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誰しも年齢を重ねるにつれ、急な疾患や怪我といった身体的なリスクに直面する可能性は高まる。高齢化と人口減少が進む日本で、長きにわたって従業員から選ばれ、活躍してもらうために働きやすい環境の整備が急務だ。セガサミーホールディングス株式会社の執行役員であり、特例子会社「セガサミービジネスサポート株式会社」の代表取締役を兼務する一木 裕佳氏によれば、そうした課題を解決するためのヒントが「障がい者の雇用」にあるという。これからの日本においてビジネスの持続可能性を高め、組織全体を強化する機会になるかもしれない障がい者雇用について、一木氏に語っていただいた。聞き手は、パナソニック コネクト株式会社執行役員の山口 有希子が務めた。

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一木 裕佳

セガサミーホールディングス株式会社 執行役員 サステナビリティ本部 本部長 セガサミービジネスサポート株式会社 代表取締役社長

多摩大学学長秘書を経て阪神・淡路大震災後の復興プロジェクトに従事。
株式会社ナムコ(現・株式会社バンダイナムコエンターテインメント)に入社。産官学連携事業や教育事業を立ち上げ、新規事業部を6年間統括。
特例子会社役員を経て2020年セガサミーホールディングス入社。2021年4月執行役員 サステナビリティ推進室長、2023年4月より現職。グループにおけるサステナビリティ・DEIを推進。また、2020年4月より特例子会社の代表取締役社長も兼務。障がい者の理解・雇用に関するグループ連携施策を推進。
※所属については取材当時(2023年9月時点)のもの。

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山口 有希子

パナソニック コネクト株式会社 取締役 執行役員 ヴァイス・プレジデント CMO兼DEI推進担当

パナソニックのB2Bソリューションビジネスを担うパナソニック コネクトのマーケティングおよびデザイン部門の責任者として、国内外のマーケティング機能を強化。カルチャー&マインド推進室 室長を兼務し、ビジネス改革・カルチャー改革にも取り組んでいる。日本IBM、シスコシステムズ、ヤフージャパンなど、複数の国内企業、外資系企業にてマーケティング部門管理職を歴任。
※所属については取材当時(2023年9月時点)のもの

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8人に1人が当事者の「障がい者雇用」は企業のサステナビリティに関わる重要テーマ

山口:今日は、久しぶりに一木さんとお話できるということで、すごく楽しみにしていました。パナソニックグループでも障がい者雇用を促進していますが、まずなぜ企業が障がい者雇用に取り組むべきなのかというそもそもの話から聞かせてください。

一木:一言でいうと企業のサステナビリティのためです。いま、発達障害まで含めると、「およそ8人に1人が障がい者」と言われています。働き始めてから、はじめて自分の障がいの特性に気が付いたという方も増えているんですよ。それに現在は、健常者であっても、事故にあったり、病気になったり、いつ自分が障害者手帳を持つ立場になるかもわかりません。

でも、「障がい者を含めて、すべての人が活躍できる会社をめざす」というメッセージを会社が強く発信してくれていれば、「たとえ自分がどんな状況になったとしても、この会社は受け入れてくれる。活躍のチャンスを与えてくれる」と、従業員の心理的安全性を担保できると思うんですね。

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セガサミーホールディングス株式会社 執行役員 サステナビリティ推進室長本部長 セガサミービジネスサポート株式会社 代表取締役社長 一木裕佳氏
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セガサミーホールディングス株式会社 執行役員 サステナビリティ推進室長本部長 セガサミービジネスサポート株式会社 代表取締役社長 一木裕佳氏
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山口:どんな従業員にも安心して長く働いてもらえる環境は大切ですよね。「障がい者の活躍」を従業員の方々に自分ゴトとして考えてもらうために、一木さんがこれまで取り組んできたことを教えてください。

一木:3年前にセガサミーに入社して、障がい者雇用促進の旗振り役を任されたときに最初にやったのが、グループ全役員を対象にしたユニバーサルマナー研修です。もちろん、CEOも参加。本社の受付のフロアを利用して、車いすで移動してみたり、視力や全身の筋力の低下を疑似体験できる高齢者キットを使って階段を上り下りしたり、その研修の様子を全従業員が自由に見学できるようにしました。

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ユニバーサルマナー研修の様子
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ユニバーサルマナー研修の様子(提供:セガサミーホールディングス株式会社)
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山口:すごい! 公開役員研修ですね。

一木:そう、事前に「ぜひ見てください」と全従業員に向けて告知しました。耳が聞こえない、目が見えない、身体が自由に動かない……という高齢者の状況がどんなに大変なことなのか、経営層にまず身をもって体験してもらいたかったんですね。高齢になるにつれ、誰でも身体に何かしらの症状がでてきますから。

山口:トップがそういう研修を受けている姿を見せれば、従業員にも会社として障がい者雇用やDEIの推進に力を入れていくというメッセージがしっかり伝わりますね。

一木:そのとき撮影した動画をCEOの提案でグループのイントラサイトにアップしました。それがものすごい反響で。フィジカルな研修なので注目されやすかったのですね。

当然、直接雇用している障がいのある従業員の方々も会場に見学に来てくれて、「こういう研修を全役員にしてくれてありがとうございます。会社が私たち障がい者の理解をしようとしてくれていることがとてもうれしいです」と言っていただいたり、「子どもに障がいがあって大変な毎日ですが、研修を見て障がい者雇用について情報をいただきたいです」というメールが従業員から届いたり、予想もしていなかった声がたくさん集まってうれしかったですね。今は人事部に引き継いで、管理職向けやグループの人事部対象の研修として実施してもらっています。

山口:障がいのある従業員だけでなく、障がいのある方がご家族にいる従業員の存在も忘れてはいけませんね。誰もが安心して働ける会社が増えるということは、誰もが生きやすい社会になるということでもあります。

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パナソニック コネクト株式会社 取締役 執行役員 ヴァイス・プレジデント CMO兼DEI推進担当 山口 有希子
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パナソニック コネクト株式会社 取締役 執行役員 ヴァイス・プレジデント CMO兼DEI推進担当 山口 有希子
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障がいの有無に関わらず、従業員一人ひとりの特性を理解することが大切

山口:一木さんは、セガサミーホールディングス株式会社の執行役員/サステナビリティ本部長でありながら、障がい者雇用の第一人者としてセガサミーグループの特定子会社「セガサミービジネスサポート株式会社」の社長も務められています。そもそも「特例子会社」とはどういうものなのか、読者の方にご理解をいただけるようご説明いただけますか。

一木:障がい者雇用の促進と安定を目的として設立される子会社で、障がい者の雇用について理解や経験のある人材の配置や、環境や設備に特別の配慮がされた会社のことです。国が定める「障害者雇用促進法」では、一定規模の事業主に、従業員数に応じて障がい者の雇用を義務づけています。その割合のことを「法定雇用率」といい、民間企業の法定雇用率は現在2.3%。つまり、従業員43.5人に対して、障がい者の方を1人以上雇用しなければいけません。

山口:つまり、435人いる会社だったら、最低でも10人は障がい者を雇用しましょう、と。

一木:そうです。その障がい者雇用の算定において、特例的に“親会社の一事業所”とみなされる子会社が「特例子会社」です。つまり、従業員435人の親会社が「障がい者雇用ゼロ」だったとしても、その特例子会社が10人以上の障がい者の方々を雇用していれば合算して法定雇用率を満たしていると認定されます。

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山口:パナソニックグループにも特例子会社がいくつかあります。民間企業の法定雇用率は、2024年4月に2.5%、2026年には2.7%と段階的に引き上げられることが決定しているので、今後、ますます特例子会社の役割は重要になってきますよね。

一木:0.2~0.3%の引き上げと聞けば、ごくわずかに感じますが、日本全体でみれば数万人の採用増加。首都圏に限っても、おそらく数千名分の障がい者の新規採用が必要になると思われます。定年などで退職する人数が一定規模ありますから、その分も加算すると相当な新規雇用数が必要です。こうした背景もあって、障がい者向けの転職・就職支援サービスも続々と登場していて、よりやりがいのある仕事、働きやすい職場を求めるという動きが活発になってきているんですね。

山口:とはいえ、多くの日本企業では障がいのある方々への理解が十分ではなく、採用率も海外先進国に遠く及んでいません。この原因は、どこにあるのでしょうか?

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話し合う一木氏と山口氏
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一木:特例子会社が企業の「法定雇用率」の“受け皿化”してしまっていることが大きいと思います。「法定雇用率」を導入している国は世界でも珍しくありませんが、特例子会社を制度化してるのは、私の調べた限り、おそらく日本だけ。この制度があるがゆえに、「障がい者雇用は特例子会社に任せておけばいい。自分たちには関係ない」というマインドの人がすごく多くなってしまったと思うんですね。

しかし、そもそも特例子会社は、障がい者の雇用促進と安定を目的として2009年にできた制度です。たとえば建設だったり、交通関係だったり、「危険を伴う場所での作業や、心身への負担が危惧されるため、 どうしても障がいのある方にやっていただく業務が十分にない」という会社が、「法定雇用率」をクリアできるように設けられた救済措置的な位置づけなのですよね。理想はあくまでも、各社が障がい者を直接雇用すること。しかし、それを忘れて、“法定雇用率の調整弁”として特例子会社を見ている人が少なくないのが残念です。

特例子会社も営利法人であり株式会社の形態ですので、採算性が求められます。親会社からの十分な理解やバックアップを得られないために、人事担当者と特例子会社の社長が必死になってやりくりして、なんとか雇用と経営を存続させている。そんなケースも珍しくありません。

山口:「障がい者雇用は他人ごと」と捉えられてしまうことは、本当に残念ですよね。DEIの考えとは、全く逆ですから。

一木:DEIというと、「女性活躍」「男性の育児参加」「LGBTQ+」「ワーキングケアラー」といったキーワードが注目を集めていますが、特例子会社の社長としては、「障がい者の活躍」も絶対に忘れてほしくないですね。「障がい者」というと「簡単に触れてはいけない問題」というイメージからか、ダイバーシティ推進においてつい“別物”として扱ってしまいがちですが、サステナビリティやDEIへの関心が高まっている今だからこそ、多くの方に関心をもってもらいたい。そう思っています。

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微笑む一木氏
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山口:採用側も、障がいのある方々にとって魅力ある企業になっていく必要がありますね。そのために大切なことは何でしょうか?

一木:やはり、「障がいのある方々への理解」です。一口に「障がい者」と言っても、「身体障害」「知的障害」「精神障害」の3つの区分があるうえ、その程度も人それぞれ。一定以上の障がいがある方に、その証明として発行される「障害者手帳」では、たとえば「視覚障害3級」などと等級で分けています。

しかし実際は、「軽度」の知的障害だったとしても、たとえば自閉症が重なっていたり、指先の動きが緩慢であったりと、手帳には表れない障がいがある方もたくさんいらっしゃる。等級は同じでも、一人ひとりまったく違うんです。

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山口:グラデーションですよね。健常者だって、みんなさまざまな“色”が入り混じって、その人を形づくっている。

一木:そうそう。だから大切なのは、障がいのある従業員一人ひとりの特性と向き合うこと。働きづらさの課題を把握し、その課題をどうサポートできるかを考え配慮するということです。なかには、法定雇用率を満たすために、「とりあえず採用して、仕事はあとから考える」という会社もあるようですが、それでは雇用の質を高める事が厳しいと思います。「この仕事を、あなたにやってもらいたいから採用する」。採用活動では当然のことですが、この順番が障がい者雇用でも大事だと思います。

障がいの特性を理解したマネジメントの知見をグループ全体で共有したい

山口:では最後に、障がい者の雇用がうまくいっていない会社に向けて、アドバイスをお願いします。

一木:もし特例子会社のあるような大きな会社だったら、そこが中心となってグループ全体の障がいのある方々の採用戦略を立てるのがいいと思います。そのためには、普段からとても勉強されている特例子会社のプロフェッショナリティを「グループ全体で共有する」という姿勢がいいのではないでしょうか。採用活動や定着支援、トラブル対応など、専門知識や資格を有するからこそのノウハウを共有しないのはもったいないというか。

たとえば、グループ会社が特例子会社に障がい者雇用に関するコンサルティング費用を支払ってもいいと思うんですね。そうすると、特例子会社がグループ全体の企業価値向上や持続可能性の実現にしっかり貢献しているという誇りを、さらに持てるようになるはずです。

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説明する一木氏
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山口:それは心強い。障がいのある方をマネジメントするには専門的な能力や知識が必要で、不安に思う管理職も多いですよね。でも、特例子会社の専門家がサポートしてくれれば、グループ全体で障がい者への理解が進み、結果として採用も増やせる。

一木:グループ全体の雇用と定着マネジメント力が高まるので、本当におすすめです。セガサミーグループの場合は、私が代表を務めている特例子会社のメンバーが、それぞれホールディングスの人事部長と人事課長を兼務しています。そして、これは他社にはない特徴だと思いますが、セガサミーグループ全社の各人事担当者が取締役を兼務していることで、取締役会では各社の雇用状況、相談ごとを共有し協力し合う体制が整っているのです。

つまり、グループ全体にある障がい者雇用の情報が、特例子会社に集まってくるしくみになっているんですね。それで私たちが中心となって、法改正の最新情報や他社の動向、採用ノウハウや人事制度をどういうふうにアップデートしていけば働きやすくなるのか、辞めずに定着してくれるのかといった戦略的な議論を行い、グループ全体で障がい者雇用を考えることができる環境がつくれています。

たとえば地方の拠点に、「法律なんだから、障がい者を積極的に採用しなさい」と指示しても困惑するだけですよね。本社ほど人事部の人数も多くないし、障がい者雇用の情報を専門的に勉強する余裕もない。その一方で、法律はどんどん変わっていく。知識不足で、悪気なく行ってしまったことがハラスメントや差別に抵触して、相手に訴えられてしまうなどの不幸な事例を防ぐためにも、グループ全体で知識を共有することは大切です。

山口:現場を守り、グループ全体の障がい者雇用を推進するためにも専門知識を持った人が、全体に教育、情報共有するというシステムをつくらなければいけないですね。では、特例子会社を持たない会社については?

一木:直接雇用することになりますが、理想的なのは、それぞれの障がいの特性にあった仕事をしてもらうことだと思います。なかには、ものすごい集中力を発揮して、地道な作業を黙々とやってくれる方も多いんですよ。

そのとき大切なのは、他の従業員と同じように、会社のパーパスやバリューチェーンにちゃんと繋がっている仕事を担当してもらうということです。やはり「会社が成長するために必要とされている」と実感できる業務であれば、人は頑張れますから。

山口:やはり大切なのは、一人ひとりへの理解ですね。今日、さまざまな話を伺って、DEI推進の一環として、パナソニック コネクトも障がいについて学び、理解することにつながる機会を増やしていきたいと思いました。相手の立場になって考えること。共感すること。それが障がい者雇用の第一歩だと、あらためて感じました。ありがとうございました。

一木:こちらこそ、ありがとうございました。

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誰しも年齢を重ねるにつれ、急な疾患や怪我といった身体的なリスクに直面する可能性は高まる。高齢化と人口減少が進む日本で、長きにわたって従業員から選ばれ、活躍してもらうために働きやすい環境の整備が急務だ。セガサミーホールディングス株式会社の執行役員であり、特例子会社「セガサミービジネスサポート株式会社」の代表取締役を兼務する一木 裕佳氏によれば、そうした課題を解決するためのヒントが「障がい者の雇用」にあるという。これからの日本においてビジネスの持続可能性を高め、組織全体を強化する機会になるかもしれない障がい者雇用について、一木氏に語っていただいた。聞き手は、パナソニック コネクト株式会社執行役員の山口 有希子が務めた。
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障がいの特性を理解したマネジメントと誰もが働き続けられる組織の実現を目指して
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取材・文:相澤良晃、写真:伊藤圭