスおかん」
——オフィスおかんのサービスについて教えてください。
中川:企業で働く人に、1品100円で惣菜やご飯、スープなどを提供するプチ社食サービスです。社内に専用の冷蔵庫を置いてもらい、そこに真空パックをほどこした惣菜を常備するよう、弊社のスタッフが定期的に補充しに伺います。ちょうど常備薬のような要領です。
利用方法は、冷蔵庫から好きな惣菜を取り出してレンジで温めるだけ。ランチや残業時など、いつでも手軽にお召し上がりいただけます。
——なぜそのようなサービスを始めたのですか。
中川:代表取締役の沢木恵太の経験がきっかけになっています。沢木は、新卒で入社した会社の仕事が激務で、まともに食事を採る時間がなく、お菓子を食べてばかりいるうちに体を壊したそうです。その時、食生活の大切さを痛感したと話していました。どんなにモチベーションがあっても、労働環境が悪ければ仕事は続けられない。やりがいを感じている仕事でも、パフォーマンスを保ち続けるためには、健康的な食生活こそが重要だと気づいたそうです。
そこで、自身と同じように忙しく働く方のオフィスでの食生活をサポートする仕組みとして、オフィスおかんを考え出しました。
労働力不足を背景に、福利厚生として導入する企業が急増
——オフィスおかんを導入する企業は年々増えているようですが、サービス料を惜しまない企業が多いのはなぜなのでしょう。
中川:弊社のサービスが福利厚生になると捉えているからではないでしょうか。導入企業は増え続けていて1500社に達したのですが、そのようにたくさんの企業様にご利用いただいている背景としては、労働力不足の深刻化が考えられます。さまざまな業界で労働力不足が起こり、人材確保が課題になっています。そのため、なんとか離職率を下げようと、福利厚生の充実を図る企業が多いようなのです。
そこで弊社のサービスが選ばれているのは、社員食堂を作るよりもはるかに低コストで従業員に食事を提供し、福利厚生を充実させられるからでしょう。おそらく、導入に踏み出しやすいのだと思います。実際に、福利厚生の充実により離職率をくい止めたいというご相談は多く、導入企業を見ても、ITや医療福祉関係、サービス業など、離職率の高い業種が占める割合は大きいです。
サブスクリプションモデルにより、健康に良い食事とフードロス削減が両立
——福利厚生という意味では、従業員に安心して食べさせられる健康的なメニューが求められるかと思いますが、どのような製造方法を採っているのでしょうか。
栄養バランスの整った惣菜を提供するため、惣菜その開発には管理栄養士が携っています。厳選した国産の材料を使用し、だしのうま味をしっかり効かせるよう調理。食品加工では、長期保存を可能にしつつ、素材のそのものの風味や食感を生かす「低温長時間殺菌方法」を採用し、添加物は保存料や合成着色料不使用です。
——それだけ手間暇かけられた惣菜が1品100円とはお安く感じます。どのようにしてその価格を実現させているのですか。
中川:1品100円の商品代とは別に、導入企業様から月額のサービス料をいただいているのです。このビジネスモデルはサブスクリプションと呼ばれ、携帯電話と同じような料金システムです。基本プランはS・M・Lの3つで、Sだと月額54,600円。商品を提供する月間の上限数により、プランをお選びいただきます。安定してサービス料が入るため、そのぶん健康的なメニューの開発や、調理方法にこだわることができています。
サブスクリプションモデルの採用にはほかにも長所があり、フードロス削減に非常に効果的です。月額制の契約を結ぶビジネスモデルなので、契約企業数と、各々に提供する商品の上限数が固定され、需要予測が立てやすいのです。予測に沿って計画的に製造しているため、ロスが生じにくく、廃棄率は全体の5%ほどに抑えられています。
「オフィスおかん」の躍進を支える配送員の活躍
——従業員はいつでも手軽に、健康的な食事を採れ、企業は低コストで福利厚生を充実させられる。両者にとってメリットがある、これまでにはない新たなサービスですが、製品補充の仕組みなどは1から構築されたのでしょうか?
中川:こうしたプチ社食サービスは、オフィスおかんが日本で初めてでした。そのため、何を真似るでもなく、手探りで独自に仕組みを構築してきたのですが、そのうえで欠かせなかったと強く感じるのが、パートナー企業の協力でした。
代表的なパートナー企業が、物流業務を委託している「マンハッタンサービス」です。初期からご協力いただき、ともに物流網を築き上げてきたパートナーです。そして、ここまでオフィスおかんが成長できたのは、配送員の活躍のおかげだと思っています。配送はトレーニングを積んだ専属メンバーのみに担当してもらっています。彼らがすごいのは、 “働く人のライフスタイルを食事で豊かにする”というオフィスおかんの目標を理解し、共感し、各々がサービスを広めようと懸命に行動してくれているところです。
例えば、お惣菜を納品する際、配送員はお客さまとコミュニケーションを取り、ご要望をいただけば弊社にスムーズに取り次ぎ、質問にもその場でしっかりお答えしています。ただ商品を運ぶだけではなく、私達と導入企業をつなぐコンシェルジュのような役割を担ってもらえているのです。
そうした配送員の活躍に後押しされ、月に1度、必ず配送員全員を集めてミーティングを開くようになりました。ミーティングでは、現場で起こっている問題の把握や改善提案など、業務の振り返りももちろん行いますが、それ以上に、オフィスおかんを知ってもらうことに重点を置いています。
つまり、サービス理念や弊社の存続意義を共有したり、弊社の取り組みがメディアで報じられるなどして社会に認められれば、それを伝えたりしているのです。そうするうちに、オフィスおかんを担う一員として配送業務を行うことに、一層の意義ややり甲斐を感じてもらえるようになればいいと思っています。
働く人のライフスタイルを豊かにする総合的なサービスの実現を目指して
——2014年のサービス開始から5年が経ちますが、今後はどのようにサービスを拡充されていく予定ですか。
中川:まずは、配送エリアを広げたいと考えています。現在の対応エリアは1都3県で、それ以外の地域には宅急便でお届けしています。宅急便でお送りした場合には、商品の入れ替えなどの作業を企業様側で行っていただかなくてはならず、ご不便をおかけしているので、その状況を変えたいです。
さらに、食の福利厚生に留まらず、もっと広く、企業の組織課題を改善するサービスを提供していきたいと思っています。というのも、弊社は社食サービスの企業だと思われがちですが、実は違うのです。社食サービスは、“働く人のライフスタイルを豊かにする”という私たちのミッションを達成する手段の1つにすぎないと捉えています。
企業が抱える課題を調査、分析し、可視化する「ハイジ」というソリューションは既に構築できています。これは、従業員にアンケートを実施して分析することで、従業員の不満や離職原因などを見える化するサービスです。今後は、ハイジにより可視化した課題を解決する施策を立て、実行する手助けまでを総合的に手がけていくつもりです。