パナソニック コネクトは2024年11月、ESG経営に関する取り組みをまとめた「サステナビリティレポート2024」を公開しました。制作を担当したサステナビリティ推進室のメンバーを代表して、CSuO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)で同室長の仲田百合と、チームメンバーの福岡奈央の2人に、サステナビリティ推進室の仕事内容や活動スタンス、「サステナビリティレポート2024」の見どころなどについて聞きました。
仲田 百合
パナソニック コネクト株式会社 執行役員 チーフ・サステナビリティ・オフィサー兼デザイン&マーケティング本部プランニング&オペレーション統括部ダイレクター。
2019年 パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社(現パナソニック コネクト)にキャリア入社。それ以前は外資系テクノロジー会社などで組織横断の企業変革プロジェクトやマーケティングオペレーション業務などに従事。2022年4月よりサステナビリティ推進室長。2024年4月より現職。
福岡 奈央
パナソニック コネクト株式会社 サステナビリティ推進室
2009年にパナソニックに入社。入社後は、国内家電の法人営業部門からインド販社のサポート部門を経て、MBA留学を経験。その後、経営企画・事業企画など企画部門にて業務し、2024年2月より現職。
サステナビリティはきれいごとではなく「経営課題」と位置づけて取り組む
最初に、サステナビリティを推進する意義についてどのようにとらえているのか教えてください。
福岡:私は今年2月に唯一の専任メンバーとしてサステナビリティ推進室の配属になりました。仕事として関わる前は、「サステナビリティ」と聞くと、すごく心のきれいな人たちが「慈善」や「ボランティア」の精神で取り組んでいる特別なものだと思っていたのですが、サステナビリティ推進室のメンバーになってから、そんな認識は間違いだということに気づかされました。
当初、仲田さんから「会社は、社員一人ひとりが100%の力を発揮できるように支援しないといけない。そのための施策がDEIであり、サステナビリティです」と言われたことが心に残っています。
仲田:私もそのときのことは、よく覚えています。福岡さんが「なぜコネクトはこんなにDEIに力を入れているのか?」と質問してくれました。たとえ話として「もしあなたが10人の部下を持つマネージャーだとして、仮にいろんな制約から一人ひとりが60%の力しか発揮できなければ、結果として6人分の仕事しかできない。でも、そういう制約をとっぱらって120%の力を発揮できる環境にしていけばもしかしたら12人分の仕事をこなせるようになるかもしれない。それは会社の業績にも、あなたのチームの成績にも直結する問題だよね? こういう制約をいろいろな面でなくしていこうというのがDEIで、これはまさにビジネスの問題なんです」と話したら、ものすごく納得してもらえたんですよ。ただ、付け加えると、推進室のメンバーは本当に皆すごく心のきれいな人たちばかりです(笑)。
組織で働く個人として、とても理解しやすいです。一方で企業のスケールでは、サステナビリティをどう捉えているのでしょうか。
仲田:今は地球上の皆で資源を維持していくという、人類共通の課題がありますよね。企業にとってはその解決に向けて取り組む義務があると同時に、サステナビリティの課題解決がビジネスチャンスにもつながっていくと思うんです。そのチャンスをつかまないことには企業の成長につながらない。だからサステナビリティは経営の課題なんです。
一方で、サステナビリティやDEIというと、昔ながらの「企業の社会的責任」「CSR」といった文脈で「誰かがやってくれる」「自分の仕事には関係ない」と捉えられてしまうこともまだまだ多いです。そんな考えをアップデートしてもらえるよう社内外に発信していくことも、サステナビリティ推進室の重要な役割です。
では、実際にどのような活動をされているのでしょうか。
仲田:いろいろありますが、今力を入れているのは、各事業の「サステナビリティ価値翻訳」です。コネクトの事業領域は多岐にわたっており、実にさまざまな商材があるのですが、その多くはまだ「サステナビリティ」という軸でお客さまに価値を十分にアピールできていないんじゃないかと思っていて、各事業部で価値翻訳の取り組みを進めてもらえるよう旗振り役をがんばっているところです。
たとえば、単に「省エネ」と言われるよりも、「消費電力を20%減らしたことで、年間CO2排出量換算で18%抑えられる」と言われた方が、持続可能な社会に貢献できるいい商品だと思いませんか? あるいは、「モジュラー構造を採用し、必要に応じて部品交換することで製品を長期使用できるため、サーキュラーエコノミーに寄与します」と説明してもらえたら、循環経済的な利点を具体的に理解できますよね。
理想は、売り出し方だけでなく、設計・開発段階からそうした「サステナビリティ価値」を各事業部門の担当者によりいっそう意識してもらうことです。お客さまのサステナビリティ経営に貢献することを軸としたものづくり・サービスづくりを推進するために、さまざまな啓発活動やガイダンスなどの取り組みも行っています。
また、世界の最新動向を社内にきちんと伝えていくことも重要な役割だと思っています。9月にはニューヨークで開かれた「世界経済フォーラム」主催のサステナビリティ会合に行ってきました。アフリカのネイチャークレジット(生物多様性クレジット)の導入を検討している国の政府関係者や、大規模なグリーン投資を行っている財団の最高財務責任者といった面々が登壇したディスカッションを聴講し、彼らが企業に何を求めているのかがよくわかりました。
世界的な潮流の中にどんなビジネスチャンスがあるのか、コネクトの成長にどうつなげていくのか。それを各事業部の方々に考えてもらえるように、情報収集して発信していきたいと思っています。「翻訳」をお願いしたり、流行りのネタを拾ってきたりと、例えるならば「編集者」のような役割かもしれませんね。
あえて部門横断型の兼任体制でメンバーを構成し、全社を巻き込む
お二人がサステナビリティ推進室の所属になるまでの経歴を教えてください。
仲田:これまで、外資系のテック企業数社に勤めてきました。主に営業とマーケティングの領域の担当です。パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社(当時)に入社したのは2019年で、それまでの経験を生かしてマーケティング職能改革、デザイン組織改革などさまざまな部門横断プロジェクトに取り組んでいました。
そして2022年4月のパナソニック コネクトの設立に際し、新たにサステナビリティ推進室を立ち上げるということで室長に任命されました。実は室長就任を打診されたときには、お受けするか迷いました。「環境」の知見が深いスペシャリストか、あるいは企業戦略の一環としてサステナビリティを推進できる経営戦略の専門家といった方のほうが適任だと思ったのです。
しかし、詳しく話を聞いてみると、「サステナビリティ推進室に期待しているのは、すでに各部署が始めているサステナビリティの取り組みをつないで、コネクトとしての進むべき方向を示す旗振り役」とのこと。それであれば、部署と部署を繋いでワンチームとして多くのプロジェクトを進めてきた私の経験も生かせると思って室長を拝命し、現在に至っています。
福岡:私は2009年の新卒入社です。最初は国内マーケティングの配属になり、主に家電の販売促進のため量販店への営業や販売スタッフの教育研修などを担当していました。3年目には海外マーケティングのインド担当に。月に1度ほどインドに出張しながら、現地の子会社のマーケティング支援を行うという仕事でした。
その後、派遣制度で2年間、新潟にある国際大学に通ってMBAを取得しました。本社に戻ってからは経営企画部に配属され、Blue Yonderのサプライチェーンソリューションの導入促進の担当になりました。しかし、学んできた経営に近い仕事に挑戦したいと考えていたこともあり、キャリアを模索していたときにちょうどサステナビリティ推進室で人を募集しているということだったので、異動を希望しました。
仲田:実は、福岡さんがサステナビリティ推進室で初の専任担当者です。現在8人いるメンバーのうち、7人が他部署でリーダー格として活躍している兼任者。私もデザイン&マーケティング本部でプランニング&オペレーション統括部ダイレクターという肩書も持っています。
なぜそれまでは専任体制を採っていなかったのでしょうか?
仲田:専任体制にすると「人任せ」になってしまうからです。パナソニック コネクトは、企業価値を高めるための経営戦略の一環としてサステナビリティを推進しています。全事業部門、全従業員がかかわる取り組みで、一部の人たちだけが頑張ればいいというものではありません。「自分ごと」として各部署を巻き込んでいくために、推進室設立当初から兼任体制を敷いています。
それに、各部門に所属する兼任者の集まりだからこそ推進室内で全社的な情報共有がなされ、コネクト全体としてどのような方向性でサステナビリティを推進していくか、現場の状況を踏まえた建設的な議論ができます。
しかしそうは言っても、最近は法人のお客さまから「人権に配慮したサプライチェーンを構築できているか」「CO2排出量はどのくらいか」といった問い合わせが増えています。以前は各部門の営業担当者などが個別に調べて対応していたのですが、これほどまでに調査依頼の問い合わせが増えてくると、窓口をひとつにしたほうが効率的ですし、精緻な調査に基づく公式見解をあらかじめ用意しておいたほうがスピーディーに対応できます。こうした実務を専門性を持って対応していくために、専任担当者も配置しました。
「サステナビリティレポート2024」では人事戦略KPIをグローバルレベルに設定
最近、サステナビリティ推進室が制作した「サステナビリティレポート2024」が公開されました。その概要を教えてください。
仲田:パナソニックグループでは、グループ全体のESGに関する取り組みをまとめた報告書「サステナビリティ データブック」を毎年公表しています。そこにはグループ全社共通で計測・集計できるデータが掲載されていますが、それを補足する位置づけで、パナソニック コネクトとして進める固有のサステナビリティ施策・取り組みをご紹介する「サステナビリティレポート2023」を昨年初めて制作しました。「サステナビリティレポート2024」は、その改訂版にあたります。
一番の特徴は、社内の取り組みだけでなく、ビジネスを通じてお客さまのサステナビリティ経営に貢献する事例を多数掲載していることです。
たとえば、コネクトのグループ会社であるBlue Yonderでは、輸送管理システムを提供しています。それを導入すれば配送ルートが最適化されてトラックの走行距離が短くなり、結果的にガソリンの使用量が減ってCO2排出量が削減されます。
同じくグループ子会社であるZetesの「配送見える化ソリューション」を導入したお客さまの例では、従業員の荷主問い合わせ対応を月1150時間、ドライバー・配車担当間の対応を月2760時間削減し、労働効率を改善しました。また気候変動による災害発生への対応として、官公庁や自治体用に防災ソリューションをご提供し、安心・安全なまちづくりの推進にも貢献しています。
こうした社会的インパクトのある具体的な事例を掲載できるのは、BtoBソリューションを主幹事業としているコネクトならではです。
2024年版の見どころは?
仲田:まずは、事例を増やしたことです。事業を通じたサステナビリティ経営への貢献をより深く知っていただけると思います。
もうひとつは、人事戦略のKPIを明確に示したことです。これは人事部門と一体となって、想いを持って議論を繰り返し、他の経営陣も巻き込んで練り上げた内容になっています。2023年版でも、EOS (Korn Ferry社の従業員エンゲージメントサーベイ)の「従業員エンゲージメント」のスコアなどを掲載していますが、2024年版ではより能動的に、2027年度までに達成すべき人的資本経営の数値目標を設定しました。持続的な企業価値の向上につながる「従業員エンゲージメント」のスコアを2023年度実績68.5ptから80.0ptに、従業員がキャリアオーナーシップを持つ未来作りにつながる1人あたりの学習時間(年間)を2023年度実績21.68時間から40時間(約1.8倍)にするといったもので、これらの指標は「人的資本をグローバルトップカンパニーと並ぶ水準まで高める」ことを意味しています。これは社外へのアピールだけではなく、コネクト従業員へのメッセージでもあります。
コネクトはESG(環境、社会、ガバナンス)の中でも、ハラスメント撲滅や人権尊重などSocial(社会)の領域で一歩踏み込んだ取り組みをたくさん行っています。「サステナビリティレポート2024」を通じて、コネクト社内やグループ各社はもちろん、お客さま・お取引先さまを始めサステナビリティ推進に取り組まれている皆さまにも広く、わたしたちの取り組みを知ってもらえたらうれしいですね。ぜひご参照ください。
最後に今後の目標についてお聞かせください。
福岡:私自身、推進室のメンバーにならなければ、おそらくサステナリビティの実体を理解できていませんでした。コネクトの成長のために「サステナビリティ」や「DEI」が欠かせないということを、いろいろ工夫しながら従業員の皆さんに伝えていきたいと思います。
仲田:サステナビリティの推進は、世の中の動きに合わせて柔軟に進めていくことが大切だと思っています。大きなロードマップを描いて、それにしたがって着実に進めていくことも大事かもしれませんが、何か課題が見つかったら、経営層や関連部署と相談してすぐに手を打つ。そうした体制を構築してくれた上層部にまず感謝したいと思います。会社全体で前進していくという意識を忘れずに、これからも旗振り役を頑張っていきます。
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